義妹のターン
かつて、こんなにも寝苦しい夜はあっただろうか。
「はぁ~」
静寂と薄暗さで溢れる部屋の中。夏の様に暑い訳でもないのに、思わず溜め息が出るほどに、目が冴える。
目を瞑っても、なかなか寝られない。思い出せば、生まれてこの方そんな日はなかったような気がする。それも、連日となればマジで記憶にない。
なぜだ?
昨日に関して言えば、いつも通り過ぎる美由の様子。
やたらと積極的になって来た美世ちゃん。
それらが原因だと思う。まぁ結局何一つ解決して居ないと言えばその通りだけど……今日は今日でまたしてもおかしかったんだ。
急に美世ちゃんが余所余所しくなった。
いつもの明るさはどこへやら。もう見た人全員が様子が変だと思う位。
昨日の今日で何が? そう言われると……思い当たるのは夜中の出来事か?
あんな時間に、しかも階段辺りで何してたんだ? しかも俺が来たら驚いた表情でそそくさと……
「はぁ。今日も寝れないなぁ……また水でも飲みに行くか」
それはまさしく、昨日と同じ行動。
静かに部屋を移動し、静かにドアを開けて閉める。
そして静かに……
廊下を歩いて行こうと思った時だった。
まさかとは思ったけど、目の前には……昨日と同じ光景が広がっている。
まっ、また居るぞ? 美世ちゃん。
俺達の家には、当然各々の部屋がある。しかも全員2階。
階段を上がると、正面に俺の部屋。隣は美由。
折り返す様な形で廊下が続いて、その途中に父さん達の部屋。そして奥に美世ちゃんの部屋がある。
つまり、美世ちゃんが階段前に居る事は珍しい。しかもその視線は俺の部屋じゃなかった。
父さん達の部屋?
じっと見つめてどうしたんだ? 昨日はその存在に驚いて声を掛けたけど……美世ちゃんも俺に気付いていないし……マジでどうしたんだ?
昨日と同じ夜中。
静まり返った家の中。
部屋を見ている美世ちゃん。
その美世ちゃんを見ている俺。
そんなな、んとも言えない雰囲気の中だった。
ふと微かに耳の中に……何かが聞こえて来る。
「……はっ……」
何か息遣いのような……そんな声。
最初は何かと思っていたけど……一度集中してしまうと、どうしてもその声だけが大きく聞こえてしまう。
「んっ……はっ……」
息遣いに混じるように聞こえて来る声。
「ああっ!」
時折響く……女性の声。
えっ……まさか?
更にその声が聞こえて来るのは……父さん達の部屋。
その瞬間、俺は全てを察した。
「りっ、陸さんっ」
まっ、マジかよ……父さん達……ヤッてるのか!?
いや、そりゃ夫婦なんだから当たり前だ。けど、待てよ? じゃあそんな父さん達の部屋を見ていた美世ちゃんってまさか……
途端に視線を美世ちゃんに向けた時だった。音は出していないつもりだった。
にも関わらず……
えっ?
美世ちゃんは……俺の方を見ていた。驚いたような表情を浮かべながら。
ヤバいヤバイ。どうにかしないと。言い訳を……
頭の中は、もう言い訳を考えるだけで精一杯で……体は全く動かなかった。
するとどうだろう、その刹那俺の体は何かに引っ張られる様に、無意識のまま動き始める。
そしてあっと言う間に、
ドスッ
なぜか俺は、自分のベッドに横になっていた。
あれ? どうしたんだ?
理解が追い付かない。
どうして俺は部屋に戻って?
ただ、そんな疑問の答えが出る間もなく……
「おっ、お兄ちゃん……」
答えは……現れた。
「美世ちゃん!?」
仰向けの体勢。俺に跨る美世ちゃん。
そのシチュエーションは、まるであの時の美由にキスをされた時と全く一緒だった。そして俺を見下ろす美世ちゃん。その表情は……ある意味見た事のないもの。ただ、どこか覚えのある雰囲気。
「ごめんなさい。でも流石に2日も連続で見られたら、言い訳できない……よね」
「見てたって……」
「お兄ちゃんだって気付いてたでしょ? 母さんと父さんの愛を確かめ合う行為」
「そっ、それは……」
「あの2人ったら、ラブラブでね? 数えただけでも週に3回はしてるんだよ……」
週3!? って、そこまでの情報は聞きたくないんですが? けど、数えただけって……まさか美世ちゃん、夜中に? だからあそこに?
