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第3話 職業システム

レオンが「戦士になれた!」と叫び、広間が歓声に包まれているそのとき、俺は――セシリアでもエレノアでもなく、二番目の姉に抱かれていた。


名前は、マリベル。


赤毛を後ろでざっくり束ね、目はいつもきらきらしている。

じっとしていない。基本的に動いている。歩いているか、走っているか、誰かを引っ張っているかの三択だ。


美人かと言われると、たぶん違う。


フリーデガルト似である。


要するに、元気をそのまま人の形にしたようなやつだ。


そして、その被害者がだいたい俺である。


つかまり立ちができるようになった頃には、「ほら、歩ける!」と両脇を持たれて強制歩行訓練。

よちよち歩きができるようになったら、「剣は早い方がいい!」と木の棒を握らされ、後ろから一緒にぶんぶん素振り。


いや待って。

こっちはまだ足元ふらついてるんですけど。


とはいえ、悪意はない。むしろ逆だ。


食卓で肉料理が出れば、「リュカも食べる!」と俺の口に突っ込もうとする。

俺はまだ離乳食段階である。案の定、セシリア母に止められていた。マリベルは「なんで!?」と本気で不思議そうな顔をしていた。成長を急かしすぎである。


それでも、抱っこして庭を見せてくれたり、外の馬や訓練場を指さして説明してくれたりと、世話はよく焼いてくれる。

荒っぽいだけで優しいのだ。


そんなマリベルに抱えられながら、俺はレオン兄の儀式を見ていた。


光の柱。

戦士認定。

家族総出の祝福。


空気は最高潮だった。


そこで、マリベルが爆弾を投下した。


「私もやる!」


広間が一瞬、静まる。


父が「まだ早い」と言いかけたが、マリベルは聞いていない。

俺を抱えたまま、ずんずんと神官のほうへ近づいていく。


待て。

俺は置いていけ。

神官はやや困惑した顔をしているが、完全拒否はしないあたり、わりと柔軟である。

というか、その柔軟さ大丈夫か。儀式ってもっとこう、厳格なものじゃないのか。


「年齢が――」


神官が言いかける。七割理解でもそこはわかる。


だがマリベルは止まらない。

「ちょっとだけ!」「試すだけ!」みたいなことを早口でまくしたてている。行動力の塊である。


そして、あろうことか魔法陣の中央に踏み込んだ。


俺を抱っこしたまま。


いやちょっと待って。

俺、巻き込まれ事故では?


