第14話 ハデルは通行許可書を手に入れる
朝。騒がしいガルドア王国の町を歩く。
「許可書はどこに貰いに行くの? 」
「『世界ダンジョン管理運営委員会』の支部」
それぞれの門を通過するための許可書を手に入れる方法は大体三つ。
まずは門がある国からの許可書。これが一般的だ。
次に冒険者ギルドや商業ギルドなどギルドで手に入れる方法。各世界、そして世界各国に支部を置くので、手に入れることができる。
そして『世界ダンジョン管理運営委員会』で手に入れる方法だ。
世界のダンジョンを管理している組織は幾つかある。世界ダンジョン管理運営委員会はその内の一つで各世界、世界各国に支部を置く、最も規模が大きい組織。
彼らの仕事はダンジョンの研究、そしてそれに付随する事業だ。
今から手に入れようとしている許可書発行もその事業の一環で各世界で発行している。
会員ならば許可書をここで取るのが一番お金がかからないのも利点だったりする。
「そう言えばサラシャは持っているのか? 」
ふと気付いて横を見る。
喧嘩している豚鬼族達をバックに彼女は答えた。
「魔国から往復分の許可書を作ってもらっているから大丈夫だよ」
それを聞き一安心。
ここに来て「持っていない」と言われたらどうしようかと考えてしまった。
事前に貰っているのならすんなりと行けそうだ。
「お。お土産か」
「いっぱい並んでるね」
「しかしどれも安いな」
「魔界がすぐそこだからね」
「確かに」
サラシャと会話しながらお土産店を通り抜ける。
魔界ダンジョン産の素材との価格競争を理由にダンジョン管理人をクビになったが、値段を見て不覚ながらも納得した。
全部がこの値段ではないにしろ、このお手頃価格で売られたら流石に太刀打ちできないな。
最もスタの町のダンジョンは他の役割をしているからそう単純な問題ではないのだが。
「と、着いたな」
足を止めて白い建物を見上げる。
上に伸びる巨大な建物。
ここがダンジョン管理運営委員会の支部である。
★
中に入ると様々な種族の人がいた。
しかし冒険者ギルドのように物騒な服装はしていない。
観光で来たと思しきラフな格好をしている者や、仕事できたであろうスーツを着た人が目に入る。
「広いね」
サラシャがポツリと呟いた。
どこの支部もこのくらいの広さがあるはずなのだが……。
「来たことは? 」
「一回か二回程度は」
それを聞き、少し頭を抱える。
ということは彼女はこの組織の会員でない可能性がある。
まぁ会員じゃなくても不自由はしないとは思うが、会員のほうが何かと便利だ。
「これから俺の……いやダンジョン運営の補佐に入るんだよな? 」
「そうだよ」
「なら会員になっておいた方が良いんじゃないか? 」
そう言うと上を向き少し考える素振りをする。
そして俺の方を向いた。
「今の所はいいや」
「そうか」
本人が良いというのなら強制はしない。
必要に迫られて後で会員になるのでもいいし。
そう思いながらも足を進める。
「? あの長い列にはならばないの? 」
「俺の受付はあっちだ」
複数ある受付の内一番空いている場所を指さした。
「? あそこも受付なの? 」
「あぁ」
歩きながらサラシャの問いに答える。
「通行証、に限らず会員は持っている会員証のランクによって三段階に分かれている」
「ならハデルのランクは高い方と言うこと? 」
サラシャの言葉に「そう」と答えた。
それと同時に「鋭い子だ」と思う。
世界ダンジョン管理運営委員会のランクはその貢献度によって一般会員の『ノーマル』。上級会員の『ゴールド』。最上級会員の『プラチナ』の三つに分かれる。
貢献度に関してはダンジョンの攻略や運営、そしてダンジョンの研究などが加味される。
そしてこの貢献度が蓄積していくことによって会員のランクが上がっていくということだ。
俺はこの中でも異質なプラチナ会員。
精霊界で無双し、人界でも多くのダンジョンを踏破しているから順当なランクだろう。
長蛇の列が並ぶ受付を過ぎ去り誰もいない受付に行く。
机に置かれているベルを鳴らすと奥から一角魔族がやってきた。
「ご利用ありがとうございます。本日はどのようなご用件でしょうか」
「魔界への通行許可書を」
ペコリとお辞儀をし用件を聞く彼女に銀色に輝くカードを渡して用事を言う。
カードと要件を確認した彼女は「かしこまりました。少々お待ちください」とだけ言い、また奥へ行った。
するとすぐに戻ってきて、一枚の紙とカードを俺に渡してきた。
「こちらになります」
それを受け取りリュックサックに仕舞う。
お礼を言ってすぐさまその場を離れた。
何やら注目を浴びていたが気にしない。
外に出て次の場所へ足を向ける。
すると隣からサラシャが俺に聞いて来た。
「……門を抜けるにはもっと複雑な手続きが必要だった気がするんだけど」
「普通はな」
と少し苦笑いを浮かべてサラシャに言う。
「あれは俺がプラチナ会員だったからだ。所謂優遇制度」
「なにそれずるい! 」
憤慨したような声でサラシャが非難の声をぶつけてくる。
「あるものを使う。これ鉄則」
「分かってるけどさ……」
と肩を落とすサラシャ。
そして少し俺の方に近寄り小声で話してきた。
「つけられてるね」
「みたいだな。三人、か? 」
「うん。多分狙いは」
「俺の許可書だろうな」
何でこの輩は減らないのだろうと思いながらもどうしようか悩む。
「ここはボクに任せてよ」
「? 良いが……。どうするんだ? 」
「ま、先に行ってて」
そう言いサラシャは消えるように隣を離れた。
……やり過ぎないか不安である。
★
「おうおう、嬢ちゃん。どうしたんだ? 」
「あの兄ちゃんにでも捨てられたか? 」
「俺達が拾ってやろうか? ま、その後に許可書も回収するがな」
ハハハ、とガラの悪い魔族と獣人族が下品な笑い声をあげた。
しかしサラシャは意に介していない。
それどころか怒りを全面に出して、三人に言った。
「君達のせいでボクとハデルのデートが台無しじゃないか。どう責任を取ってくれるの? 」
「お。お楽しみだったか」
「なら俺達とも楽しむか? 」
「極楽に連れて行ってやるよ」
「もうあのエルフじゃ物たりなぇくらいに楽しませてやっからよぉ」
それを聞き更に不快感を示すサラシャ。同時に彼女は魔法を発動させる準備を始める。
魔族の男はふと考えた。彼女を攫い人質にとれば許可書も手に入るのではないかと。
そんな甘い考えが魔族の男の頭を見たす。
そして彼女の異変に気付かず魔族の男が近寄った。
が——
「こっちに——」
バタ、と前に倒れた。
その光景に先ほどまで笑っていた獣人達の顔が固まる。
「こ、この! 」
「ねぇ。テクノブレイクって……知っている? 」
「は? 」
魔法耐性が強い魔族がやられたのを見て、すぐに襲おうとする獣人達。
だがサラシャの一言で、何かの魔法にかかったかのように二人も前のめりに倒れていった。
その光景を見ながらサラシャは一言。
「ハデル以外の人なんてありえないよ」
そう言い残し彼女は去った。
ここまで如何だったでしょうか?
面白かった、続きが気になるなど少しでも思って頂けたら、是非ブックマークへの登録や広告下にある★評価をぽちっとよろしくお願いします。