「そっ、そりゃ夫婦だし当たり前じゃないか」
「そうだよね? 当然だよね? じゃあさ……そんな行為に興味が出るのは当たり前だよね?」
「えっ?」
「好きな人の前だったら、隠さなくても良いよね?」
「ちょっ……」
「最初は偶然だった。驚いた。でも、目の前でそういう行為がされてる。普段優しい2人が乱れてる。そんな行為はどんなものなのか……気になるでしょ? だから美世……いつからかああして盗み聞きしてた。そしたらね? 体がおかしくなるの。ムズムズするの。いけないって分かってても、止められない。止めたくても止められない。そんな姿、昨日お兄ちゃんに見られて、驚いて恥ずかしかったよ? でも、今日は違う。見られたなら……もう隠せない。うぅん、隠す必要なんてないんだ。でしょ? お兄ちゃん」
いつもとは違う蕩けた様な表情。
時折聞こえる息遣い。
脳裏には、あの時の……美由の姿が浮かぶ。
いつもの……断ればやんわり止めてくれる姿じゃない。何か枷が外れた様な雰囲気。
流石姉妹と言うしかない、まさに一緒だ。
ヤバい。これはマジでヤバい。どうにか……って! 腕押さえられた!
「お兄ちゃん!」
「美世ちゃ……」
その瞬間、上半身に感じる温かさ。
そして唇には、どこか懐かしい柔らかさ。
抵抗する間もなく、侵入してくる湿ったそれは、自分のモノへと絡みつく。
ヤバい……
「んっ……はぅ……んんっ…………はぁ……お兄ちゃん……」
何もする事が出来ず、なすがまま。そして、上体を上げた美世ちゃんの表情は……明らかにさっきよりも蕩けている。
またしてもしてしまった。今度は美世ちゃんと……
そんなおぼろげな意識だけが、頭のどこかに残っていた。
「はぁ……はぁ……しちゃった。お兄ちゃんとキスしちゃった。寝てないお兄ちゃんとしちゃった」
「美世……ちゃん……」
「あっ……お兄ちゃん。どうしよう、ムズムズするよ? どうにかして?」
はい? 今度は……なんだよ……
「な……に……?」
「お兄ちゃんの手で……どうにかして?」
「なっ……」
その意味は分からなかった。
ムズムズ? 手で? マジで意味が分からない。
するとどうだろう、右手首に感じる掌の感覚。そしてそれが上へと引き上げられる。
俺の腕を掴む美世ちゃん。宙に浮く自分の腕。
そして自分の手のひらに感じたのは……この世の物とは思えない、柔らかい感覚だった。
「あっ……あぁ……」
柔らかい。
まるで温かい水風船を触っているかのような感覚。しかもその感覚は……掌から零れる程だ。
「んっ……そんな……お兄ちゃん……」
あれ? でも真ん中辺りに少し硬いものが……でもめちゃ柔らかい。
「んんっ……やっ……あぁ……
あれ? でもこれってなんだ? それにやけに美世ちゃんの声が……
「はぅ……どっ、どう? お兄ちゃん……」
どう?
「美世の……胸」
その言葉は、ハッキリ言ってありがたかった。
むしろ何をしているか分からない自分にとって、その胸という単語は単純明快で分かりやすかった。
はっ!?
そして、理解が追い付くと……途端に現在の状況の異常さに気が付く。
やってはいけない……デンジャーゾーンだと。
あれ、寝てる? 美世ちゃんが跨ってる? んで、俺の右手はどこに……あれ? 美世ちゃんの左胸? じゃあこの感覚は……柔らか……い!?
もみっ……
「あんっ! お兄ちゃん……いきなり勢い良くは……はずるいよぉ」
胸っ!? 美世ちゃんの胸触った!? 揉んだっ!?
ヤバい……ヤバイ、ヤバイヤバい! 美由の件でも反省したのに、なんで美世ちゃん相手にそれ以上の事してんだよっ!
どどどっ、どうすれば……
「へへっ。でも嬉しいよ。ってあれ? なんかすっごく満足しちゃったら……」
「眠たくなって来ちゃっ……たぁ」
そう言い残し、俺の横へ崩れる様に横たわる美世ちゃん。
余程の事だったのか、寝息が聞こえるまでは一瞬だった。
……あぁこれは夢か?
いつぞやのリプレイでも見ているかのように、ふと頭に浮かぶ疑問。
ただ、まだ右手に残る感覚は……夢という願望を否定する。
やべぇ……キスならまだしも、美世ちゃんの胸触っちまった。
視線を向けると、いつもの美世ちゃん。そんな表情が余計に罪悪感を植え付ける。
はぁ……どうする? 美由みたいに少し満足してくれればいいけど……美世ちゃんこのままガンガンこないよな? 大丈夫だよな?
寝息を立てる可愛い顔。
そんな自慢の義妹に祈りながら……俺はゆっくりと目を瞑った。
「むにゃむにゃ……あぁ、お兄ちゃん。これ以上はまだ心の準備がぁ……」
どっ、どんな夢見てんだよっ!
あぁ……朝起きるのがこえぇ!!
次話も宜しくお願いします<m(__)m>




