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残酷で、ただ残酷なこの世界  作者: 海鳴ねこ
一章はじまり
10/58

一節ブレイル・ホワイトスター10

 路地裏から大通りに出て、暫く。

 ブレイルは男を三人抱えたまま、右往左往する羽目となった。


 というのも、あの後。街ゆく人に事情を説明して、警吏の場所を聞こうとしたのだが、何故か拒絶。

 「そんなものは無い」そう言われて逃げられてしまった。


 それでもめげず、様々な人に声を掛け、漸く

 「この地域を守っているのはエルシュー様で、警吏をしているのはゲレル様」

 ――と、いう情報をゲット。


 そのゲレル様とやらの居場所を教えて貰おうとしたが、また逃げられて。

 三度目の挑戦。やっと簡単な地図を貰ったものの、結局迷ってしまったからである。


 「い、いや、俺のせいじゃないし。地図が悪すぎなんだよ、絶対」


 だからこうして片腕で男三人を抱え。

 片手に握りしめた地図と睨めっこしながら、街中をうろついている訳だ。


 「つーか、ゲレル様って誰だよ…」


 そもそも今思えば、そのゲレル様とやらの事を聞き忘れていた。

 「様付け」されるぐらいなので、偉い人物なのは間違いないだろうが、分からないものは分からない。

 「ゲレル様」とやらの特徴ぐらい、屋敷の特徴ぐらい聞いておくべきであった。


 しかし、もう仕方が無い。話を聞こうにも、町民には逃げられるのだ。自力で辿り着くしかない。

 ブレイルは歩みを止め、あたりを見渡した。

 側に「メイデル」そう記された看板が立っている店がある。

地図を見れば、地図にも同じ名前が記されている。それは分かった。


 問題は此処から。

 地図上では、その店(メイデル)から更に真っすぐ先に進んで、三つ先の角を曲がった先に、ゲレル様の館があると記されている。


 ブレイルは顔を上げて、目に見える道を確認。

 「メイデルの店」その先。確かに曲がりが角は存在する。

 大きくはないが小さくも無い()が3つと、目に見えて分る程に大きな()が3つ。それが見事なまでに交互に並んでいる


 ――さて、三つ先の角。いったいどれの事だと言うのか。


 「わかんねぇよ!もっと詳しく書けよ!」


 なので、ブレイルは叫ぶしか無い訳だ。

 どうしてこの地図はこうも適当なのか。どうして道を聞いても逃げるのか。ブレイルの憤りは最もだ。

 

 ただ、町民の視点からも考えて見て欲しい。

 少年が、だ。10代後半の子供が、大の大人を三人軽々と抱えていたら、普通に怖い。

 剰え彼が担ぐ男達には嫌な()()も付いているのだから。

 というか、地図は結構しっかりとした物で、細かく記されているのだが。

 ブレイルはソレらに気が付かない。ただ、地図を睨みつけるしか出来ないのである。


 「そもそもこの街広くない?同じような建物ばかり並びやがって!目印ぐらい用意しとけよ!」


 「………二つ先の路地裏です」

 「――!!?」


 ぽつりと、真後ろから声が聞こえたのは正にその瞬間だった。

 あまりに唐突な出来事で、ブレイルは飛び上がるほどに驚く。


 思い切り振り返る。

 振り返り、そこに立っていた人物を確認したのち、ブレイルは直ぐに胸を撫でおろしたが。


 「な、なんだ。お前かよ」


 ブレイルの目に映ったのは、つい先程と変わらない真っ黒に身を包んだ一人の“少女”

 先程別れた筈の、名も知らない“彼女”がブレイルを静かに見つめていたのである。


 「お、驚かせるなよ!」


 “彼女”を前に、つい先程会ったばかりだったが、ブレイルは緊張したような口ぶりで、ぎこちない笑みを浮かべた。

 まさか、こんなに直ぐに再会するとは思ってもいなかったし。”彼女”はいつも唐突に現れるから心臓に悪い。


 ただ悪い奴では無いから無下に出来ないし、あからさまに怖がるのは流石に失礼だと分かっている為、コホンと咳払いを一つ零して、改めて“彼女”を真っすぐに見た。


 “少女”はそんなブレイルとは反対に、俯きフードを深く被ってしまうが。

 “彼女”は目を逸らしながら、細い指で一つの路地を指す。


 「………あそこ、連れて行ってください」

 「え?あ、ああ!そういう事か」


 何処までも静かな声に、漸く“彼女”の真意に気が付いた。

”この子”はどうやら、道案内してくれるらしい――と。


 ―― あれ?俺が目指す場所、知っているのか?


