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しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる  作者: 長月 鳥


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魔王編⑲

 魔王城に来て五日ほどが経った。

 この数日で、シービーの様子が少し大人しくなったように思う。きっとエンペアが姿を消したせいだろう。どこへ行ったのか周囲に尋ねても、返ってくるのは曖昧な答えばかり。

 シービー自身も「ヘマしたら、あたいも……」と怯えた声を漏らすことがある。俺が「気にしすぎじゃないか」と声を掛けても、反応は上の空だ。その姿を見るたびに、なんとなく胸の奥にモヤモヤが残った。


 こんな時、電気屋としてどうするべきか。

 答えはひとつ──娯楽だ。


 俺は休憩室の片隅に立ち、召喚の手を広げた。現れたのは、どでかい百インチのスクリーンと家庭用ゲーム機。ケーブルを繋ぎ、電源を入れる。鮮やかな映像が壁一面に広がった。

 この家電召喚の理屈はいまだ分からない。使ったことのある家電しか召喚できないし、異世界のマナとやらが絡んでいるのかもしれない。だがそんな細かいことは今はどうでもいい。重要なのは、この場の空気を変えることだ。


 「……な、なんだその魔道具は!?」

 さっそくシービーが食いついた。

 「これはプロジェクターとマジカルパーティDXっていうゲームだ!」

 「ゲーム?」

 スクリーンに躍るカラフルなキャラクターたちに、シービーは思わず目を細める。

 「このコントローラーでキャラを操作して、色んな競技で勝負するんだ。四人から八人まで同時に遊べる。やってみれば分かるさ」


 コントローラーを渡すと、シービーは恐る恐る親指を動かした。

 「……おお、動いた!」

 画面のキャラが跳ね回る。若いだけあって、飲み込みが早い。


 その様子に、遠巻きに見ていたメイドや研究者たちがざわざわと集まってくる。

 「これは一体……?」

 「うるさい、今いいところなんだ!」

 シービーは舌を出し、すっかり夢中になっていた。


 ゲームは単純だ。タイミングよくボタンを押したり、ひたすら連打したり。誰でも気軽に参加できるが、白熱すると立派な戦場になる。


 「うおおお! わしのキャラが転落したぁ!」

 「シービー、やめろ! コントローラーで殴るな!」

 「勝つためなら手段を選ばないのが、魔物の誇りです!」

 「誇りの使い方間違ってるぞ!」


 最初は戸惑っていた魔物たちも、数ターン後には全員が本気モード。ミニゲームが始まるたびに歓声が飛び交う。

 樽の上でバランスを取る競技では、研究者が足をもつれさせて大惨敗。爆弾をパスし合うゲームでは、メイド同士の火花散る応酬に他の魔物たちが息を呑む。シービーは相変わらず物理的妨害を繰り返し、ライバルのメイドはそれを見逃さずわめき散らす。


 「くっ……次こそは必ずや勝利してみせる!」

 「やれるものならやってみなさい!」


 退屈と緊張に沈んでいた控え室に、笑い声と叫び声が響き渡った。


 そして最終ターン。トップはシービー、二位に老研究員、三位が俺という展開。

 最後のミニゲームは、丸太を転がしてゴールを目指す競争だ。

 「うおおお、待てぇ!」

 「ははは、若造には負けんぞ!」

 シービーが先行するも、最後の直線で研究員が奇跡の逆転。優勝が決まった瞬間、広間は大歓声に包まれた。


 「やった……これが人生初の一位か」

 老研究員の目には涙さえ光っていた。

 「な? たまにはこうやって笑った方がいいだろ」

 俺はコントローラーを置き、にやりと笑った。


 「おっさん、やっぱスゲーんだな。こんな楽しい城内初めてだ」

 シービーも頬を紅潮させて笑っている。その姿に、俺も胸をなで下ろした。


 「明日は、もっと人を集めて大会にしようぜ!」

 俺の提案に、魔物たちは口々に賛同した。


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