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第十四話 救出と銃

 それからまもなく、彼は村の中のある目的地に辿り着いたのだが……


「何か勝手に治ったな……」


 一応病院に行こうと思い、人から話を聞いた春明は、その病院の前に立っていた。赤い手裏剣のようなデザインの旗が掲げられた、他の家屋よりもとりわけ大きい建物だ。

 この赤い手裏剣マークは、元の世界の、残虐な独裁国家のマークに似ていた。これはゲール王国を初めとした、このテツ大陸全土の医療機関で使われているマークだ。

 あの憲兵から聞いた話では、このマークのことで、リーム教国と一悶着あったらしい。


 それはともかく、彼がその病院の前に立ったとき、試しにステータスを見たところ、この病院に入る必要はなくなっていた。

 何と彼の自己状態ウィンドウの、髑髏マークが消えていたのだ。あれからしばらく経ち、HPが減ってくると、再び彼は気功治癒を使い回復した。

 それからしばらく歩いて、この病院に辿り着いたところ、こんな風になっていた。


(時間経過で回復するのか? そんなことって……ああ、あるか)


 毒を受けたのに、いつまでも死なず、時間が立ち続ければ、当然身体の毒は中和される。生き物には元々、毒を治癒する力が備わっているのだ。

 ゲームのように、対策をしない限り、永久に続く毒物などあるわけがない。


(どのみち毒が厄介だから、対策はしといた方がいいな。……それにしても、知れば知るほど、この世界って、ゲームとは全然違うな。現実の世界に、無理矢理ゲームの法則を当てようとしている変人は一体何者だ?)


 毒は治ったが、知りたいことがあって、彼は病院に入った。病院の内部は、元の世界の病院と似たような感じである。

 入り口の直ぐ前に、待ち受け用の椅子が多く並べられており、そこにこの病院に用があるだろう人々が、大勢座っている。椅子の向く先には、テレビもあった。

 働いている看護師と思われる者達は、元の世界と違い、黒を基調とした作業着のような服を着ていた。彼は受付に向かい、そこで聞いてみた。


「ええと……無限魔から受けたような毒を、治せるような薬ってありますか?」

「ええ、ありますよ」


 受付はあっさりと答える。てっきり「そんなもんあるか!」と突っ込まれると思ったら、意外な回答であった。

 この世界では、無限魔や危険生物に備えた、魔法薬などの様々な薬品が、何処でも買えるらしい。彼は紹介された薬局に向かい、様々な薬を大量に買い込むことになる。







 春明がこの村に来てから、十二日の時間が流れた。この時村では、ちょっとした騒ぎが起きていた。それは春明が泊まっていた宿から、憲兵所にある情報がもたらされたのきっかけである。

 村の入り口近くの森を、数人の武装した憲兵が、険しい顔をして見つめている。周りにも話しを聞いた村の住人達が、コソコソ話しながら集まってきていた。


「やはり直ぐにでも捜索に行った方が……」

「馬鹿! 偵察からの報告を、ちゃんと待て! あの森は無限魔の巣窟だぞ! 例えこの地区が最弱レベルとはいえ、油断すればかえって犠牲者を増やす!」

「くそっ! やはりあの時、無理をしてでも保護させるべきだったか……」


 憲兵達が緊迫した様子で、そう口をかわす。この村での騒ぎの原因。それはこの村に止まっていた、十代前半と思われる少年が、ここ数日宿に帰ってきていないというのだ。


 彼は最初に泊まってから、弁当や薬を買い込み、日中はどこかに出かけ、夜間に疲れた様子で帰ってくる。そんなサイクルを繰り返していた。

 途中で宿泊期間を増やすための、追加宿賃などを払っていたが、彼が日中何をしているのか、全く判らなかった。


 だがある時、彼は宿からいつもより大量の弁当を買い込んで、そのまま五日以上、宿に戻ってこなくなったという。勿論宿の宿泊期間は、まだ残っている。

 報告を受けた憲兵が、聞き込みをしたところ、少年が無限魔のいる森の中に入ったという目撃証言がとれて、すぐに捜索の準備が始まった。


 現在森の中の状況を確かめようと、幽霊の憲兵が偵察に向かっていた。幽霊は非実体化すれば、例え無限魔にやられても平気なため、こういうときに重宝される。


「ところで廃館の霊術士に関しては、後回しでいいんでしょうか?」


 報告を待っている間、一人の憲兵が、上司に今思い出したことを聞いてみる。

 彼が言ったのは、ここ十日以上にわたって、森の中の廃館で寝泊まりしている、謎の霊術士の女のことである。そこに居座って何をしているのかは不明。

たまに食糧を買いに村に来るのだが、その時の彼女の様子は、日に日に不機嫌な表情を強くしていた。一度帰りの道で「あのクソガキがぁーー!」と声を張り上げている場面も目撃されている。

