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残酷で、ただ残酷なこの世界  作者: 海鳴ねこ
始章 暁の魔女
47/58

プロローグ

前書き 

ここから、「カルトの町」迄、書き直し再投稿したものになります。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




 酷く冷たい風が吹く、暗闇の世界。

 この世界で“死”と呼ばれる少女は、ただぼんやりと足元を見下ろしていた。

 彼女の瞳に映るのは人間。

 真っ赤な髪をした、一人の自分と同い年ほどの少女。


 ――ああ、またか。

 

 “死”は呆れたように息を付いた。

 これで何度目だろう。そう小さく言葉をこぼす。

 頭に浮かぶのは、あの真っ白な神を名乗る“生命”の優男(エルシュー)

 これはあいつの仕業に違いない。

 “()”を嫌い“()”をどうにかして消そうと躍起になっている。正義の神。

 少女(コレ)はあいつが呼んだ、正義の味方(ヒーロー)だ。


 ――全く持って馬鹿馬鹿しい。

 “死”は心から呆れ果てる様に舌打ちを繰り出した。


 この少女は異世界人だ。

 文字通り「異世界」からやって来た。エルシューによって連れて来られた存在。

 別の宇宙から連れて来られたと言った方が正しいか。

 なんにせよ、「別世界」と言う全くの無関係の人間を巻き込むエルシューに本当に嫌気がさす。

 甘い言葉で、優しい口調で、さも自分達は被害者だと泣きながら、同情を誘って、誑し込んで、手あたり次第に、人の良い間抜け達を誘っては連れてくる。



 その癖、呼ぶだけ呼んで、連れてくるだけ連れてきておいて、エルシュー()には()()を元の世界に返す手段()が無い。

 助けを求めて連れてきておいて、後は放置。これは無責任の何物でもない。


 そもそもと思う。

 この世界では“死”の加護が無ければ「異世界」からやって来る「彼ら」は、この世界では存在すら出来ない。

 数時間で塵となって消えてしまう。塵となった「彼ら」がどうなるかは分からない。

 元の世界に帰っているのか、はたまた死んだのか。知る術はない。

 この世界に「彼ら」を留めて置く力も無いくせに、エルシューは何の目的で「彼ら」を呼ぶのか。


 ――……いや、|理由なんて明白じゃないか《私を殺したいからだった》。


 仕方が無いので、そのたびに“自分()”が力を貸すのだが、正直嫌々でしかなかった。

 だって、助けようとした「彼ら」は、結局は“(自分)”に石を投げて罵倒するのだから。


 何故自分を殺そうと躍起になる連中に“死”が力を分け与えなくてはいけないのだろうか。

 どうして、人間(彼ら)の為に“(自分)”が損をしなくてはいけないと言うのか。


 とうの昔に、人間には飽き飽きした。どの世界の住人もみんな同じ。

 弱いくせに、何の力も無いくせに、威勢はよくて、“()”の正体を知ると恐怖で涙を流す。

 嗚呼、頭が痛くなる。


 ――そもそも、「異世界人」を巻き込んだら駄目なのに…。

 皆で決めた約束なのに。

 だから“死”はイラだった様子で舌打ちを繰り出すのだ。

 

 ああ、でも今は無駄に悩んでいる暇はない。

 “死”は気を失っている少女を見下ろす。

 気を失っているのなら手っ取り早い。

 “死”は感情のない目で、目の前で倒れている少女に手を伸ばした。

 


 何、彼女が目覚める前に事を済ませれば良いだけだ。


 彼女は何も知らないまま、何も分からないまま、

 ――()の世界で目を覚ますであろう。


 いつもと同じ。

 目が覚められたら、温情を掛けたら厄介なのは身に染みて分かっていたから。

 その前に送り返すだけで良い。


 「元の世界に返す」

 それが“彼女”が『異世界人』に与える事が出来る唯一の温情。



 ――

 ――――。

 


 ――ふと。

 “死”の手が少女に触れる前に止まった。


「……。」

 “死”の瞳は少女を映し、小さく息を吸う。

 改めて見た彼女は、整った愛らしい顔立ちのせいぜい16年ほどしか生きていない人間の少女。

 彼女を元の世界に送り返すのは簡単だ。ただ、強く疑問に思ったのだ。

 この子は一体何をしたのだろうか。何を成した子なのだろうか。どうして――と。


 ――……少しの間。

 “死”は目を細める。

 首元に伸ばしていた手を引いて、わずかに震えながら今度は彼女の手に手を伸ばす。

 指先がわずかに少女の手に触れた。

 

 指先からは微かに温もりが感じ取れる。


 「やっぱり、暖かいんだ……」

 指先から伝わる確かな、久しぶりの温もり。

 死はポツリと呟き、空を見上げる。


 これは、ほんの少しの余興。苦しい毎日の暇つぶしとしましょう。

 ――そう決めて。


 嗚呼、人間を側に置くのは本当に久しぶりだ。もう百年も昔の事だ。

 今度は、()は、いいや彼女は、自分をどんなふうに扱い、どのように接してくれるだろうか。

 不安しかない中で、“死”はふらりと立ち上がる。

 とりあえず、此処から離れる事にしよう。自分の隠れ家にでも行こうと決めて。


 「ああ、でもこの子何も無いな…。本当に何もないよ」

 足元で倒れる赤毛の少女を見つめて溜息をこぼすのだ。

 

 真っ白な手が地面から来たのは次の瞬間。

 地面から沢山の、か細い手が手と手を取り合って一つとなる。

 世界が()()()が、仕方が無い。

 大きな手で、少女を担ぎ上げ、“死”はブツブツフラフラと夜の闇の中に消えていった。





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