青い空、映える金色、背後に蠢く黒い影
「はぁ~」
心地よい天気、澄み渡る青空。
黄昏るには最高の今日この頃。
屋上の手すりに寄りかかる俺の顔は、まさにこの青空の様に真っ青だと思う。
「はぁ~、はぁ~」
無意識の内に零れる溜め息。
これも何度目だろうか? いや、何度出ても足りないほどに俺は悩みに悩んでいた。
……ヤバい。美由だけじゃなく、美世ちゃんともキスをしてしまった。
今まで……というかあの2人の宣言以降、確かに俺に対して積極的な態度は見せていた。
けど、そういう行動をしていても……俺がやんわり断ると、それ以上の事は止めてくれる。
だからこそ、ギリギリのラインを……家族、姉妹の関係をギリギリ保ててはいたのに、ここ数日で……その関係性に変化が起きた。
美由のキッカケは、九条先輩か。
九条先輩とは小学校からの知り合いで、テニス部の先輩後輩って関係。ああいう性格で、とにかく明るくてコミュ力もある。それは俺にも同様で、前に話していた時もごく普通な感じだったはず。
でも、美由にとってはそう見えなかったのか。いや、初めて目にしたら誰でもそう思うのか?
それにしても、
『同じ女だから分かるんだよ? 九条先輩も空くんの事が好き』
あの言葉は本当なのか? いやいや、九条先輩は昔からああだし、俺だけ例外ってはずもない。誰に対してもあんな感じだ。
つまり、美由の勘違いか。まぁどちらにせよ、キッカケだったのは間違いない。おかげで、あんな強硬策の餌食になったんだ。
次は美世ちゃん。
キッカケは言わずもながら、あの行為だろう。しかも両親の致すところを盗み聞きって……結果としてそういう場面に遭遇してしまったのが運のつきだった訳だ。
知られてしまったからには……そんな思惑があったのかもしれない。とにかく、今まで美世ちゃんが俺をベッドに押し倒すなんて力技をした事はない。
むしろ、後ろに美由の影を感じる位、その雰囲気はそっくりだった。
「はぁ~」
でも、結局……そんな2人を止めれなかった自分が悪いのか。
あまりの出来事で、頭の中が真っ白になったとはいえ……一言口にすれば良かった。
止めてくれと。
けどなぁ……
美由と美世ちゃん。どちらも違うけど、全身に漂っていた良い匂い。
柔らかい感触。
蕩ける様な感覚。
心地良かったのは……事実だった。
……ってバカバカ!
2人は姉妹。家族だぞ? それなのに……いくら血が繋がっていないからって、あんな事ちゃダメだろ。
2人の気持ちに、ちゃんと答えられる自信も勇気もないくせに。
「はぁ~」
一体どうし……
「ダメだって! 早まっちゃ!」
その瞬間だった、背中に感じる温かさ。
圧迫される腹部。
引っ張られる体。
まさしく突然の出来事に、
「はうっ!!」
情けない声が思わず零れた。
はい? なんだ?
正直、何が何だか分からない状態で、身動き一つ取れない。
しかしながら、その後ろにいるだろう人物の慌てふためいた様な声だけは、着実に耳と通った。
「何があったか分からないけど、人生長いって!」
「話聞くから、とりあえず落ち着いて!」
「ここで死んだら、悲しむ人が必ずいるからっ!
……ん? 待て待て、この人なんか勘違いしてないか? しかも……チョイ待ち? 今の言葉に、この妙な圧迫感と、背中に感じる人肌の様な温かさ。……あっ!
人と言うのは、自分よりテンパっている人を見ると逆に冷静になる。
まさに、誰かが言っていたそんな言葉を今俺は、身を持って感じていた。
もしかして、後ろの人……俺が飛び降りようとしてると勘違いした?
だから止めに来たのか。けど、この締め付け感……
恐る恐る視線を下に向けると、そこには自分の腹部を抑える様に、色白く細い手があった。
そしてその瞬間、俺は全てを理解する。
これってもしかして……傍から見たら後ろから抱きつかれてる構図になりません!?
「ちょっ、誤解です! 誤解です!」
「そう言って離した瞬間、行っちゃうでしょ!? ドラマで良く見るからっ! だから離さないっ!」
「いやいや、ドラマの話ですよね!? ホントですから!」
「緊張状態の人は皆そう言うんだよっ! 漫画でもそうだしっ!」
「漫画ですよね!? そっ、そもそも俺飛び降りようなんて思ってないですから!」
「嘘だっ! さっきから手すりに寄りかかって溜め息ばかりしてたでしょ?」
なっ! 嘘だろ? いつから見られてたんだよっ! やべぇ、なんか一気に恥ずかしくなってきたんですけど。とっ、とにかくこの状況を何とかしないと!
「考え事です! あっ、あのこうしましょう? このまま、後ろ下がりますから! 手すりから離れますから!」
「……本当?」
「本当です。良いですか? 動きますよ?」
「……了解」
「「せ~のっ」」
こうして俺は、ゆっくりと……引きずられるかのように後ずさりして行く。たぶん、第三者からしてみれば何してんだ状態だとは思う。ただ、こうでもしなければ後ろの人は納得はしてくれないだろう。
……この辺で良いかな?
