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リーフェルニア領の戦い③

「貴殿は……!」

「先刻ぶりだな。さて、改めて名乗らせていただこう。我輩はレオナルド・リーフェルニア。このリーフェルニア領の領主である」

「……その領主が再びのこのこと我等の前に現れるとは、どういう風の吹きまわしだ?」


 ゴラウンの疑問ももっともで、普通であれば領主がわざわざ敵の前に姿を現すなどありえないことだ。

 少なくともゴラウンの経験上、人間族の権力者というものは後方で高みの見物をしているものだった。

 自分の直属の上司のように、戦闘狂であるならば話は別なのだが。


「なぁに、単純な話だ。我輩がこの領地で一番――いや、二番目に強いからである。前線に立つのは自然なことであろう?」

「二番目? ……そうか。そのようだな……」


 レオナルドの言葉通り、ゴラウンから見たその佇まいは歴戦の戦士のそれだ。

 人間族だからと言って、決して侮ってはならないとゴラウンらに自覚させられる程の覇気を纏っていた。


「いいか? 最後に忠告する。最初にも言ったが、我輩達は殺し合いに応じる意思はない。侵攻に対しやむを得ず反撃したが、死人は出ていない筈だ。このまま引き返すのであれば、我々は貴殿らを追うこともしないし、魔王国へ責任を追及する気もない。それでも、争おうと言うのか?」

「…………」


 レオナルドの言う通り部隊に死者は出ていない。

 数多の妨害、そのいずれも命を奪うようなものではなかった。

 そのことから、本気で命のやり取りをする気がないのは事実であろうと推測できる。

 しかし、ゴラウンには退けぬ訳があった。


「……すまんが、退くことはできない。私は部下の命を守る義務がある。命令は完遂しなくてはならない」


 命令を遂行出来なければフレアルドの不興を買い、最悪反逆罪だなんだと理不尽な理由を付けて処刑されかねない。

 そしてその牙は本人のみならず、その家族や関係者などにも及ぶ可能性がある。

 それだけの残虐なことをフレアルドならやりかねないし、実際殺された者もいる。

 ゴラウンは部隊を預かる隊長として、なんとしてもこの街を抑える必要があった。


「――そうか、なにか事情があるようだが……聞き入れてもらえず残念だ。ならば我等とて容赦はせんぞ」


 気付けば夜は明け、朝日が二人を照らし始めた。


「御託はいい……いざ参る!」


 ゴラウンは宣言と同時に地を駆け、剣を抜き斬りかかる。

 対するレオナルドはそれに素早く反応し、大剣で初撃を受け止める。


「ぐっ……おおっ!」

「ぬっ……! はあっ!」


 レオナルドは力を込め、受け止めたゴラウンの剣を腕力で以て押し返す。

 力負けしたことに一瞬動揺したゴラウンであったが、次なる手として二撃、三撃と速度を重視した攻撃を繰り出す。

 しかしレオナルドは、その身の丈程もある大剣を器用に使いこなし、その全てを捌ききった。


「ふむ……人間族にしてはやるではないか」

「貴殿こそ、これで本気などと言う訳ではないだろう?」

「ふ、どうだかな。――各員、この男は私が相手をする! リューグと合流し、館を制圧せよ!」

「――了解!」


 ゴラウンの命令を受け、リューグの元へと向かう隊員達。

 しかし、その足取りは急に鈍重なものに変わっていた。


「な……なんだ、体が重たい……!?」

「これは――、あの――時の!」


 隊員達の体に纏わりついていた粘着性のある物質が、どういう訳か硬化し始めたのだった。

 全身を縄で縛り付けられたような感覚、動けないこともなかったが、それにはかなりの労力を必要とする。


「どうしたお前達!? くっ、また何かの策か……!?」

「ふっ、よそ見とは余裕だな!」


 部下の危機に意識が逸れるゴラウンの隙を突き、レオナルドの大剣が迫る。

 

「ちいっ! ――リューグ! 皆が何らかの妨害を受けた、援護を頼む!」


 大剣を紙一重で回避しながら、ゴラウンはリューグへと指示を飛ばす。

 しかし、リューグはリューグで騎士団の相手をしているので、援護に回る余裕はなかった。


「いやっ、ちょっと、無理っ! そう……です! こいつら動きは大したことないけど、装備が良いせいか油断できなくて……!」


 リューグは未だ複数人に四方八方を囲まれ、付かず離れずの距離で牽制され続けているため、包囲を抜けるには一筋縄ではいかないだろう。

 しかしそうも言ってはいられない。

 リーフェルニア領側の増援が来ようものならば、身動きが取れない他の隊員達が倒されてしまう恐れがあるからだ。


「くっ、こうなったら消耗は気にしてられないな……! 本気で行く! 魔力全解放! ――おおおおっ!」


 リューグは残る魔力を全解放し、その際に生じる衝撃波で騎士団をまとめて吹き飛ばす。

 これにより、魔力を使う技などは使用できなくなるが、仲間を守るためやむを得ないとリューグは判断した。

 騎士団を吹き飛ばしたその隙に、リューグが他の隊員に近付こうとするが、その進路上に何者かが現れ、阻まれてしまうのだった。

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