プロローグ
前書き
ここから、「カルトの町」迄、書き直し再投稿したものになります。
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酷く冷たい風が吹く、暗闇の世界。
この世界で“死”と呼ばれる少女は、ただぼんやりと足元を見下ろしていた。
彼女の瞳に映るのは人間。
真っ赤な髪をした、一人の自分と同い年ほどの少女。
――ああ、またか。
“死”は呆れたように息を付いた。
これで何度目だろう。そう小さく言葉をこぼす。
頭に浮かぶのは、あの真っ白な神を名乗る“生命”の優男。
これはあいつの仕業に違いない。
“死”を嫌い“死”をどうにかして消そうと躍起になっている。正義の神。
少女はあいつが呼んだ、正義の味方だ。
――全く持って馬鹿馬鹿しい。
“死”は心から呆れ果てる様に舌打ちを繰り出した。
この少女は異世界人だ。
文字通り「異世界」からやって来た。エルシューによって連れて来られた存在。
別の宇宙から連れて来られたと言った方が正しいか。
なんにせよ、「別世界」と言う全くの無関係の人間を巻き込むエルシューに本当に嫌気がさす。
甘い言葉で、優しい口調で、さも自分達は被害者だと泣きながら、同情を誘って、誑し込んで、手あたり次第に、人の良い間抜け達を誘っては連れてくる。
その癖、呼ぶだけ呼んで、連れてくるだけ連れてきておいて、エルシューには彼らを元の世界に返す手段が無い。
助けを求めて連れてきておいて、後は放置。これは無責任の何物でもない。
そもそもと思う。
この世界では“死”の加護が無ければ「異世界」からやって来る「彼ら」は、この世界では存在すら出来ない。
数時間で塵となって消えてしまう。塵となった「彼ら」がどうなるかは分からない。
元の世界に帰っているのか、はたまた死んだのか。知る術はない。
この世界に「彼ら」を留めて置く力も無いくせに、エルシューは何の目的で「彼ら」を呼ぶのか。
――……いや、|理由なんて明白じゃないか《私を殺したいからだった》。
仕方が無いので、そのたびに“自分”が力を貸すのだが、正直嫌々でしかなかった。
だって、助けようとした「彼ら」は、結局は“死”に石を投げて罵倒するのだから。
何故自分を殺そうと躍起になる連中に“死”が力を分け与えなくてはいけないのだろうか。
どうして、人間の為に“死”が損をしなくてはいけないと言うのか。
とうの昔に、人間には飽き飽きした。どの世界の住人もみんな同じ。
弱いくせに、何の力も無いくせに、威勢はよくて、“死”の正体を知ると恐怖で涙を流す。
嗚呼、頭が痛くなる。
――そもそも、「異世界人」を巻き込んだら駄目なのに…。
皆で決めた約束なのに。
だから“死”はイラだった様子で舌打ちを繰り出すのだ。
ああ、でも今は無駄に悩んでいる暇はない。
“死”は気を失っている少女を見下ろす。
気を失っているのなら手っ取り早い。
“死”は感情のない目で、目の前で倒れている少女に手を伸ばした。
何、彼女が目覚める前に事を済ませれば良いだけだ。
彼女は何も知らないまま、何も分からないまま、
――元の世界で目を覚ますであろう。
いつもと同じ。
目が覚められたら、温情を掛けたら厄介なのは身に染みて分かっていたから。
その前に送り返すだけで良い。
「元の世界に返す」
それが“彼女”が『異世界人』に与える事が出来る唯一の温情。
――
――――。
――ふと。
“死”の手が少女に触れる前に止まった。
「……。」
“死”の瞳は少女を映し、小さく息を吸う。
改めて見た彼女は、整った愛らしい顔立ちのせいぜい16年ほどしか生きていない人間の少女。
彼女を元の世界に送り返すのは簡単だ。ただ、強く疑問に思ったのだ。
この子は一体何をしたのだろうか。何を成した子なのだろうか。どうして――と。
――……少しの間。
“死”は目を細める。
首元に伸ばしていた手を引いて、わずかに震えながら今度は彼女の手に手を伸ばす。
指先がわずかに少女の手に触れた。
指先からは微かに温もりが感じ取れる。
「やっぱり、暖かいんだ……」
指先から伝わる確かな、久しぶりの温もり。
死はポツリと呟き、空を見上げる。
これは、ほんの少しの余興。苦しい毎日の暇つぶしとしましょう。
――そう決めて。
嗚呼、人間を側に置くのは本当に久しぶりだ。もう百年も昔の事だ。
今度は、彼は、いいや彼女は、自分をどんなふうに扱い、どのように接してくれるだろうか。
不安しかない中で、“死”はふらりと立ち上がる。
とりあえず、此処から離れる事にしよう。自分の隠れ家にでも行こうと決めて。
「ああ、でもこの子何も無いな…。本当に何もないよ」
足元で倒れる赤毛の少女を見つめて溜息をこぼすのだ。
真っ白な手が地面から来たのは次の瞬間。
地面から沢山の、か細い手が手と手を取り合って一つとなる。
世界が変わるが、仕方が無い。
大きな手で、少女を担ぎ上げ、“死”はブツブツフラフラと夜の闇の中に消えていった。




