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再びの冤罪

「ん? なんだ? ――ああ、少し待っておくれ。今日の薬を飲む時間だ」


 アースが取り出した薬を渡そうとした瞬間、鐘が鳴り響いた。

 何を報せる鐘の音なのかはアースとエレミアにはわからなかったが、エドモンドはいつもこの鐘が鳴る時間に薬を服用しているらしい。

 エドモンドは、ベッドの横に備え付けられた小さな水差しから薬を注ぐと、一口に飲み干した。


「――――むぐっ! がぁ――――ぐっ!!」


 すると、薬を飲んだエドモンドの様子が急変した。

 胸を押さえて苦しみ始め、その目は血走り真紅に染まり、やがて眼球から血が溢れだし涙を流したように頬を伝う。


「キャァァァァッ!! 誰か来てっ! エドモンド様がっ!」


 それと同時に、女性の悲鳴が館に響き渡った。

 その悲鳴を発したのはエレミアではなく、()()()()()()()()()()()()使用人のものであった。


「何事だっ! ――はっ! エドモンド様っ! エドモンド様ぁっ!」


 衛兵と思わしき人物が即座に駆けつけ、エドモンドの状態を見て大声をあげた。

 エドモンドが危険な状態であるのは誰が見ても明らかであり、そしてエドモンドがこの状態になったときに居合わせた人物はエドモンドを除けばアースとエレミアだけである。

 この状況から導き出される答えは一つ。


「エドモンド様が客人によって殺害された!! 皆のもの、出会え! 出会えーっ!」


「――なっ!?」


「――えっ!?」


 あまりにもの急な展開に、アースとエレミアは困惑していた。

 その間にも次々と衛兵達が押し寄せ、部屋は完全に包囲されてしまう。


「――待って! まだエドモンド様は死んでないわ! 早く治療をっ!」


「ええい、黙れ! 各部隊に命ずる! この不届き者を捕えよ!」


 エレミアの言うとおり、エドモンドは凄惨な状態であったものの、まだ息を引き取ったわけではない。

 しかし、そんなエレミアの悲痛な訴えもむなしく、衛兵達は聞く耳を持たずにアース達を捕えようと近付いて来た。

 

「――くっ! エレミア、ここは一旦退くぞ! 『天地創造(クリエイション)』!」


 この包囲された空間でエレミアとエドモンドを守りながら闘うことはできないと判断したアースは、エレミアを抱き抱え『天与(ギフト)』を使い床に穴を空けて、そこから飛び降りた。

 更に飛び降りた直後に、再び『天与』で穴を閉ざす。


「下の階に逃げたぞ! 追え! 追うんだ!」


 幸いエドモンドの部屋は三階建ての館の最上階に位置していたので、更にもう一階層同様の手段でアース達は下に降りた。

 これで衛兵が追ってくるにしても、相応に時間が稼げることだろう。


「アースっ! 早く戻らないと! エドモンドおじちゃんが!」


「……エレミアの気持ちはわかるが、俺達は今容疑をかけられ追われる身だ。戻るのは容易ではないだろう」


「――でもっ!」


 エレミアは諦めきれないといった様子で、拳が白くなるほど握りしめた。

 彼女の気持ちを尊重したいのも山々だが、あれだけの人数に追われながら事を成すには少々無茶がある。

 アースの見立てでは、衛兵の中にも数名腕の立つ者がいた。

 手練れを含めたあの人数を相手に立ち回るには、大きな館だとはいえ少々手狭だ。

 それに、館に居る使用人などの無関係な者にも危害が及ぶかもしれない。


「すまん……俺の力不足だ」


「――っ! …………ごめんね、アース。それでも、私は薬を届けに行くわ」


 エレミアは、覚悟を決めた面持ちでアースの目を真っ直ぐ見詰める。

 断固たる決意が、そこにあった。


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