生徒会長の場合
前話の生徒会長視点です。
俺は東雲 大和、東雲公爵の嫡男で、十七歳の高二だ。因みに学園の生徒会長を勤めてる。
自分で言うのも何だが容姿は母親譲りの整った顔立ちで、中々女性にはモさテる。身長ももう少しで180㎝に届く位だ。成績は憧れてる幼馴染みの影響で、努力をしてきたので常に学園首席をキープしている。
そんな俺の幼馴染みは二人いて、先程言った俺の憧れの駒縁 絆さんで一つ年は上。東雲家に昔から付き合いのある男爵家の嫡男で、使用人学部に通う生徒副会長。鋭い目付きだが顔立ちは整っておりその瞳は暖かく、家族思いの兄貴分で格好良い。成績も優秀で、使用人学部きってのエース。身長も185㎝と高身長。噂では俺と同級の聡美第二皇女様と良い仲だとか。今度是非聞いてみたい。
そして、もう一人の幼馴染みはその絆さんの大事な妹で、駒縁 結だ。
これがまた身内並みの俺の贔屓目無しに美少女だ。身長は俺の胸元辺りで、髪は黒のロングストレート。アーモンド形の大きな目に、化粧も無しに色白の肌に桜色に艶やくふっくらとした唇は、目を惹いて困る。
性格は兄に似て努力家で、普段温厚で素直だけど、実は甘えベタで拗ねると意地っ張りだ。そのギャップが可愛くて堪らない。
そんな彼女は昔から俺の家の使用人を目指して、俺に忠誠を誓っている。尊敬します、大好きですオーラを駄々漏れにして近くに控えるのだから、こっちは堪ったものじゃない。
高校に入り俺の役に立つ為と生徒会役員から頼まれる雑務を引き受け始めた時は、そんな事しなくて良いのにと言ったが、将来の為だとか言って頑張る始末。そしてあまりの有能っぷりに雑務所か生徒会の役員の仕事まで密かに回され、それの度が過ぎたのか以前ストライキを興した。俺もそれを知った時には使用人学部の生徒会に例え絆さんでも抗議した。
だけど、その後が大変だった。結に、悪い虫が群がった。鈍い結は気付いて無かったが、生徒会の仕事から解放された途端手の空いた結の気を惹こうと、遊びの誘い、勉強会の誘い、食事の誘い、告白紛いなんてのもあった。
それと弊害で生徒会メンバーが結がいないとやる気減少するとか言い出し、必要書類が期限ギリギリで回ってきたり、雑務が溜まりに溜まって、生徒会メンバーがちょっとしたノイローゼ気味になったりと、流石の絆さんでも結の虫駆除までしてたら処理が追い付かない、と嘆息していた。俺も自分の学部の生徒会の仕事に追われて手伝えず、結果、生徒会顧問の教師が結に「生徒会が回らないとか止めてくれ!」と泣き付きに行ったらしい。それ以降結は生徒会雑務係員なる役員なんだかよく分からない地位に着いたらしい。
兎に角、上手く事態は収まった様だ。
「お疲れ結。俺に出来ることなら手伝ってやるからあんまり根を詰めるなよ」
だけど、やはりそのせいで結が俺の所に来る時間が減った。最近は雑務に慣れたらしく、余裕を見せ始めた結を帰りがけに近況報告するように、って言いくるめて誘って、今は俺の実家だ。結の好きなココアを渡せば嬉しそうに微笑んで「ありがと」と言い受け取る。
そして一口ずつチビチビ飲みだしてから、結は先程の俺の言葉に対し口を開く。
「平気だよ。大和も忙しいのにこれ以上負担かけられない。寧ろ私が手伝いたくて始めた訳だし、この前の件で反省したし、最近手際も良くなってきたから前程きつくない」
反省したとは、生徒会が自分のせいで回らなかったと言う意味なんだろう。そんな事、結だけの責任ではないのに。それに、俺の事を思って援助を断るのも相変わらずだ、と同時にそれが結の良い所で、まあ、仕方ないのかと苦笑すると結の頭を労りを込めて撫でた。
すると、結は気持ち良さそうに目を細めて口元を緩める。
まるで飼い主に撫でられて服従するワンコのような結に、俺の理性は揺らぐ。
(そんな警戒心の欠片もない様な顔されると、困る…)
好きな子の無防備な姿に手を出したい衝動に駆られる。だけど、これは幼馴染みだから、忠誠を誓う主人だからこうなんだ、と自分に言い聞かせて、俺は結の手触りの良い髪から手を離す。
「まあ、ほどほどにな、絆さんにはあんまりこき使い過ぎるなって言っとくから」
「ありがと。でもいずれは私も兄様位出来る様になって、東雲家の使用人に採用して貰いたいから、頑張る!」
「ははっ、結は十分出来てるよ」
結がきつくならない様に、手だけは回すと言った俺に、相変わらず努力家で、自分に厳しい結はそれを軽く拒む。
俺としては、結には使用人ではなく、別の地位で俺の側に居て欲しいのだから、そんなに頑張られると困るんだが、結にはそれを伝えられず曖昧に濁してしまう。
「いえ!兄様は魔法戦士も履修してるのに、私は癒術や結界術しかまだ取れてない。体術で女子で上位でも男子では下位だし。使用人たるもの主を守る為、せっかく魔力を持ってるので、戦闘魔法も覚えます!」
お前は一体何を目指してるんだ!?と思わずにいられない結の発言に、俺は慌てた。
将来結が俺の前に立ち、敵から護ろうとする姿が一瞬脳裏を過る。そんな情けない姿、有り得ない!
