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しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる  作者: 余儀ノ理人


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魔王編⑱

 魔王領に来て三日目、いつものように俺とシービーは研究室の前でくつろがされているだけ。

 なんか手伝おうか? と言っても「お前は何もしなくていい、ここに居るだけでいい」と返されるだけ。あとはやたらと電子レンジの補充を頼まれるだけ……一体全体なんの研究をしているんだ?

 なんか不安になってきた俺は、研究室のドアに手を掛ける……が、鍵が掛けられていて開かない。

 ドアを激しく叩いても反応なし。


 くっ、今度、電子レンジを催促されたら突入してやる。

 そう意気込んでいると、遠くからヒールのコツコツという音が響き、やけに威圧感のある影が近づいてくる。

 真っ赤なメイド服に黒いレース、腰まで伸びた金髪を派手に巻き、口元には不敵な笑み。

 ──あれ、たしかシービーに絡んできたメイドのねーちゃん。


 「チービー、ちょっと話があるわ」

 金切り声のような甘ったるい声。

 シービーが眉間に皺を寄せた。

 「……チービーじゃねぇ。シービーだ」

 「どっちでも同じでしょ」

 もうこの時点で嫌な予感しかしない。


 「で、話ってなんだよ」

 「単刀直入に言うわ。あんたの担当のそこの“おっさん”と、うちの担当を交換しなさい」

 俺は思わず「はぁ?」と声を漏らす。

 「おっさんって俺のことか?」

 「他に誰がいるのよ」


  シービーは鼻で笑った。

 「冗談だろ。誰がてめぇなんかに電次郎を渡すかよ」

 「冗談じゃないわ。だって、あんたの担当は幹部からも一目置かれてる。対して、うちの担当は顔だけ良くて、全然仕事しないクズ研究者。これじゃ出世の見込みがないのよ」

 正直な意見だし、若い子たちが俺を取り合っているという現実は、悪くない……いかん、鼻の下を伸ばしたらステラみたいに怒られる。


 「ふざけんなよエンペア。こっちとら出世のためにおっさんの面倒見てんじゃねぇんだよ、一昨日きやがれ」

 シービーはキッパリと否定したが、以前に俺に出世のための世話だと言っていたのを思い出し、お前が言うなと、小声でツッコんだ。

 このメイドはエンペアって名前なのか、顔もスタイルも良いし、こんな子にお世話されるなら、おっさん頑張っちゃうんだけどな……と、そんな妄想をしながらシービーを見ると、めちゃくちゃ睨んでいるじゃないか。

 こいつ、俺の心が読めるのか?


 「ねぇ、おじさまも、そう思いますね? こんなおチビちゃんより、私の方がずっと優しくて丁寧で、刺激的な毎日を約束できるわ」

 そう言ってエンペアは体を密着させてくる。

 完全な美人局じゃねぇか……最初に出世のためって聞かなかったら落ちてたぜ。


 「キモイっ、離れろやブスっ」

 シービーは俺とエンペアの間に割って入る。体が小さいから割と簡単に入ってきたな。

 「おっさんも、こういうのはスグに断れや、変態のプライドってのはねぇのか?」

 なぜか俺も怒られた。

 「つーか、変態じゃねぇって」

 「あ? ロリコンだったっけ?」

 「違うよ。変な言葉覚えんな」

 こいつとの掛け合いも慣れてきたな、そして楽しんでいる自分がいる。


 「おじさま、怒るくらい嫌いなら、すぐに私のところにきてもいいんですよ」

 エンペア……分かってないな、残念ながら俺は色気よりも楽しさを取る。

 ここは、俺もカッコよくお断りを入れておこう……少しだけ後悔はあるが。


 「近寄んなって言ってんだろブス」

 シービーよエンペアは別にブスじゃないぞ。

 「なによチビ」

 シービーは、まぁ小さいが。


 「いいの? 私が本気になれば、あんたなんてすぐに──」

 「すぐに何だよ」シービーが睨み返す。

 火花が散る……ような気がしたその瞬間だ。


 背後から弱々しい声がした。

 「え、あの……エンペアちゃん……僕、聞こえてるんですけど」

 振り返ると、エンペアの言う“顔だけ良い研究者”が困惑した顔で立っていた。

 イケメンなのは認めるが、今の顔は完全に巻き込まれ事故の被害者。


 「アンタは黙ってなさい!」

 エンペアが腕を振り上げ、勢いよく押し返すように突き飛ばした。

 研究者は後ろの机に背中を打ちつけ、山積みの器具がガシャガシャと崩れ落ちる。

 「うわっ!」

 何本かのガラス管が床に落ち、研究者の手に血が滲んでいるのが見えた。

 最悪だ、怪我しちまったか。


 俺とシービーが思わず駆け寄ろうとしたとき、廊下の向こうから重い足音が響く。

 現れたのは、二メートルを超える大柄な魔物。背中に棘のような突起を持ち、腕には幹部候補の紋章が刻まれている。

 「何事だ」

 低い声に、エンペアが一瞬だけ怯んだのを俺は見逃さなかった。


 「そ、その……ちょっとした口論で」

 魔物は倒れた研究者を一瞥し、それからエンペアを睨んだ。

 「研究者を傷付けたのか?」

 「い、いえ、違っ──」

 「連行しろ」

 命令一つで、後ろから現れた屈強な魔物たちがエンペアの両腕をがっちり掴む。

 「ちょっと! 離せ! 私は──」

 その声は、廊下の奥へと引きずられていくにつれて小さくなり、やがて完全に消えた。

 

 怪我をした研究者も連れて行かれ、部屋には、青い液体と割れたガラスの破片、それから微妙な沈黙だけが残る。


 俺はシービーに視線を向けた。

 「……今の、なんだったんだ?」

 「知らねぇよ、尻叩きの刑にでも合うんじゃね? ざまぁねぇぜ」

 尻叩き? そんなんで済むような雰囲気じゃなかった気もするが。


 それから数日経ってもエンペアの姿を見ることはなかった。


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