リーフェルニア領の戦い④
「おっと、あんたの相手は俺がするッスよ!」
「っ!? 何だお前は!」
領民の護送任務を終えたガウェインがタイミングよく到着し、リューグの前に立ちはだかり、その動きを牽制する。
「俺の名はガウェイン! 俺が来たからには、あんたの好きにはさせないッスよ!」
「何だと……!? お前のような青臭いガキに俺が止められると思うなよ!」
「ガキじゃないッス! 俺がガキならあんただって同じじゃないッスか!」
「俺は魔族だ! 長生きな分成長が少し遅いだけだ、これでもお前の倍以上は生きてるぞ!」
「その物言いがガキだって言ってるんスよ!」
実際リューグの見た目はガウェインと同年代に見えるが、実年齢は倍以上の差がある。
だがそんなことは今この場においては関係のないことであった。
「ガウェイン!」
「リューグ!」
レオナルドとゴラウンが同時に、醜く口喧嘩する二人の名を叫ぶ。
戦闘中のため名前を呼ぶ一声だけであったが、『気を引き締めろ』と、二人にはそう聞こえた。
その声が聞こえた瞬間、今にも手の届きそうな距離にいた二人が間合いを取るため後方へと飛び退く。
距離を取り睨み合うガウェインとリューグ。
お互いにどう動くか、相手の実力はどの程度なのか、それを探り合っていた。
「ガウェイン――任せたぞ!」
再びレオナルドよりガウェインに声が掛けられる。
こちらを見ながらでもなく、たった一言。ただそれだけだったが、それを受けたガウェインの気力は漲っていた。
憧れた背中、それを追うだけだった自分。
でも、その憧れた人にただ一言、『任せた』と言われた。
それは信頼の表れであり、この局面において自分の力が必要とされ、またそれを任せられるだけの能力があると認められたのだ。
ずっと先にあると思っていたその大きな背中、その背中を任せられるまでになったことは、ガウェインにとってこの上ない喜びであった。
「なんだこいつ……急に目付きが変わった……? くそっ! いくぞ、覚悟しろ!」
先に仕掛けたのは、ガウェインの雰囲気が変化したことに焦りを感じたリューグの方からだった。
リューグの得物は曲刀の二刀流。
対するガウェインはごく一般的な型式の直剣を使用していた。
リューグの曲刀は、刃渡りは直剣に比べ短いが、二刀の連撃による圧倒的な手数により、そのリーチ差を物ともしない。
その筈だった。
「おぁぁっ!」
「ふっ、はっ!」
リューグの目にも留まらぬ連続攻撃を、ガウェインは剣一本で凌ぎきって見せた。
「くっ! こいつ……結構やるな!」
正直リューグはガウェインを侮っていた。
ガウェインぐらいの年頃の人間族を戦場で見かけることは何度もあったが、その殆どは素人に毛が生えた程度の実力しかなかったのだ。
このガウェインという男も、虚勢を張っているだけで大してそこらの有象無象と変わらないのだろうと高を括っていた。
しかしガウェインは、数度の攻防だけであったが、その見た目にそぐわない実力を見せた。
「こんな奴に負けられるかよっ!」
「こんな奴とは――失礼ッスねっ!」
魔力が尽きているとはいえ、魔族の中でも特に優れた種族である竜人種、更にはその中から選ばれた者しか所属できない部隊に入隊した、いわば戦闘におけるエリート中のエリートだ。
そんな自分と、年端のいかない青年が単独で渡り合っているなど、リューグのプライドが許さなかった。
「くらいやがれっ! クレセントスプラッシュ! そらそらそらっ!」
業を煮やしたリューグが放った激しい斬撃の嵐がガウェインを襲う。
咄嗟に距離を取るガウェインであったが、曲刀が触れていないにも関わらず、体の数ヵ所に裂傷を負ってしまう。
「うぐっ!? 斬撃が……飛んでいる!?」
掠める程度であったので、そこまで深い傷ではなかったが、傷を負って尚止むことなく間合いの外から無数に繰り出される飛ぶ斬撃に追われ続けるガウェイン。
目視が出来ない真空の刃だが、動き続けることによって狙いを逸らし、かろうじてだが回避ができていた。
「くっ、どうにかして対処しないとこのままじゃヤバいッスね――――っつ! ――よく見ろ……ガウェイン。やればできる筈ッス!」
斬撃の一つが腕を掠めて、ガウェインの表情が痛みに歪む。
無数に飛び交う斬撃のどれか一つでもまともに受けたら、致命傷になりかねない。
かといってこのまま避け続けるのも不可能に近い。
となればガウェインの取る行動はただ一つ。
「接近戦に持ち込む……!」
一か八か、ガウェインはリューグとの距離を詰めるべく転進した。




