アスカ前編 8『ディランの海岸』
「それでディランさんってどんな神様なの?」
改めてと言うべきか。出発する前にアスカはエイデに、“ディラン”と言う“神”の事を問いただす。
エイデは眉を下げ「ハ」の字に、なんて説明するべきか迷っている様子だ。少しして、口を開く。
「気難しい奴ではないよ。ただ、あまり人間が好きって訳じゃない」
「え、人間嫌いの“神様“なの?大丈夫、それ?」
エイデの答えにアスカが不安げな声を漏らす。
彼は苦笑を浮かべた。
「気難しい奴じゃないっていったろ?俺にこの世界の事を、色々教えてくれたのもディランだしな」
その言葉に、ポンチョの端を引っ張りながら、シアーナは傾げる。
「……ディランが……ですか?人間殺すの大好きディランが……?」
「こ、怖いインプットするんじゃねぇよ。可哀想だろアイツ!」
すかさずエイデにフォローを入れられたが、やはり腑に落ちない。
昔はあんなに人を殺しまくって、歩く災害と個人的に呼んでいたのに。
頭の中に存在するディランと、エイデの言うディランが一切噛合わなくて、もう一度傾げる。
その様子を見かねてか、エイデは小さく咳を漏らした。
「ま、アイツに会えばわかるって!」
会いたくないのだが。
シアーナは、ポンチョを引っ張りながら苦言を心で零す。
その様子に、エイデは僅かに眉を顰めたが。直ぐに話を戻すように、アスカの顔を見た。
「ただ、初めて見るんなら。驚くかもな」
「驚くって…何に?」
アスカは首を傾げ、その様子にエイデがニヤリと笑み。
「何に、って…そりゃあ、まぁ…」
「……女性の姿をしていますので」
まるで、悪戯を企む子供のようにエイデが言い淀んでいると。後ろからバッサリ。
アスカは思わずシアーナをみる。相変わらず、彼女はポンチョを引っ張っている。
アスカには驚いてもらおうと思ったのに、エイデは少しだけ唇を尖らせた。わざわざ隠していたのに台無しだ……なんて。非難の眼だ。
反対にアスカはきょとん。首をかしげたまま、エイデに視線を戻す。
「えーっと。ディランさんって名前からして男の名前だけど、女神さまって事?」
「……いいえ。男です。ただ外見が女なのです。声は男ですけど」
「…え、こえ?がいけ…え?」
当たり前のようにシアーナが答える。
アスカはますます訳が分からないと言う表情になり、視線が右往左往。
最後はエイデへと落ち着き、困惑を顔に張り付けたまま、彼に縋るのだ。
「どゆこと!?」
「んー。ま、そのまま意味だよ。簡単に説明すれば、この世界の“神様”はどういう訳か、全員が女の姿をしてんだ」
これには勿論だが、アスカは硬直。
当たり前だ。二人から説明を受けたが到底信じられる話では無い。
神様が沢山いて、彼方此方に居て、女の姿をしている?混乱するのは仕方が無い。
――……数秒の間。
アスカは顔を上げる。そして。
「そうなんだ、分かったよ!!」
「キリっ」と、眉を上げてアスカは大きく頷くのであった。
「いや、待て待て」
コレに驚いたのはエイデだ。思わずアスカの肩を掴んで、彼女の顔を見る。
しかし、のぞき込んだ先。アスカの瞳は、かなり真っすぐだ。――本当に今の説明で受け入れて、信じる事に決めたらしい。
「お前、すごいな…」
「人生は奇妙の連続だからね!」
思わず素が出たエイデに、アスカは親指をビシっと立てる。
それだけで、普通は受け入れられないと思うのだが。
ただアスカは、“異世界”に飛ばされた事実でさえ、僅かな驚きだけで受け入れたつわものだ。
シアーナは彼女であるなら普通に受け入れるだろうな、なんて予想をしていたが、「あたり」。
そんなアスカを見ながら、ふと口元が緩むのが分かる。二人には気付かれてなるものかと、慌ててフードを深く被ったが。
「でもアレかな…ディラン君さんってお呼びすればいいのかな?それともディラン様…?」
「はは、いいな、それ。呼んでみろ、呼んでみろ。銛振り回して追いかけて来るぞ?きっと」
二人は気が付いていないのか、それこそ奇妙な会話が始まっている。
ディランの事だ。もし本当に「ディランくんさん」叉は「ディラン様」なんて呼ぼうものなら、串刺し海面引きずりの刑にされそうだ。――……なんて、更には久しぶりに馬鹿な事を考えてしまった。
ディランに会うのは正直嫌なのだが。アスカが居るのなら、まぁいいか。
身体バラバラにされて、売り飛ばされる結果になったとしても。それは、ソレで仕方が無い。姿を露わにした、自分の責任だ。諦めよう。
そう、シアーナは考えて。再び、着慣れないポンチョをぐいぐいと引っ張るのであった。