「あの、この辺で良いですか?」
「待って? 私手すりの方に行くから……はいっ!」
そう言うと、体に感じた圧迫感が一瞬で消えさる。そして、そんな俺の前に現れたのは……
「ふう……」
金髪で色白。そして青い瞳をした……女の人だった。
そして、俺はその人を……知っている。
えっ? この人……
「良かったぁ。ホントに良かったぁ」
2年の桐生院先輩!?
2年の桐生院三葉。
目の前の人物は、恐らく京南高校で知らない人はいないだろう。その理由はいわずもがな、その容姿。色白で金髪ロング、そしてその青い瞳はまるで外国人の様に美しく、さらには体顔負けのスタイル。確かお母さんがハーフとか何とか。
1個下の俺は、遠目でしか見ていないけど、年中友達が近くにいるって事は性格も良いんだろう。それに、悪い噂も一切聞かない。言うなれば雲の上の存在と言った方が分かりやすい気がする。
けど、まさかこんな所で出会うとは。
……あれ? そう言えばさっき溜め息とかどうとか言ってたよな? マジか! 全部見られてた?
……あれ? しかも、さっき後ろにいたのが桐生院先輩って事は、あの圧迫感の正体って、先輩? って、待て待て、引き止めていたとはいえ、完全に……後ろから抱き締められてたって事じゃね? まさか……まさか桐生院先輩が……
「お~い? 大丈夫~?」
「あっ、ははっはいっ! 大丈夫です」
偶然とはいえ、先輩と密着とか……結構嬉しいな。
「もうっ、本当にびっくりしたよ」
「えっ?」
「絶対飛び降りようとしてたでしょっ!」
……って、まずはその勘違いを解決しないと。
「だから違いますって! ボーっと考え事してただけです」
「えぇ? でも、結構な時間溜め息ばっかしてたよぉ?」
「いっ、いつから見てたんですか」
「ん~5分くらい前?」
「けっ、結構初めからですね……」
「マジ? 屋上着いたら、手すりに寄りかかる真っ暗雰囲気。こんな光景ドラマでしか見た事無いって焦ったもん」
そんなにどんよりとした空気してましたか?
「いやその……なんかすいません。けど、流石に真昼間に高校の屋上、しかも桐生院先輩の前でそんな事しないですよ」
「ありゃ? なんで私の名前知ってるの?」
「そりゃ有名ですよ? スタイル抜群、モデル並みのルックス。超絶美人だって」
「なっ、言いすぎでしょ……」
あっ、照れた。
見た目はクールで美人の最上級。けど、話してみると明るくて親しみやすい。それに、こういう一面というギャップ……こりゃ先輩後輩問わず好かれる訳だ。
「さすが昨年の京南美女コンテスト1位ですよ! しかもその青い瞳は魅惑の瞳と呼ばれて、見る者を虜に……」
「あっ、あぁぁ! 分かった! 君の事信じる。信じるからそのお世辞のマシンガン攻撃止めてぇ」
「お世辞なんて……全部本当の事なんですけど」
「ストップストップ!」
これで何とか信じて貰えたかな。
「…………ふぅ。と言う事は、私の勘違いって事で良いのかな?」
「そう言う事になりますね」
「そうか。そうか。なんか……ごめんね?」
ズキューン!
不意に見せたはにかむ様な笑顔。まさしく普段の姿とのギャップも相俟ってその破壊力は壮絶だ。
やばい……可愛い……
「いっ、いえ! 俺もなんかすいません。誤解させちゃって」
「いいのいいのっ。ふふっ」
「はっ。ははは……」
「そう言えば、君の名前聞いてなかったね? 私は……って、知ってるかもしれないけど2年の桐生院三葉」
「俺は、1年の天女目空って言います」
「空くんね? そういえば、屋上には良く来るの?」
「昼休みは結構来てるかもしれないですね」
週の半分位は来てるかもしれないな。
「へぇ! 私もさ? ちょくちょく来るんだ。でもなんか他の人達って、屋上あってもなんか来ないんだよねぇ。ドラマなんか見てたら、昼休みに屋上なんてマストじゃない? 勿体ないよねぇ」
「ははっ、確かにそうかもしれないですね。実際、屋上で会ったの桐生院先輩が初めてですもん」
「でしょでしょ? まぁ静かな分良い事もあるけどさ」
その時、桐生院先輩は少しだけ寂しそうな顔を見せた。その表情の奥には、何かあるような……そんな気がする。
「あっ、もし良かったら、これからもここで会ったらこうして話ししない?」
「えっ?」
「これも何かの縁だと思わない? ふふっ」
話す? 桐生院先輩と? あの桐生院三葉と? いや、逆に俺が良いのか聞きたい位なんですけど……これも何かの縁か?
だったら、断る理由はないよね。
「縁……ですか。俺でよければ、いつでも話し相手になりますよ? 桐生院先輩」
「本当? ありがとう! じゃあ、宜しくね? 空っち」
「そっ、空っちって……」
こうして、なぜか分からないけど……美人な先輩、桐生院先輩と……お知り合いになりました。
「いいじゃんいいじゃん~」
「いっ、いやでも……!?」
……ゾワッ……ゾクッ……
……はっ!? なんか背中が寒い? いや……
気のせいかな?




