表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/105

第二十二話 ルガルガ・サウス

 翌日になって二人は、その例の怠け者の少女に会いに行くことになった。

 昼間のガルディス村は、畑仕事をするホタイン族など、それなりに人の姿はあるが、あまり多くない。外との出入りが極端に難しくなった影響だろう。これまで見てきた村とは、対照的な様子である。

 そして宿の店員に聞いた、その少女の家を訪ねる。


「家の娘にレグンと霊術士の方が、ご用とは一体……」

「まあ、こっちに色々ありまして」


 大きな倉庫が隣にある農家の玄関で、その少女の父親に事情を話す。ただでさえ、今のこの村に客人とは珍しいのに、あまりに意外な人物との面会希望に、ちょっと変に思われた。


「あの子なら、今頃村の外れの池の方にいますよ。学校が休校になってからというものの……ほとんど家の中に閉じこもってたのに、何故か最近あっちのほうにいるんですよ。一体何を考えてるんだか……」

「そうですか。ありがとうございます」


 主人に礼を言い、彼らはすぐにその池に向かう。その池は、村の外れのほう、畑と塀との合間にある溜め池だ。楕円形の形をしており、岸辺には雑草だらけ。あまり使用されていないのか、自然の池と区別がつかない。

 さてその岸辺の一番高いところに、その人物はいた。雑草を毛布に寝ているようだ。近くには家から持ち込んだらしい、本が粗末に並べられている。


「ルガルガ・サウスね? ちょっといいかしら? 起きてる?」


 最初から起きてたのか、呼ばれてそのホタインの少女は、すぐ起き上がる。

 身長は170㎝ほどで、結構背が高い。顔立ちからして、十代後半だろう。白いTシャツの上に、赤いジッパー付きのベストを着込んでいる。下には短いジーンズのようなズボンを履いている。

 露出した手足には、細身ながらもしっかりした、プロボクサーのような立派な筋肉が張っている。怠け者と言われていたが、これを見ると、本人はそれなりに鍛えているようだ。

 全体を見た感じ、特に何の変哲もない、ホタイン族の一般市民の女性である。


「私はハンゲツ・マックギニスで、こっちは春明よ。旅の仲間を探してるんだけど、あなた私達と一緒に来ない?」


 綺麗な笑顔で、すらすらと話すハンゲツ。ゲームでは向こうから仲間入りを希望したのに、こっちではこちらから勧誘している。


「おお、お前らか……あのチビが言ってた奴らって……」


 何だかこちらを面白そうな目で見ながら、初めてその少女=ルガルガが、口を開いた。ちょっと口が悪いが。


「あのチビ?」

「何日か前に、俺の所に変な奴が来たんだよ。フード被って、顔隠して面つけてる、何だか胡散臭い女だったぜ」


 とっても聞き覚えのある特徴であった。どうやらこのルガルガが、ゲームキャラに該当する配役で、間違いないようだ。


「そいつがしばらくここで待ってりゃ。俺を旅に誘ってくる奴がいるってさ。そいつについていけば、滅茶苦茶強くなれる。きっと天者より強くなって、一生楽に暮らせるってさ」

「それで待ってたのか?」

「ああ、他にやることなくて、暇だったしな。友達も皆、他所に行っちまったし……」

「いや畑仕事ぐらい手伝えよ。お前怠け者ってことで、村から変に言われてたぞ?」

「食い物なんて、外で化け物を狩ってりゃ、いくらでも見つかるだろうが。俺は野菜より肉がいい!」


 肉を~~の部分をやけに強調して言うルガルガ。彼女の好みはともかく、今の時代の食糧問題に関しては、確かに言うとおりだ。

 無限魔出現以降、世界中の食糧自給率は、危機に陥るどころか、逆に増加している。各国で無限魔の体組織を研究した結果、無限魔の肉は、毒などを持つ一部の種類を除けば、食用にしても何の問題もないことが判明している。

 実際に食べてみると、高級食材の肉などよりは劣るが、普通の食べられる良い味であったという。それ以降、食用の為に、無限魔が大量に狩られた。

 ご存じの通り、無限魔はどんなに殺しても、決して減ることはない。まさに狩り放題の、永久資源である。そのため世界では、食肉製品が、野菜・果物より安価になっているところが多い。

 その一方で旧来の畜産業は、衰退を始めている。


「いや、食べ物が肉ばっかりじゃ駄目だろうが。ちったあ、健康ってもんを考えろよ……」

「だったら、たまにその辺の草食ってりゃいいじゃん!」


 ルガルガの方も、何やら向きになって答える。村の人からも散々言われたことを、余所者からも言われて苛立っていた。


「牛かよ、お前は!」

「そうだ! 俺は牛だ!」

「いや、お前らは牛型の獣人であって、根本的には人だろう!? 種族侮蔑を自分で言うな!」

「そんなの気にする方が馬鹿だろうが!」

「ねえ……長くならないうちに、話しを戻さない?」


 話しが関係ない下らない方向に行きかけたのを、ハンゲツが指摘して、二人はハッとして口ごもる。そして言われた通りに、最初の話題に切り替えた。


「そんで実際のとこ、どうなんよ? 本当に天者より強くなれんの?」

「天者ってのは、どの程度の強さかしらねえけど……まあ、少なくとも今より強くなれるはずだぜ」


 以前自分のレベルに浮かれて、その後の現実に愕然とした経験もあって、春明はやや控えめにそう答えた。


「どうやってだ? 何か秘密の修行でもすんの?」

「いや、俺たちとパーティーを組んで、ひたすら無限魔と戦えばいい。時間はかかるけど、間違いなくレベルアップして強くなれるぞ」

「無限魔とひたすら戦う? それなら俺、もうとっくにやったぞ?」

「俺たち組むと違うんだよ。何なら今から一緒に、外の化け物を狩らないか?」

「アホくさ、もういいや!」


 ルガルガは、足下にあった本を纏めて拾い上げる。そして春明達に背を向けて、農道へと歩いて行った。


「どこいくんだよ?」

「家に帰るんだよ。じゃあな……」


 そう言って、さっさと行ってしまった。もうこちらへの興味をなくしたようだ。


「勧誘失敗ね……。早速ゲームのシナリオからずれたわね」

「そんなの最初からずれてるよ。ゲームでは、あいつは正義感の強い、活発な女だったし。まあそれはなくても、普通どこの誰かも知れない奴からの紹介なんて、受ける奴なんていねえだろ」