そう思った俺は努めて冷静に結に抗議した。
「うーん、俺としては女の子に護って貰うのは情けなくなるから今の結位でも十分過ぎるんだよな」
「そんな…、必要ないなんて言われても私はこれから何を頑張れば」
どうやら落ち込ませてしまったみたいだ。
目標を失うのは結みたいなタイプには禁則事項だよな、と思い、どうせなら俺の都合の良いことを提案しよう。
「それなら令嬢学科と秘書学科は?」
「えっ?秘書なら分かるけど、令嬢って?」
俺の提案に、結はぱちくりと目を瞬かせる。まあ、秘書学科は社会で上に立つ者の役に立つから、疑問には思わないよな。俺もいずれ家督を継いだら有能な秘書は必要だし、勿論絆さんは履修していた筈だ。だけど、令嬢学科は使用人に必要かは不明だろう。なんせ立ち居振舞い講座だ。華道、茶道、書道、ダンスレッスン、言葉使い、部下との距離だとかだ。令嬢学科は帝王学部校舎での女子の必修学科だ。戦士学科もそうだが使用人学部からも令嬢への教養指導を目指す者がいるので需要があるし、帝王学部と使用人学部間の特別棟で戦士学科とは別れて行われている。
まぁ、俺はそう言う理由で勧める訳じゃないが。
「ほら、駒縁家は使用人になる事が多いだけで本来爵位持ちだし、経営者になった親戚もいるだろ?絆さんは次期当主だからそれも履修してるし、結が社交デビューすれば勿論その時使用人としてじゃなく駒縁の人間として挨拶周りもあるだろうし、俺がパーティー出る時に結がパートナーしてくれると助かる。最近一人でいると縁談持ち掛けてくる人多くていちいち断るの大変でさ」
俺の言葉に、結は瞳を輝かせる。特に後半の言葉。
パートナーを務めて欲しい。
それは、つまり告白に近い。それに対して喜んだ表情なのは、実は結も俺のこと異性として見てくれてる?
何て、そんなポジティブではない。自分で言ったじゃないか、つまり女避けだって。いや、ただの照れ隠しなんだよ、最後はな。けど、主人としか見てない俺にそんなこと言われても困るのは結だし、この関係が気まずくなるのは嫌だから仕方ない。
「分かった!大和さんの頼みなら聞かない訳にいかないもん。令嬢学科やってみる」
「そうか!ありがとな。これで悪い虫もつかなくなる」
っと、つい本年が漏れた。モテる結を俺のだと牽制する為にパートナーとして見せ付けようとしてたなんて、まだバレる訳にはいかない。
「ん?大和さんモテるもんね。大丈夫!完璧にパートナーして不快にさせないように頑張るね」
元気になった結に、バレてはなかったのでほっとはしたが、残念だと思う所もあった。そして、そろそろ長居になるからと、結は一人で家に帰ろうとしたので、俺は送ると言い立ち上がる。
いくら鍛えてるとはいえ、女の子一人で帰す訳にはいかない。まして、相手は好きな子だ。
断りそうな結の表情に口を開こうとしたところで絆さんが応接室に現れた。流石、過保護な兄だと感心する。
「嫁入り前の女が夜道を一人で帰ろうとするな、馬鹿」
「ひどい、私だって護身魔法仕えるよ」
「いや、絆さんのが正しいから。結は危機感を持った方が良いよ」
うん、心配するのは分かるけど、馬鹿呼ばわりは不味いよ、絆さん。まあでもこれ位でないと聞かないのは事実だから、絆さんの援護に回る。すると、納得いかないと言った表情の結に、絆さんは手を捕んで帰りを一緒するようだった。
「妹が迷惑掛けたな」
「いいえ、絆さんには頭があがりませんよ」
相変わらず兄貴肌な物言いに、俺は格好良いな、なんて思いつつ、結の事では応援して頂いてるので、その事を含めた言い回しをする。
「安心しろ、こいつの身柄は生徒会で確保してるからな」
俺の不安要素を知ってる絆さんは、そのままの意味を返してくれた。本当、この人が味方で良かったと思う。
「なにそれ、私が何か悪い事したみたいに」
「お前はまだ知らなくて良い。帰るぞ」
俺と絆さんの掛け合いに、結は少し拗ねてしまった。ちょっと膨らませた頬が可愛いと思ってしまう俺はもうかなり結に嵌まってる。
「おやすみ、結。絆さん、お疲れさまです」
結にはいつもの様に挨拶をして、この後拗ねた結を宥めるのは苦労するだろう絆さんの為に労りの声を掛ける。
「問題ない、じゃあな」
慣れてるとでも言う様に苦笑した絆さんは、間違いなく良い兄さんだ。
「えっ、うん。おやすみ大和さん」
いつも通りな俺の言葉に、そして、何の答えも貰えなかった事に結は驚きの声を発すると、拗ねてたのを忘れてくれたみたいで反射的に挨拶を返してくれた。
その表情はちょっと嬉しそうで、しっぽがあればフリフリしてただろう。うん、やっぱりワンコみたいだ。
有り難うございます