エドモンドとの再会
「リーフェルニア様ですね、お待ちしておりました」
アースが館を見上げていると、入口の扉が開きこの館の女中らしき人物が姿を現した。
「あっ、はい。エレミア・リーフェルニアと申します」
「エドモンド様は現在出歩けるお身体ではございませんので、『出迎えが出来ずに申し訳ない、会えるのを楽しみにしていた』との言伝を預かっております。エドモンド様の私室にご案内致しますのでご足労お願い申し上げます」
「いえ、こちらこそ無理を言って申し訳ございません。よろしくお願いします」
広い館の中をしばらく歩き、エドモンドの私室までと案内されたアース達。
アースはこれまでの事があったので、何があっても対応できるように警戒はしていたのだが、何らかの仕掛けが施されているような所は見受けられず、杞憂に終わった。
扉の前に立ったエレミアは、扉を軽く叩き相手の反応を待つ。
「来たか……入ってくれ」
「失礼します」
扉を開けると、一般市民の家一つ程の広さはある大貴族に相応しい部屋であるのに、余計なものは置かれてはおらず、大きなベッドが一つ、部屋の中央に置かれていただけであった。
そのベッドに横たわる男性こそが、歴代続く公爵家の先代当主、エドモンド・コンクエスターその人であった。
「――!」
エドモンドの姿を見たエレミアは、思わず絶句した。
幼い頃に父レオナルド共々、何度か世話になったことがあるのだか、その頃の記憶にあったエドモンドの姿とはあまりにも違いすぎたのだ。
武術を嗜んでいたこともあり、年齢のわりに体つきもがっしりしていて、気さくでよく笑う人物だったとエレミアは記憶していた。
それがどうだろうか、ベッドに横たわるその体は痩せ細り、まるで抜け殻のように表情も虚ろだ。
意識こそはっきりしているようだが、もう先は長くないだろうことはひしひしと伝わってくる。
その変わり果てた姿を目の当たりにしたエレミアは、思わず駆け出しエドモンドの手を握る。
「……エドモンドおじちゃん、久しぶり。エレミアです」
「おぉ……おお! エレミアちゃんか……! 大きくなったのぅ。何年も会いに行ってやれなくてすまんな……駄目で元々で招待状を送った甲斐があったわい」
エレミアの存在を確認したエドモンドの虚ろな目に、僅かだが光が戻る。
エレミアが砕けた口調で話し出すものだから、アースは少々驚いたが、エドモンドは気にした様子はなかった。
二人の会話から察するに相応に仲の良い間柄であることがわかる。
「いいのよ、おじちゃん。お互い忙しかったし、おじちゃんも今は無理できない体なんだから、しっかり休んで。ね?」
「うむうむ、優しい子に育ったのぅ。ワシゃあ嬉しいぞ。……それより、レオナルドの姿が見えんが……奴はどうしたんじゃ?」
「あれ? 聞いてなかった? お父様は別の用事があってここには来れなかったのよ」
「なんじゃと!? あやつめ……ワシに顔を見せることより大事な用があるとはけしからんな! むぐっ!? ――ゴホッ! ゴホッ!」
興奮したためか、エドモンドは急に咳き込んでしまう。
口を押さえたその手は、鮮血に染まっていた。
ただ咳き込んだだけだというのに、吐血してしまうほど病状は芳しくないようだ。
「おじちゃん!? だ、大丈夫なの……!?」
「なぁに……この程度いつものことだ、問題ないわい」
「……そんなに苦しそうにして強がっても、ぜんぜん説得力ないよ……」
「――回復魔法、解毒薬……あらゆる手を尽くしたが、一時的に良くなることはあっても、ついぞ完治することはなかった……今は定期的に薬を飲むことで生き長らえているに過ぎない……ただの老いぼれじゃよ」
そう言ってエドモンドは、窓の外を遠い目で見つめる。
エドモンドは自らの死が近いことをを悟り、それを受け入れているのだ。
「そんなこと言わないでよおじちゃん……! 私達の領地だって、やっと勢いに乗ってきたところなんだから! おじちゃんが助けてくれたおかげだよ……これからもっともっと発展していくんだから、ずっと見ててよね……!」
「ほう? それはいい知らせだのう。ここにずっと寝たきりなもんでな……あまり外の情報が入ってこないんじゃよ。……ふふ、援助した甲斐があったわい。これでもう悔いはないかのぅ……」
「エドモンドおじちゃん……あ、そうだ! もしかしたらと思って用意してきたものがあるの」
そう言って、エレミアはアースに目配せをする。
エレミアは今回エドモンドを訪ねることが決まってから、アースに一つお願い事をしていた。
アースの持つ『万能の霊薬・模造品』であれば、エドモンドの病を完治させることが可能だと思い、この場に持ち込むように事前に頼んでおいたのだ。
アースの手元にある最後の一つであったが、リーフェルニア家の大恩人のためと聞けばアースに断る理由はなかった。
舞踏会への物品の持ち込みが禁止されていたため、アースは胸元に付けたブローチから、予め仕込んでおいた『万能の霊薬・模造品』の入った小瓶を取り出した。