 彼女の謎の行動に、不可解に思った住人から、つい先日相談を受けていたのだが……


「廃館の浮浪者など捨て置け! 今はこっちの方が優先だ!」


「おい! 来たぞ!」


 そうこう話している内に、森の中から、人魂のような丸い発光体が、宙を浮きながら、村に戻ってきたのが見える。

 これがその偵察に向かった幽霊憲兵である。彼は早速仲間に、偵察の結果を報告する。


「あの春明という少年は無事です。今現在、森の無限魔と戦っているようですが……」

「ぬう、そうか! 一刻の猶予もない! すぐに救出にいくぞ!」


 そう言って、武装した憲兵達が、次々と森の中へと入っていく。周りの村人達からも、応援の声が上がっている。


「ええと……多分あの子は大丈夫かと」


 最も幽霊憲兵は、やや呆れたような口調で、そう口にしていたが。







 その心配されている春明はどうしているのかというと……戦いをめっさ楽しんでいた。

 村から大分離れた森の奥には、まるで合戦の後のように、多くの血と死体が、一帯を埋め尽くしている。既に腐敗が始まっている死体もあり、かなり鼻につく匂いも漂っている。


(ははははっ、これは楽しい! いつまでも続けていたいぜ!)


 春明の周りには、十数匹のモンスターが、彼を取り囲んでいた。魔の卵から出現するモンスターは、一度に1~3匹なので、普通ならこういうことはない。

 ここ数日の戦闘で判ったことがある。どうやら無限魔と戦闘中の間も、他の魔の卵が接近してくることがあるということ。

 そうなった場合、一度に魔の卵数個分の無限魔と戦わなければいけなくなる。これもゲームではなかったことだ。

 実は最初に村を目指して森を歩いたときに、一カ所にかなりの数の魔の卵が徘徊しているのを見たことがある。この時は、嫌な予感がして、何としても戦いを避けたのだが、それは正しかったようだ。

 だが今は、その危険地帯に、自ら飛び込んでいるのだ。


「ギシャアッ!」


 春明の背後を狙って、3匹のトカゲが飛び込んできた。彼は瞬時にその動きに気づき、足を回し 身体を独楽のように回転させて、振り返った同時に、そのトカゲの一匹の切り裂いた。

 さらに他二匹の突撃も、ヒラリと躱し、瞬く間に二匹の首を撥ね飛ばす。春明が方向転換したの狙って、空を飛んでいた巨大蜂達が、次々と毒針を発射した。

 彼はそれも瞬時に見切り、数発を横飛びで避けて、残りの数発を曲芸の剣技のように刀を細かく振るい、全て払い飛ばした。この圧倒的な反応と、運動速度は、以前の戦いでは考えられないものであった。


 次にネズミとジェリー達の数匹が、一斉に彼に突撃する。だが彼は全く臆さない。彼らの攻撃を容易くかわし、その敵達を次々と斬り伏せる。

 以前は数発の攻撃を与えねば倒せなかった敵だが、今は一撃で簡単に殺していた。


 残る敵は上空にいる、巨大蜂が六匹。彼は近くの刀を大地に刺して手放し、近くに放って置いた弓を拾い上げる。

 そして巨大蜂目掛けて、光の矢を放った。その数は十数発。連続して高速連射をしたのではなく、一回の射撃で、一気に大量の矢が発射されたのだ。

 弦を離した瞬間に、一本の矢が、花火が飛び散るように分散して、大量の光の矢が、散弾銃のように放たれた。

 これは百撃矢(ひゃくげきし)と言う、彼がついさっき覚えた攻撃用スキルだ。彼はレベルを上げ続けて、攻撃用のスキルも幾つも会得していた。


 ドス! ドス! ドス! ドス! ドス! ドス! ドサッ! ドサササッ!


 実に心地よい撃墜と墜落の音が、連続して同時・連続して聞こえてきた。


(はははっ! 蜂がどんどん落ちていく!)


 矢を貫かれた巨大蜂達が、ただの虫のように、バタバタと落ちていく。彼らを貫通した矢、外した矢は、全て森の奥へと飛んでいき、樹木の幹を突き刺さる。

 この百撃矢は、ゲームでは一度に敵全体に弓属性攻撃を加える、全体攻撃スキルであった。この場合は、流石に敵全部とまではいかないが、空を飛ぶ敵を纏めて始末するには充分のようだ。


 彼はここ数日、魔物との戦いを楽しんでいた。敵はどんなに殺しても、いくらでも湧いてくる。そして春明は、そんな魔物をほとんど休まず戦い続けた。何千匹の無限魔を倒したのかなど、もう判らない。

 途中で攻撃を受けて服が破れたり、斬りすぎで刀の刃が摩耗したりもしたが、気功治癒を行えば、身体と一緒に装備も回復する。通常攻撃のSP回復と併用すれば、彼はほぼ無限に戦うことができた。


 最初の辺りは、ある程度戦うと、回復が追いつかなくて、宿に戻ったりしていた。だが戦い続ける度に、レベルを上がり続け、それによるステータス上昇の恩恵が、はっきり見えるようになった。

