学園編㊾
「本当に俺が魔王って奴の所に行けば、ここに居る生徒たちに手を出さないんだな?」
俺は、臨戦態勢のみんなをかき分けて、バンボルトを睨みつけた。
「せっかく入れたんだ。魔王様に逆らう若い芽を摘むってのも一興だが、俺様は嘘が嫌いでね……そこのジジイが言ってたろ? 外に出ればまた結界を張るってよ。俺と一緒にお前がここを出れば、それで済む話だろ?」
バンボルトの自信に満ちた顔……それに、確かにここで暴れて無理矢理俺を拉致することもできる。ここは素直に従うしかないか……。
「で、電次郎さん……」
スイランが叫んだ。
「なんで、電にゃんが魔王のところになんて行かなきゃならないにゃ」
ライミが俺の腕を引きながら泣いている。
「俺はどうやら人気者らしいからな……ちょっくら魔王って奴に会いに行ってくるだけだ。またすぐに帰ってくるさ」
そんな保証はどこにもない……それに魔王っていえば、どんな物語でも生粋の悪。きっとろくなことしか待っていない。
それでも、ここでこの化け物の相手をして、大事な仲間を危険に晒すよりはマシだ。
「おじさま、ミカ様との約束を無下にするのですか?」
姫様よぉ、いてぇとこ突いてくんじゃねぇか。
ミカちゃんが頑張ってこの学園に送ってくれたのに、それを俺は台無しにしてしまう。けど、ミカちゃんならきっと分かってくれるさ。
ああ、くそっ、ミカちゃんやクレア、サンダルの顔がまた見たかったな。
「心配すんなって、絶対に帰ってくるって……」
みんな暗い顔のまま……俺のただの強がりだってことがバレているみたいだ。
「時間だ。そろそろ選択しろ」
気が短い奴だ。でも、俺ももう気が持ちそうにない。辛い別れは嫌いだ。笑って去ろう。
「じゃあなみんな、元気でやれよ。俺が居ないと使えないかもしれないけど、家電は置いてくぜ。戻ってきたらまた美味いものとか、楽しいことやろうぜ」
そう言い残し、俺は振り返らずにバンボルトも元へ進んだ。
「電にゃんっ、にゃーは絶対に強くなって迎えに行くにゃ」
ライミっ。
「アニキィ!」
トレス。
「電次郎さんっ」
スイラン。
「困ります。わたしっ電次郎さんが居なくなったら困ります」
ステラ。
「おじさまは、わたくしのモノです。必ず取り戻しに行きます」
姫様……俺はモノじゃねぇ。
「魔王領……面倒ですね」
ジェダくんは最後まで掴みどころのないイケメンだったな。
俺は振り返らずに、右拳を大きく振り上げ、別れを告げた。
「なんだ、お前、泣いているのか?」
バンボルトが余計なことを言いやがった。
「うるせぇ、早く魔王でも、どこでも連れてけっつってんだボケが」
そう強がって言うと、バンボルトは俺の体を軽々と持ち上げ、背中に生えた気持ち悪い腕の羽を羽ばたかせ、結界に空いた穴へと舞い上がった。
そして、俺とバンボルトが飛び去った瞬間に結界は修復された。
あとで聞いた話だが、姫様とジェダくんは、俺が居なくなってすぐに退学届けを出したらしい。
そして、魔法学園は俺が残していった家電の研究を開始したとかなんとか。
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