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旅の途中で

 翌朝、アースとエレミアは手配された馬車に乗り、コンクエスター公爵家へと出発した。

 道中、馬車に揺られながらアースはふと思い当たる事があった。

 道が通じたとは言え、公爵家までは数日かかる距離だ。

 途中で休憩を挟みながら向かうことになるが、残念なことに1日で辿り着ける範囲に村などは無く、どうしても野宿をする必要があるだろう。

 そのことを懸念したアースがエレミアに問いかける。


「エレミア、途中で野宿をすることになるが大丈夫なのか?」


 辺境の地で産まれ育ったエレミアだが、レオナルドの溺愛っぷりから察するに殆ど外には出なかったのではと思い、アースはエレミアに尋ねた。


「ええ、平気よ。これでも昔は剣の修行だってしたし、調査部隊にも参加したことがあるのよ。……まあ、途中で辞めちゃったけど」


「そうなのか? ……理由を聞いてもいいか?」


「お父様が元冒険者だったから、小さな頃はお父様の冒険者時代の話をよく聞かされたものよ。それで自然と冒険者に憧れてね……でもいざ外に出て魔物を相手にした時、どうしでもとどめを刺すことができなかったの。その時魔物の反撃から庇ってくれたお父様が深傷を負っちゃってね……それ以来剣を握るのが怖くなってしまったのよ」


「そうだったのか……すまない、思い出したくないことを話させてしまったな」


 エレミアにとってあまり思い出したくないであろう過去のことを軽薄に聞いてしまったため、アースは即座に謝罪した。


「いいのよ、もう何年も前のことだし……まあ、そういうことだからもし何かあったらしっかり守ってよね! 今は私の専属の使用人なんだから!」


「ああ、任せてくれ。エレミアは俺が命に代えても守ってみせるさ。今回だけじゃない……これからも、ずっとだ」


「――――! う、うん。ありがと……」


 そう返事したエレミアは顔を俯けてしまう。

 重力で下に流れる髪から垣間見える耳が、真っ赤になっているのがかろうじて見て取れる。

 アースとしては先の言葉に他意はなく、言葉通りの意味であったのだが。


「――と、とにかくアース! 公爵家に着いたらちゃんと言葉遣いを正しなさいよ? まあ、付き人が喋る機会はそう多くはないだろうからそこまで気にしなくてもいいけど……」


 何かを吹っ切ったようにガバッと顔を上げたエレミアがアースに忠告をした。

 アースはエレミアに忠告されたことを全く想定しておらず、少し慌て始める。


「む……しまったな。そういった言葉遣いは慣れていないんだ……どうしたらいい、エレミア?」


「様! 敬語!」


「ど、どうしたらいい……よろしいので、しょうか? エレ、エレミア……様……?」


「ぷっ! あはははははっ! 何よそれ、可笑しいんだから! ふふふふふっ!」


 アースの普段と違うあまりにぎこちない話し方に、エレミアはつい吹き出してしまう。

 アースは一瞬不本意そうな顔になったが、エレミアの笑い声につられて一緒に笑い出してしまう。


「ははっ、笑いすぎだぞエレミア」


「ご……ごめんなさい……ふふっ」


 アースとエレミアはしばらくの間他愛もない会話を続けた。

 こうして、道中大きなトラブルもなく旅を進めた二人は、コンクエスター公爵家が統治する街の宿屋に到着する。

 


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