9.リアーヌの死因
「俺はユリウスと信用ができる数名にルシールのことを話すのはいいが、
秘密にしておくべきだと思っている」
「私もレオンの意見に賛成だ。
誰がリアーヌを殺したのか、まだわかっていない。
そんな状況で知られたらまずいだろう」
「どうして殺されたの……?
だって、あのままでも長くは生きられなかったのに」
魔力の器が小さく、魔力を身体に留めておくことが難しかったリアーヌは、
成人するまで生きられないと言われていた。
それは貴族たちみんなが知っていた。
危険をおかしてまで殺す必要なんてなかったのでは?
「……リアーヌが狙われた理由は犯人が捕まっていないのだからわからない。
ただ、あの時のお茶会は側妃候補との交流会だっただろう」
「側妃候補の誰かが私を狙ったというの?」
「俺はそうだと思っている。
リアーヌが気に入ったものを側妃にする予定だった。
リアーヌに気に入られているものはそれを喜んだだろうが、
派閥が違ったり仲が悪かったものたちはそうは思わなかっただろう」
「そんなことで狙われたなんて……」
レオンは私を正妃にすると決めていた。
だけど、成人するまで生きられるかどうかわからない私を婚約者にするのは難しく、
正式に婚約することはできなかった。
それでも私を正妃にすることをあきらめなかったレオンは、
側妃も娶ることで私を正妃にすることを認めさせようとした。
そして、側妃はリアーヌと仲良くやっていけるように、
リアーヌに選ばせると。
もともと私はレオンと仲がいいという理由で、
レオンの妃になろうとしている令嬢たちには嫌われていた。
私と仲がよかった令嬢は少なかったから、
私が選ぶことに決まった時、ほとんどの令嬢たちは反発したと聞いている。
それでも筆頭公爵家であるアルベール公爵家の支持もあって、
レオンの意見が認められてしまった。
あの時、私が側妃候補と交流する、三度目のお茶会だった。
一度目のお茶会では、ほとんどの令嬢から謝罪を受けた。
二度目のお茶会では、ぎこちないながらもそれなりに交流できた。
三度目のお茶会では、側妃候補を半分に決めるように言われていた。
あの時、私が倒れなかったら、死ななかったら、
側妃候補の半分は落とされることになっていた。
「側妃候補の令嬢たちは調べられたのでしょう?」
「ああ。念入りにな。だが、何も出なかった。
それどころか、茶器や茶葉からも毒は出てこなかった。
リアーヌの遺体からわずかに毒らしいものが出ただけだった」
「わずかに?」
「父上たちは毒殺だと断定はできないと結論づけた。
だが、俺とユリウスは違う。
あいつらが、あいつらの誰かが殺したんだと思った」
「リアーヌが亡くなった後、レオンは誰も妃を選ばない、
少なくとも側妃候補の中から選ぶ気はないと前国王に訴えた。
だから、そのあとは側妃候補たちとの交流会は行われなかった。
ほとんどの令嬢はもうすでに嫁いでいるよ」
「そう……もう十一年もたっているもの、当然よね」
側妃候補はレオンと同じ十三歳から六歳までいた。
十一年もすぎていれば結婚していておかしくない。
「それでも、ルシールがリアーヌだと知ったら、
また狙ってくるかもしれない」
「私が犯人を知っているかもしれない、から?」
「茶器や茶葉に毒がなかったのなら、何らかの方法で、
リアーヌに毒を直接与えたんだと思う。
だから、リアーヌはきっと犯人を知っている」
リアーヌに毒を与えた犯人……当日のことを思い出そうとしても、
もやがかかったみたいにぼんやりとして思い出せない。
「……ダメ。思い出せないわ」
「そうか。だが、犯人はリアーヌの生まれ変わりだというだけで狙うかもしれない。
できるかぎり知られないように動こう。
レオン、私は一度屋敷に戻って侍女を連れてくる。
許可証は後で発行でかまわないな?」
「ああ、侍女がいれば、俺も少しは離れることができる。
許可証はそのあとでいいだろう」
「わかった……ルシール、すぐに戻るから。
いい子にしているんだよ?」
「はい……お兄様」
いい子にしているんだよ、お兄様はいつもそう言っていた。
私を一人屋敷に置いていくのを申し訳なさそうな顔で。
お兄様は十一年前と同じように名残惜しそうに部屋から出て行った。
「……ユリウスが味方についたのなら安心できる。
まずはルシールは身体を休めて快復させないとな」
「ええ」
肩の傷はふさがっているけれど、身体の中は回復できていない。
長い時間起きていたからか、頭痛がし始めた。
レオンに抱き上げて運んでもらって、また寝台に横になる。
「……レオンも寝るの?」
「気がついてなかったのか。俺もずっと一緒に寝ていたんだぞ」
「怒られないの?」
「問題ない。それだけの力はつけたんだ。
今度こそ、誰にも何も言わせないようにと」
「そっか……」
レオンのお父様はそれほど強くない国王だった。
だから、自分の娘を正妃にしたいペルラン公爵を抑え込むことができなかった。
ペルラン公爵家の長女……マリアンヌ様。
レオンと同じ歳だったから二十四歳。
ペルラン公爵家の屋敷では会わなかったから、もう嫁いでいるに違いない。
マリアンヌ様、ルシールにとっては異母姉になる。
リアーヌはかなり嫌われていたけれど、それはレオンの正妃候補だったから。
ルシールが正妃候補になったと知ったら、どう思うんだろう。
同じペルラン公爵家だから問題ないと思うのか、
自分以外の者が正妃になるのは許せないと思うのか。
マリアンヌ様なら後者な気がする。
リアーヌを殺した犯人だけでなく、ルシールにも敵が多そう。
ペルラン公爵家の次女という肩書も、アンペール国の王家の血筋も、
どちらも嫌われる要素しかないのだから。