 ほんの僅かに、ブレイルの頭に疑問が浮かぶが。

 口に出す暇はなく。スタスタとブレイルを追い越して“少女”が歩き出す。着いて来いと言う事なのだろうと、ブレイルは慌てて“彼女”を追った。


 まあ、一連の出来事を知っているんだ。俺が目指す場所ぐらい見当ついているんだろ。

 ――なんて、簡単に判断して。


 其れよりも丁度良い。“彼女”とは話がしたい。


 「えーと。少しいいか?」

 「………」


 歩きながらブレイルは口を開く。

 ブレイルの問いに“彼女”は何も反応はしない。

 この様子からすれば、何も答えない可能性が高い、と思いつつもブレイルは続けて口を開く。


 「お前さ、名前――」

 「名乗る必要ありません。名乗りたくないです。どうしてもと言うのならモルスとでも呼んでください」


 一発目から拒絶だった。いや、答えてはくれたが、今のは明らかに偽名だ。今考えたに違いない。

 しかし、そんな人物もいるだろうと自分に言い聞かせる。

 問いに答えてくれるだけで十分だ。―― 次の質問にうつる。


 「えー、さっきの、さ。アドニス……だっけ?お前はあいつと一緒にいるの?」

 「……はい。先ほどは、彼が其方の方々を相手にしてくれました」

 

 ちらり、“彼女”がブレイルに視線を向ける。

 正確に言えば、ブレイルが担ぐ男達に。


 ――やはり、先程は随分と「アドニス」に迷惑をかけてしまったようだ。

 ブレイルは頬掻く。続けて少女が言う。

 

 「貴方も私を助けようと追いかけて来たようですね。一応礼を言っておきます」

 「い、いや」


 先ほどの礼だと言わんばかりに、小さくペコリ。

 正直あまり感謝されている感じはしないが。

 ブレイルは目を泳がせるように上へと向ける。


 「さ、さっきのアドニスってやつに、改めて俺が謝っていたって伝えておいてくれるか……?」

 「……後で伝えておきます」


 とりあえず伝言は伝えておこう。“彼女”はすんなり応じた。

 

 「私からも、一ついいですか?」


 さて、次の質問はと考えているとき。“少女”が遮る様に口を開く。

 ブレイルが視線を“彼女”に戻す。――直ぐに逸らされてしまったが。

 

 「なんだ?」

 そう問えば、“彼女”はゆっくりと口を開いた。


 「……先に言っておきます。私はそちらの方々を罰したいとも、罰しようとも考えていません。ですので、その方々に罪はありません」

 「――は?」

 

 “彼女”の口から出た言葉は理解が出来ない発言であったが。

 ブレイルは、考える。“彼女”と担ぐ男を交互に見る。「罰したいとも、罰しようとも思っていない」


 それは、もしかして自分は彼らに対しての怒りは無いから見逃せ、と言う事だろうか?


 暴行未遂とは言え、“彼女”は被害者だ。そして彼らは被疑者。

 被害者が許すと言うのなら、見逃すべきなのか?

 いいや。“彼女”が何を発言しようとも、婦女暴行しようとしていたのは事実であるし、今後同じ事を仕出かさないとも言い切れない。


 さすがに、見逃す事は出来ないのだが……。

 それを見越したように“少女”が、また口を開いた。


 「その方々に罪はありません。少なくとも、牢屋に入るほどの咎はありません」


 はっきり言い切る。相変わらず目は見えないが、無駄に圧を感じる。

 その視線に、ブレイルは考え。少しの間を置いてから、頭を掻いた。


 「――分かったよ。『お前には、まだ何もしていなかった』。ゲレル様だっけ?そいつにはそう証言してやる。けどな、暴行未遂については話させてもらうぞ!前科持ちだったらどうするんだ!」


 これが、ブレイルに出来る唯一の妥協。仕方がないので、彼女への暴行未遂は見逃すことを約束する。

 本当の所は、許せない事なのだが。ブレイルが引き下がらない結果、“彼女”が「案内止める」と言い出したら、それは困るからだ。だから、これは唯一限界まで引き下げたブレイルなりの答え。