床の紋様がかすかに光る。

神官が慌てて何か唱える。

父が一歩前に出る。

フリーデガルト母は腕を組んだまま様子見。

エレノアはハラハラ顔。


俺はというと、マリベルの腕の中で状況を整理しきれずにいた。


これ、年齢制限あるやつじゃないのか。

まだ俺、一歳ちょっとなんだが。


魔法陣の光が一瞬だけ強まる。

マリベルが目を輝かせる。


「――!」


次の瞬間、光が、ふっと消えた。


静寂。


神官が咳払いをする。

「まだ早いですね」的なことを、丁寧に告げている。


マリベルは「えー!」と不満げだが、そこまで落ち込んではいない。

むしろ「次は絶対!」という顔をしている。強い。無駄に前向きである。


……と、そのときだった。


音はなかった。

光もなかった。


だが、理解だけがあった。


頭の奥に、単語が浮かぶ。


――巫女。

――祈祷師。


読めないはずの文字を、なぜか読める。

知らないはずの意味が、なぜかわかる。


無意識に、俺は口を動かしていた。


「……みこ」


その瞬間、体の内側で何かが、かちりと噛み合った気がした。


確定した。

そんな感覚だけが残る。


だが、広間の空気はそれどころではない。


光が消えたあと、神官は穏やかに首を横に振り、「まだ早いですね」とあらためて告げた。

言葉の七割理解でも十分わかる。年齢が足りない、という意味だ。


マリベルは「えー!」と声を上げたが、泣きはしない。


ただ悔しそうに唇を尖らせている。


父が苦笑し、セシリア母が「あなたはまだ九歳でしょう」と優しく諭す。


なるほど。

九歳か。


そして今日、戦士になったレオン兄は十一歳。

周囲の反応から察するに、これでも早い部類らしい。普通は十二から十四歳で職を得る、とエレノアが小声で教えてくれた。


つまり、この儀式は思春期手前の通過儀礼というわけだ。


一歳児が乗り込む場所ではない。


……普通は。


「残念だったな、マリベル」


一番上の兄、アルドリックが肩を叩き、フリーデガルト母が「焦るな」と短く言う。

家族の視線は完全にマリベルへ向いている。


「ぼく、みこになった」


広間はざわめきの最中。

誰も反応しない。


「……みこ」


もう一度言ってみる。


だが、エレノアはマリベルの背を撫で、父は神官と話し込んでいる。


ようするに完全スルーである。


すると三番目の兄、ユリウスが俺を見て、くすくす笑った。


「そうか~、リュカは巫女か、巫女」


完全に赤ちゃんのたわごと扱いだった。


まあ、そうなる。

一歳児が突然「巫女」とか言い出しても、普通は「そうでちゅかー」で終わりである。


セシリア母が頭を軽く撫でる。

その手つきは優しいが、信じてはいない。


だが、感覚は消えない。


胸の奥に、静かな温もりが残っている。

それが何を意味するのかはまだわからない。戦士みたいにわかりやすく強い職なのか、それとも儀式専用のサポート職なのか。情報が足りない。


周囲はマリベルを慰め続けている。

当の本人はすでに「次は絶対成功する!」という顔で立ち直りつつあった。


強い。


さすが武闘派予備軍である。


俺はその腕の中で、静かに考える。


一歳児巫女。

なぜか誰も信じない。


まあ、そりゃそうだ。


     ◇


儀式のあと、家族の話題は完全にレオン兄一色だった。


「将来は騎士団か」

「王都で修行もありだ」

そんな未来予想図が飛び交う。


十一歳にしてすでに進路相談である。

さすが戦士職。わかりやすく強い。家族も盛り上がりやすい。


そのおかげで、俺は情報収集に成功した。


まず、あの老人。

フリーデガルト母の父であり、母方の祖父にあたる人物だった。名前はルドルフ・フォン・ローゼンフェルト伯爵。


伯爵家の中でもかなり力を持つらしく、ヴァルクレイン家の寄り親でもあるらしい。

今回の天啓の儀も、そのローゼンフェルト家の援助によるものだった。


通常、庶民は庶民向けの学校で十二歳時に。

貴族は神官を家に呼ぶか、王都の学院で十四歳時に一斉に。


……庶民のほうが先なんだ。


ちょっと意外だった。


貴族のほうが何でも前倒しかと思っていたが、そうでもないらしい。金はあっても制度は別、ということか。


そして、職業システムもだいたい見えてきた。


まず前提として、潜在力がある者だけが、神官の補助で職に就けるらしい。

誰でもなれるわけではない。適性検査つきである。


最初に就ける基本職は、こんな感じだ。


•戦士

•武闘家

•モンク

•魔法使い

•僧侶

•祈祷師

•巫女


だいぶゲームである。


適性条件も、会話からざっくり拾えた。


•闘気力が強く、筋力が高く、運動神経が良く、剣に適性があれば戦士

•闘気力が強く、筋力が高く、無手戦闘に適性があれば武闘家

•闘気力と神聖力がそこそこあり、筋力もあればモンク

•神聖力と魔法力が強く、知性が高ければ僧侶

•魔法力が強く、知性が高ければ魔法使い

•魔法力と神聖力がそこそこあり、知性が高ければ巫女か祈祷師


ここで重要な一文が追加された。


巫女は女性のみ。


祈祷師は男性のみ。


……ああ、なるほど。


だから俺が「巫女になった」と言っても、誰も信じないのか。

だって俺、男だし。


いや、ちゃんと付いてるんだが。

どういうバグだこれ。


さらに聞き取れた情報によると、職に就くことで、


•闘気力などを自覚的に操れるようになる

•レベルという概念が発生する

•スキルを習得できる


レベル。

スキル。


完全にゲームである。

しかも職業専用スキルは「スキルポイント」で取得可能らしい。経験値制か? 本当にゲームでは?


当然、話題は戦士のスキルに集中する。


戦士は職業取得と同時に、自動でスキル「スラッシュ」を覚えるらしい。

念じれば発動。便利すぎる。


さらに、初期の選択スキルとしては、


•剣術

•速歩

•老化軽減0%


……最後のやつ、なんだそれ。


父はレオン兄に迷わず言った。

「まずは剣術を取れ」


祖父もうなずく。

実用性重視である。現実的だ。速歩も便利そうだが、まあ最初は剣だろう。わかる。


そして俺。


巫女のスキル一覧も、なぜか頭の中にうっすら表示された。


自動取得スキルは「祈り」。

選択スキルは――


老化軽減0%。


……選択肢ひとつしかないんだが?


しかも〇%じゃなくて0%。

意味あるのか、それ。

せっかくだから、「老化軽減0%」を取得しておいた。


本当に意味あるのか?

謎である。


レオン兄はすでに「レベル上げに行きたい」と言い出していた。

血気盛んである。いかにも戦士職の男子っぽい。


だが父は厳しい顔で釘を刺した。


「勝手に森へ入るなよ。俺は明日からしばらく王都だ」


レオン兄は不満そうだったが、フリーデガルト母も無言でうなずいている。

ダブル圧力である。


結局、父が王都から戻ったらレベル上げを考える、というあたりで話は落ち着いた。


     ◇


そのあと、アルドリック兄が少し話の輪から外れていたので、俺は追加でいろいろ聞いてみた。


アルドリック兄はどちらかというとセシリア母似だ。


落ち着いていて、俺が単語で質問すると面白がりながらも、ちゃんと答えてくれる。


「一度職を決めると、レベル四十に到達するまで転職できないんだ」


レベル四十が、その職の最高到達点。

そこまで四年から五年かかるらしい。


……待て。


四年から五年?


俺、今一歳。

男なのに、このまま四、五年も巫女?


いや、まだ決まったわけではない。

決まったわけではないが、感覚としてはかなり黒に近い。

なにしろ頭の中にスキル一覧まで出ている。


これはもう仮免許どころか、本登録では?


その夜。


皆が寝静まったあと、俺は試してみることにした。


スキル「祈り」。


念じるだけでいいはずだ。

小さく息を吸い、心の中で発動を意識する。


その瞬間。


体の奥から、何かがすっと抜けた。


血の気が引くような感覚。

視界がぐらりと揺れる。

心臓が一拍遅れる。

全身の力が、一気に抜け落ちる。


(やば)


と思ったときには遅かった。


ベッドの上で、そのまま意識が落ちた。


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