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自覚と理解


「なぁーーんてこともあったわねーー!!」



 盛大な溜息とともに吐き出された言葉は周りの空気に溶けていった。とはいっても明らかに怒気を含むその声音に周りの反応は様々だ。


「お、おい……今日は久々に荒れてるがユウはどうかしたのか?毛が逆立ってかなわんぞ」

「まあ……ありましたね。私も尻尾のあたりがぞわぞわして辛いんですよ」

「お前らの毛事情は心底どうでもいいが、ユウ……イライラするなら一度外に出て気分転換でもしてきたらどうだ?」


 机に突っ伏していた顔を上げヴォルグへと視線を向けた夕月はお酒臭い。特別酒に強いわけではないのに、飲み過ぎなのは誰の目にも明らかだった。


「今外に出たら国が一つ消し飛ぶけど一体どこの国がお望みかしら?」

「だめだぞ……直すことにも限界があるだからな」

「いや、そういうことじゃないだろう……」


 ふんと鼻を鳴らした夕月は新しい酒を探しに部屋を出て行った。

見送った後ろ姿はフラフラと頼りないが追いかけてはいけないとユリンが他の二匹を制す。


「で? いったいどうしたんだユウは」


 テトラディアンが理由を知っている風のユリンに尋ねる。夕月のあの荒れ具合には見覚えがあるから、理由はなんとなく想像つくが、聞かずにはいられないのは何故なのだろうか。


「……ご結婚されるんだそうですよ。四天獣の陽のお方たちと......異世界の花嫁殿がね」





二年前〜



「髪、伸びましたね……」

「そうですね。肩も越しましたし、これからは結える髪型の幅が広がりますよ」



 櫛を通しても絡むこともない髪はあの日、自らハサミを入れた日から随分と長くなっていた。

 もう半年になるのだから、何もおかしなことはない。


「この世界に来てもう半年も経つんだ……」


 あの日から夕月の生活は一変した。

 魔法適性のあった夕月は教師をつけてもらい勉学に励み、せめてみっともなくない程度にはと礼儀作法を身につけこの世界を知ろうと努力した。


 そしてわかったのは、この世界には四天獣を崇拝する国が四つあってその他の国は大昔に滅んでしまったということ。

 けれど四つの国の外には誰も住んでいない訳ではなく、それなりに生存能力の高い人外の者達が暮らしているらしいということ。



「夕月様。そろそろお時間で御座います」


 呼び声に返事を返してから再度鏡で確認する。

 鏡に映った自分は綺麗に化粧を施され、西の国の衣装に身を包み少し重い簪で髪を飾っていた。

 この簪がこれから会う人の好みの物だと知ったのは割と最近のことだ。いつも嬉しそうに簪に触れてくるから「気に入ったならあげましょうか?」と聞いて少し落ち込ませてしまったけど。

 我ながら男心がわからない女だと思うが、それでもこうして4日ごとに会ってくれてるのだから間違いなく好かれてはいるのだろう。



 カツカツとなる靴音は私の他にもあり、その人達が扉を開けてくれるから私はただ目的地まで黙々と歩くだけ。

 最後に一際大きく豪華な扉が開けられれば、部屋の主人が今日も椅子に座りもせず私を待っていた。


「待っていたよ、ユエ。さあ、早く部屋にお入り」

「はい。お邪魔致します。ーーークォルツ様」



 涼やかな水色の髪。柔らかな笑みと口調は今日も夕月の心をほんの少し擽ってくる。





 異世界に来て半年。

 私は多分この人が好きだ。








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