72.暴かれる事実(ユリウス)
どうあっても隠せないと理解したのか、ジョアン公爵は力なく座り込んだ。
「では、審議を再開いたします。
ペルラン公爵、発言をどうぞ」
「では、メリザンド様との出会いから話そう。
最初に手紙をもらったのは今から十八年ほど前のことだ。
夜会で流行っている香を手に入れたいという内容だった。
当時、私が知り合いに贈っていた香の話を聞いたようだ。
メリザンド様は夫にたいしてそれを使いたいと言った」
夫に……ジョアン公爵に誘いをかける香を。
ルシールの話では火属性の単属性だったせいで苛烈な性格だったと。
相手にしてくれない夫に香をたいて振り向かせたかった?
「何をしても夫に嫌われ、まともに話すこともできない。
香が夫婦としてやっていくためのきっかけになればいいと。
そんな純粋なお願いをされたら、香をさしあげるしかない。
私はジョアン公爵夫妻がうまくいくことを望んでいた」
そこでペルラン公爵はジョアン公爵を見た。
冷たい、さげすむような目をしていた。
「私はアンペール国で商談をすることが多いから、
夜会に招待してもらうことはよくある。
だから、メリザンド様が香を使った夜会にもいたんだ。
……他人事ながら心配でね。様子をうかがっていた。
二人は控室に入っていったが、すぐに公爵だけ外に出てきた」
ふぅぅとペルラン公爵はため息をつく。
軽く頭を振るような動作をして、また話し出した。
「一人部屋に残されたメリザンド様が心配で中に入った。
落ち込んでいる様子のメリザンド様から話を聞けば、
ジョアン公爵は夫婦としてやり直すのを拒否したという。
しかも、こんな香をつかってまで自分の気を引きたいのか、
さすがふしだらな女だなと言って出て行ったと」
「なっ!!」
あまりのことにアンリ王子が驚いている。
赤い髪の女はあばずれだから娶ると不幸になる、
という言い伝えがこの国にはあるそうだけど、
元第三王女は王妃から生まれ、前国王夫妻に愛されていた。
信頼できると判断して公爵家に嫁がせたのに、
そんな扱いをされているなんて思わなかっただろう。
その上、表向きには子どもが二人生まれているのだから。
「話しているうちに泣き崩れたメリザンド様を放ってはおけなかった。
その時に一夜でかまわないから、愛されてみたいと。
一度も愛されることなく終わるのは嫌だと言われたんだ」
「一度も……?どういうことだ」
「言われた時にはその意味がわからなかった。
だけど、あまりに不憫すぎたことと、
私が渡した香が原因でより不仲になってしまった責任もある。
そのまま一人置いておくことはできなくて、メリザンド様を抱いた。
……驚くことに、メリザンド様は純潔だった」
「……は?」
「ジョアン公爵は一度もメリザンド様を抱いていなかったんだ」
「っ!?ジョアン公爵!どういうことだ!?」
「…………」
隠していた秘密を暴かれ、公爵は聞きたくないのか耳をふさいでいる。
何も言わないことが不服なのだろう。アンリ王子が大声を出した。
「黙っていないで何とか言え!!」
「アンリ様、落ち着いてください。審議が続けられません。
ジョアン公爵に聞くのは終わってからにしていただけませんか?」
「……わかった。後にしよう。続けてくれ」
完全に流れが変わったのを感じた。
ペルラン公爵の不貞が責められる場だったのに、
ジョアン公爵が元第三王女を邪険にしていたことを責める雰囲気になっている。
そして、ジョアン公爵の隣に座る令息と令嬢の目が大きく開かれている。
自分たちの母親であるはずの元第三王女が、
二人が生まれた後の十八年前まで純潔だったということ。
父親にどういうことなのか聞きたいという顔をしているが、
公爵はずっと下を向いたまま。
「メリザンド様はあの時まで間違いなく純潔だった。
驚いて本人に確認したのだから間違いない。
そして、私はメリザンド様が香を求めた理由に納得した。
結婚して一度も手を出されていないことに悩んで、
効果があるかどうかもわからない香に手を出すほどだったのだと」
「それがペルラン公爵が叔母上と不貞した理由だと?」
「彼女は努力していた。それにジョアン公爵と夫婦であろうとしていた。
自分が産んだわけでもない子どもたちの母親にされても黙っていた。
それなのに、愛してほしくて伸ばした手を拒否された。
だから、誰でもいい。自分を愛してくれる者に縋りたかったんだ。
それが他国の公爵である私だったというだけのこと」
事実関係がはっきりとし、沈黙が続く。
ジョアン公爵も令息令嬢もアンリ王子も真っ青になっている。
追い詰められるはずだったペルラン公爵だけが平然としていた。
少しして、長官がハッとした顔になって審議を続けようとする。
「……で、では、不貞したことは事実だということでよろしいですね?」
「ああ。事情を説明してわかってもらえたのなら、それでいい。
どういう理由であれ、不貞して子を産ませたのは事実だ」
「そ、それでは処罰の検討にうつります」
まだ動揺したままの長官が処罰を検討し始めようとしたから、それを止める。
「待ってくれ」
「はい。何か発言したいことでも?」
「発言というよりも、警告だな。
ペルラン公爵は我が国の貴族だ。
不貞行為を認めたとしても、この国での処罰を受けるのはおかしい。
処罰を求められれば、我が国に持ち帰って検討する。
それが同盟国の条約だったはずだ」
「はっ?……あ、そうでしたな……条約ではそうでした。
それでは、ここでは処罰は決められないと?」
「決めるのはノヴェル国の国王だけだ。
処罰結果を知らせることはするが、口出しは無用だ」
「ユリウス殿!だが、それではこちら側は気が済まない!」




