魔王軍のその後⑧ sideフレアルド
今回軽めに残酷描写が入りますので苦手な方はご注意ください。
「アース様に会われて、どうするおつもりなのですか?」
「さっきも言っただろ、反逆者である奴を俺様の手でブッ殺してやるんだよ! あァ……楽しみで仕方ないぜ」
表向きには、アースは魔王暗殺に関わった反逆者として処刑したと公表されているので、フレアルドの言う通り、もし生きていたとしても即刻処刑が望ましいのかもしれない。
しかし、秘書官には思うところがあり、部隊のため……いや、魔王国のためにそれを伝えるべきだと考えていた。
「……私独自に調査した結果、食糧の生産、武具の作成、薬品の開発など、魔王国における生産活動のほぼ全てに、アース様が関わっていることがわかったんです」
秘書官は、彼女なりに現状起きている問題を解決しようと調べていた結果、発生している問題のほぼ全てが、アースが突然不在となったことが原因なのだと突き止めたのだ。
「――あァ? だからなんだってんだよ?」
「その……つまり……アース様を再び死罪とするのではなく、戦時中の特例として減刑した上で、魔王軍への協力を要請してみてはいかがかと思いまして……これならば補給や装備などの軍備が万全となり、我が軍が敗北することはないと考えられます」
仮にアースの協力を得られるのであれば、秘書官の言う通り勝利の可能性は間違いなく高まるだろう。
しかし、秘書官の決死の覚悟を込めた提案を受けたフレアルドは、返事をすることもなくすっと立ち上がり、そのまま立ち尽くしていた。
「…………」
先程までの上機嫌な様子から一変し、感情を無くしたように無表情で秘書官を見つめるフレアルド。
「あ……あの、フレアルド様?」
「――――わかった」
「えっ……! ほ、本当ですか、フレアルド様! でしたら早速――――」
恐らくは手を上げられる、良くて無視されるだろうと想定して発言をしたのだが、フレアルドの口から肯定と取れる言葉が出たことに驚く秘書官であった。
しかし、次の瞬間には別の意味での驚愕が彼女を襲う。
「――――え?」
体に鋭い痛みを感じた秘書官が、その原因を探そうと自身の体を見ると、腹部から伸びる長い棒のような物が見えた。
ひんやりとした冷たい鉄の感触とともに、それが槍であると気付いたときには、腹部から滴る血で地面が赤く染め上げられていた。
「――かっ、はっ――フレアルド……様?」
「……あァ、よくわかったよ。アイツを庇うような事を言うってこたァ、お前がアースの野郎と内通していたんだな? 俺様の軍だけ負けが続いたのもそれが原因だったんだ!」
「……ち、違っ――私は……ただ……!」
もちろん秘書官はアースとの繋がりなど無いし、ただただ国を思っての発言であったのだが、そんな彼女の気持ちは、フレアルドには少しも届かなかったようだ。
「黙れ……! 消え失せろ反逆者が!」
フレアルドの握る槍、ドラグニルから炎が迸り秘書官の体を包む。
「あああああっ! いやぁっ! 熱い……! ああ……助け――兄さ――」
その言葉を最後に、秘書官は松明のように燃え続ける。
体を貫く槍の穂先から、そのまま体内を炎で焼かれ、いかに強靭な肉体を持つ竜人族といえども、1分と経たない間に絶命してしまった。
やがて炭化した肉体から頭部だったと思われる物体が、フレアルドの前に転げ落ちる。
「――フン」
フレアルドはそれを躊躇なく踏み潰し、槍を引き抜くと、秘書官だったものは、夜風に紛れてはらはらと砂のように崩れ落ちた。
当然、部隊員の中にもそれを目撃した者はいて、周りを巻き込み騒然としだす。
「うるせぇぞお前ら! アイツは裏切り者だったから殺した! それだけだ!」
フレアルドが今の一件を騒ぎ立てる者達に、怒号を飛ばすが、一向にざわめきが収まる気配がない。
それだけ部隊内において衝撃的な事態であったのだ。
その様子に苛立ちを覚えたフレアルドは、荒っぽいやり方を取る。
「――あァ、めんどくせェ……いいかお前ら! ウダウダ言ってる奴は全員共犯者とみなす! 文句がある奴は今すぐかかってこい! この俺様が相手になってやるよ! 俺様に楯突く勇気がねェんなら、大人しく言うことを聞くんだな!」
フレアルドのその言葉に、部隊の全員が一斉に口を閉ざす。
フレアルドに逆らい、反逆者扱いされようものなら命は無いだろうし、かといって楯突いたところでも同じ結果になるからだ。
一対一は当然のこと、仮に全員で仕掛けても、真正面から無策で挑んでは返り討ちに遭うであろう実力差がある。
フレアルドが四天王最強と呼ばれる所以がここにあった。
「フン……臆病者どもが。――ハァ……クソッ! 反逆者を始末できたのはいいが、あの女のせいでムカついてきやがったぜ」
原因となった人物を殺してもなお、フレアルドの苛立ちは収まることはなかった。
それくらいに、アースを庇うような発言をしたこと、その存在価値を認めていることが許せなかったのだ。
「――こりゃァもう、アースを直接ぶちのめす以外にこの苛立ちを抑える方法はねェな。――よぉしお前ら! 休憩は終わりだ! 予定より早いが、今すぐ作戦を実行する! ここを発つぞ!」
不快な気分を晴らすために、フレアルドは予定を繰り上げてリーフェルニア領へと向かう。
フレアルドは薬や食糧を優先的に自らの物としていたので、ほぼ万全な状態であったが、他の部隊の面々はろくに休息や食事も取れずに、おおよそ健全とは言い難い状態であった。
それでも体に鞭打ってフレアルドに付き従う姿には、かつての伝説的な部隊の面影はどこにも見当たらない。
そのまま進軍し、フレアルドと滅戯竜隊は、遂にリーフェルニアの街が目視できる位置に到着する。
アースとフレアルドの宿命の戦いが、いよいよ幕を上げようとしていた。