 運動能力や五感が以前よりも発達し、トカゲの機敏な動きも簡単に見切れる。以前は直ぐには倒せなかった相手も、一撃で殺せる。

 そしてさっきのように、一度に複数の敵に囲まれても、問題なく倒せるようになった。


 敵を全て倒し、その場で僅かの間の静寂が訪れる。彼はそこで、武器を刀に持ち直してから、自分のステータスを確認した。


《春明 Lv40 HP 450/498 SP 140/190》

《可能装備  武器/刀・槍・弓   身体/和装・和鎧・プロテクター》

《武器/名も無き打刀  身体/白い着物 装飾1/幸運の麒麟像  装飾2/   装飾3/   》

《攻撃力/620  防御力 244  魔力 69  敏捷性 54 感覚 50》

《獲得経験値 805/100000》

《スキル   集中 0  気功撃 12  気功矢 12  気延撃 20  飛斬 20  百撃矢 30》


 以前よりも、ステータスが3倍以上に上がっている。確かにこれは強くなった。それにスキルも随分と覚えた。もうこの辺りのモンスターなど、彼の敵ではない。

 春明は自分の強さに陶酔し、すっかり浮かれ上がっていた。彼の身体はすっかり、敵の返り血でずぶ濡れである。そんな姿で、彼は笑顔で次の敵が現れるのを待った。


(お~~~し、まだまだ! ……おや?)


 彼はふと、こちらに近づいてくる。無限魔とは異なる気配に気がつく。レベルが上がって、感覚能力が上がった影響からか、この手の細かい気配にも気がつくようになっていた。


「お~~い、春明君! どこにいる! 助けに来たぞ!」


 そして人の声も聞こえてきた。恐らく村の者であろうが。


(助けに来た? あっ!)


 春明はそこでようやく気がついた。彼は宿に説明せず、何日も帰っていないことを。通常ならば、子供が山に入って、何日も帰ってこなければ、当然こうなる。


 ゲームではどんなにダンジョンに篭もっても、このようなことはなかった。NPCは基本プレイヤーが一定の行動を起こさない限り、何もしないのだ。

 だがここは異世界ではあるが、ゲームの世界でない事は、もうとっくに判っている。


 春明は回復魔法で、自分の傷と服の破損と汚れを直す。足下に置いた弓を、アイテムを入れる謎の空間(アイテムボックスと仮称)に入れる。

 そして少し慌てて、憲兵達がいるところへと駆け寄った。


「はい、俺は無事で……しまった!」


 彼が森の中で、憲兵の姿を見たとき、その時再発生した魔の卵の一つが、その憲兵達の前に立ち塞がっていたところだった。

 魔の卵は、憲兵の前で一匹のトカゲに変じた。そして憲兵目掛けて、飛びかかった。彼は助けようとするが、ここからでは間に合わない。離れた敵を攻撃できるスキルはあるが、ここから撃つと憲兵まで巻き添えしかねない。

 どうすればいいのか判らないまま、トカゲの牙が憲兵に襲いかかったとき。


 パン! ドサッ!


 終わったのは一瞬だった。一人の憲兵が、所持していた拳銃を撃ったのだ。それは元の世界にもありそうな、黒いセミオートマチック型の銃だ。

 憲兵がこちらに襲い来るトカゲに、慣れた手つきで一発発砲。するとトカゲの胸に穴が開き、血が吹き出て、そのままあっさりとトカゲは倒れてしまった。


(えっ? えええっ!?)


 これに驚愕する春明。憲兵はそんなこと何でもないように、倒れたトカゲを通り越して、春明の元へと駆け寄る。


「君っ! ここで何してるんだ!」


 自分の身を気遣った優しい憲兵が、何か説教しているが、春明にはそれがあまり耳に入らなかった。

 彼の視線には、先程の発砲で、あっさりと死んだトカゲの姿がある。腹についた銃創から、血がトロトロと流れ、地面を濡らす。もうその身体が動くことはない。


 このトカゲ、以前春明が矢で射た時は、あまり矢が刺さらず、すぐに倒せるほどのダメージは与えられなかった。

 だがこの憲兵は、拳銃一発で、あっさりとトカゲを倒してしまったのだ。


(もしかして……最初の俺の矢って……拳銃よりも威力が弱いのか?)


 拳銃どころか、普通の弓矢よりも、彼の気功の矢は低威力だったのかもしれない。自分は最初から、この世界で超人的な存在だと思っていた彼は、この事実にかなりの衝撃を受けていた。


 ゲームでは基本的に、『銃』は『剣』よりも有利という概念は存在しない。

 銃器が存在する世界観でも、主人公の主要戦法は、剣や魔法である。銃を使う敵と戦闘になっても、それで戦況が変化することはなかった。フロンビュー戦闘では、遠距離と近距離の攻撃範囲の違いなど存在しないのだから。

 だがこの世界では、その法則は異なっているのかもしれない。


(まっ、まあ俺も今はかなりレベルが上がったし……うん、きっとそうだ! 俺は強いんだ!)


 自分にそう言い聞かせながら、春明は憲兵に連れられて、村へと帰っていった。


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