 ブレイルの答えに“少女”は何も言わなかった。顔が見えず表情は見えないが、不満そうな様子は感じ取れない。

 ただ、何故だか呆れたような視線が浴びせられているのは分かった。

 そんな視線を送られても、ブレイルは判断を変える気はない。コホンと話を戻した。


 「他に何か言いたいことはあるか?」

 「……ありません」


 だが、“少女”からはこれ以上、何も聞きたいことは無いようであったが。

 少し待ったが、やはり“彼女”が何かを口にする様子はない。

 それなら、ブレイルは自身の質問にもどる。


 「じゃあ、質問に戻るけどいいな?」

 「……」


 やはり何も言わないが、肯定と取り、ブレイルは口を開く。

 一番聞きたかった事だ。


 「――お前さ、なんで、あのアドニスってやつと一緒にいる訳?」


 危険かもしれない。その言葉を押し込んで質問する。

 アドニスと言う男は危ない。ソレは違いない。

 “彼女”と彼が一緒に居るのは心配だ。何かあるなら助けたい。その一心で問いただす。



 「持ちつ持たれつ」

 「え」


 しかし“少女”から返って来たのは、意外な言葉だった。

 “少女”はそのまま口を閉ざす。


 ――持ちつ持たれつ?

 つまり、それは、何かしらお互いに助け合っていると言う事か?


 そう言えばと思い出す。アドニスも言っていた「彼女には借りがある」と。

 それが何か分からないが、結果的に協力し合う関係になったと考えるべきか。

 ブレイルの疑問に少しして、“少女”は渋々と言うように口を開いた。


 「――私は彼に住居と飲食など『暮らし』と言う提供をしています。それに対し、アドニスさんは私の『護衛と手助け』をしてもらっています。私一人だと暮らしづらい事もありますので、お互いに利益ありと考えた上での関係です」


 その答えを聞いて、漸く「ああ」と納得できた。

 つまり“少女”とアドニスの関係は、ブレイル(自身)とリリーと同じ関係だと。

 アドニスは自身を『異世界人』と言った、ならば自分と同じく行き成り“異世界”で暮らすには無理がある。1人で暮らすより、「こちらの世界の住人」に手を借りた方が一番楽だ。


 彼はその「住人」を“彼女”に決め、見返りとして用心棒を引き受けたのだろう。

 そして、今の話からだとこの“少女”は一人暮らしのようだ。”少女”にとっても男手があると色々と便利。


 「持ちつ持たれつ」――が合っているかは不明だが。お互い協力関係なのは違いないだろう。


 少々人選に問題があるのは、間違いないが。

……やはり心配なので、こちらも聞いておく。


 「アドニスってやつ大丈夫か?ほら、辛い事とか…」

 「特には。提供した住まいにも何も言いませんし、出す食事は文句なく食べてくれます。それ以外の身の回りの事は自身でしてくれますから、お互い適度な距離で過ごせています」

 「そ、そうか…」


 気になる点はそこじゃないのだが。聞きづらい。

 だが、少しして”少女”は「ああ」と呟いた。


 「もしも、それ以上の物を提供されているのではないか、と思っているのならご心配なく。彼は一人の大人ですから、私の様な子供を性的な目で見る事も、行為も求められていません。というか絶対無理があるでしょう」

 「――!!?」


 「もう少し言いますと、厳しく恐ろしい方ですが、暴力で言いなりにされている事もありません。私がミスすると、呆れて軽く頭を小突くぐらいです。たんこぶ一つできません。時折……恐ろしい目で睨んでくるぐらいです。でもそれは……それも私のミスから起こる事ですから気にしていません」

 「ちょ!!」


 思わず、ブレイルは少女の言葉を遮るように声を漏らす。

 そんなブレイルに“少女”は小さく首をかしげた。


 「聞きたいことはこういう事でしょう?」と――。


 いや、そうなのだが。

 そうだったのだが。


 こうもスラスラ口にされると困るものがある。

 しかし、まぁ、すこし安心する。

 こうも当たり前に、怯える様子もなく言葉に出来るのだ、アドニスとは、ただの普通な協力関係と見ていいだろう。


 アドニスという男が異常人物なのは確かだと思うが、協力関係になった相手には、そこまで危険な人物でないと言う事か。まだ、それなりに健常な判断が出来る人物なのだろうと判断した。

 その事実に胸を撫で下ろす。

 とりあえず、一番気になっていた一個目の問題は解決できた。


 ブレイルは、再び咳払いを一つ。

 再度質問に戻る。


 二つ目、これもまた気になっていた問題。

 一息ついてから、ブレイルは口を開いた。


 「――じゃあさ。次なんだけど、なんでお前戻って来たんだ?ほら、俺に声かけたのはなんでだ?」


 ブレイルのこの言葉に、”少女”は僅かに視線を向けた。






 『”彼女”は何を語るのか』


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