「そうね。そんなの受けるの、私みたいな変わり者ぐらいかしら?」


 変わり者という自覚はあったのか……。それを意外に思いながら、小さくなっていくルガルガの背を見送っていたら、ハンゲツがふとあることを不思議に思い、口にする。


「でも変ね……そのフード女。何でわざわざあいつを、こんな所に待たせたのかしら? 私らと合流させるだけなら、別に家の中で待たせても……」


 その言いかけたところで、遠くの方で、何やら騒がしい声が聞こえてきた。


「うわっ、何だよお前!?」


 声を発したのは、農道の向こうのルガルガ。いったい、いつの間に現れたのか、ルガルガの進行を遮るように、農道の真ん中で何者かが仁王立ちで立っている。


(あれは!?)


 それは重そうな騎士風の甲冑を着た、謎の人物である。全身が銀ぴかの光沢を放っており、まるでロボットのようだ。両腰には、ロングソードの鞘が差されている。

 背はルガルガより高く、遠くから見ても、結構大柄な人物だと判る。しかもその甲冑男、腰の物を既に抜いており、両手にロングソードの二刀流で、ルガルガに斬りかかった。


「ひゃあっ!?」


 ルガルガが大慌てで、その剣撃を避けて、こちらに向かって逆走してきた。その甲冑男は、その後を特に急がず、ガシャガシャと金属が擦れる音を立てながら、歩きながら接近してくる。

 何てこと。この静かな村で、謎の通り魔が出現した大事件である。


「おおいっ! 助けてくれ!」


 言うまでもないが、丸腰のルガルガに、あれをどうにかできるはずがない。こちらに助けを求めて走り寄ってくる。


「判った、任せろ!」


 あまりに唐突に現れた、謎の脅威に困惑するものの、これは彼女に恩を売るチャンスだ。春明は張り切って答え、刀を抜いた。

 ルガルガは、春明達の後ろの池の方に隠れる。そして春明とハンゲツが、武器を構え、こちらに歩み寄ってくる甲冑男に問いかけた。


「おい、お前なんだ! ルガルガに何か恨みでもあるのか? あいつに男遊びする趣味があるにような見えないけど!」


 甲冑男は何も答えない。フルアーマーの彼の顔は、仮面に覆われていて見えない。だがそこから感じられる気配は、春明が今まであってきた人や無限魔とは、どうも異なっていた。


「何か変だな? あいつ幽霊みてえ……」

「みてえ、じゃなくてあれは幽霊よ。あれもはぐれ幽霊かしら?」


 実は春明は、この甲冑姿の幽霊に覚えがあった。本来ゲームで戦うことになる、人を襲う幽霊が、まさにこんな姿なのだ。

 甲冑幽霊は何も喋らないままに、いきなり強く足を踏み込んで、春明達に斬りかかってきた。


「ガードアップ!」


 ハンゲツは即座に、予め用意していた魔法を唱える。〇マークのついた幽霊亀が、春明に憑依し、彼の全身を亀の甲羅のように堅くする。


 ガキン!


 放たれた甲冑幽霊の二振りの剣撃を、春明が刀で受け止めた。


「ぐあっ!」


 春明はその攻撃を受け止めることはできたものの、両手にかかる重い衝撃に、強い痛みを味わう。そこそこレベルを上げて、常人よりは遥かに高い身体能力を持つ春明だが、この甲冑幽霊は、それよりも上を行っていた。

 恐らくハンゲツのステータス強化がなければ、一発で弾き飛ばされていただろう。


「はぁあああっ!」


 ハンゲツが気合いを込めて、次の魔法を二連発だ。自分と春明に対して、『スピードアップ』である。今度は〇マークの幽霊馬が、彼らの中に入る。


 キィン!


 春明が刀の向きを変えて、甲冑幽霊の剣撃を受け流す。そしてそこで大きく後ろに飛び跳ねて、敵の次の剣撃を躱す。

 その内にハンゲツが、もう一発スピードアップを春明にかける。敏捷性上昇のステータス上昇付加を、二重にかけてもらい、普段より遥かに素早く動けるようになった春明。その素早さで、次々と繰り出される、甲冑幽霊の剣撃をどうにか回避する。

 ゲームにおいては、敏捷性の高さは、1ターンにおける行動の順番を決める数値であった。だがこの世界では、ターンや行動順番という概念がなく、敏捷性上昇は回避率を上げる効果を強く持っていた。


 敵の攻撃は春明の方に向いている。ハンゲツは彼らと少し距離を取りながら、春明に次々とステータス上昇付加の魔法をかけていった。

 春明にアタックアップを二回、更にガードアップを一回かける。ちなみにステータス上昇効果は、一人につき一種類二回までだ。これはゲームの仕様と同じである。


「はぁああああっ!」


 幾つものステータス上昇効果で、全身に燃え上がるような力を沸き上がらせる。そして今までのように逃げの一手をやめて、こんどはこちらから踏み込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