学園編㊸
学園最大のイベント、マナラグナロク。
これは、学生たちが自分の持てる魔力のすべてをぶつける“最終試験”みたいなもんらしい。しかも、観客も貴族も上層部も見てる、いわばスカウトが見に来てる甲子園の決勝戦みてぇなもんだ。
世界最高の魔力を持つ連中が集まるこのエルグラッドで、その頂点を決める名誉と誇りとちょっとの狂気が入り交じったバトル。
「電次郎さん、準備は万全ですか?」
スイランが真顔で聞いてくるけど、こっちはもう汗が止まらねぇ。なんせ的が、普通じゃない。
──魔導ゴーレム。
ステラの敬愛するライオネット先生が先導して作ったという“特別製”だ。
ステラのトラウマを垣間見たから、ライオネット先生の凄さがよく分かる。孤児を引き取って育てるなんて、なかなかできないぜ……ただただ尊敬するばかりだ。そんな人が作ったっていうんなら、きっと凄い物なんだろう。
高さ十メートル。鋼のように硬い外装、内部には魔力吸収の結界。
動かない、喋らない、感情もない。ただひたすらに、魔力を吸う木偶人形。
「不気味だ……」
第一印象はその一言に限る。
どんなに強大な魔力をぶつけても効かないゴーレムなんて、一体どうやって作ったんだ?
動かないからいいけど、こんなのが暴れ出したら誰が止めるんだろう……なんて考えるだけ無駄か。これは競技大会、みんなで一生懸命競い合って優劣を決める青春の一ページ。気持ちを切り替えて、本番に備えねば……。
──なんて、思った矢先だった。
「ッ……う、うわああああっ!?」
観客席から誰かの悲鳴が上がった。ざわつく空気。視線が一斉に、フィールドの一点へ集中する。
……まさか。
俺もつられて視線を向けた瞬間、背筋が凍りついた。
動かないはずの魔導ゴーレムが、立ち上がっていた。
ガコンッ。ギギギギ……と、関節が不気味な金属音を響かせながら、巨体を揺らして起き上がる。
いや、一体じゃねぇ。二体、三体、四体……五体!
「おいおい、嘘だろ……!?」
「なんかのイベントにゃん?」
ライミが尻尾をふりふりして尋ねた。
「あの魔導ゴーレムが動くなんて聞いたことありません」
スイランの表情が曇り、額から汗が流れる。
コレ……マジでやべぇ状態なんじゃ。
「避難しましょう。ここは危険です」
ステラの声に、みんな頷く。
「ダメだ。逃げ遅れた生徒が多すぎる。助けないと……みんなは先生連中を呼んできてくれ」
俺はみんなの返事を待たずに走った。
ゴーレムの目が光っている。まるで生き物みたいだ。
「ひ、避けてっ!」
鋼の腕が振り下ろされた瞬間、生徒数人がギリギリで飛び退いた。地面が陥没し、土煙が巻き上がる。
あんなの食らったら、怪我どころじゃ済まねぇぞ。
悲鳴が上がり、逃げ惑う生徒たち。
騒ぎを聞きつけた先生たちも駆けつけるけど、慌てるだけで動けない……そりゃそうだ、魔法が効かないんじゃ動きようがない。
そんな中、ゴーレムの一体がこちらに顔を向けた。
「魔法が効かにゃいにゃら、直接攻撃にゃ」
ライミの声が後ろから聞こえ、そして俺の横を走り抜けていった。
「ライミっ、無茶すんなよ」
ライミの言う通りだ。だったら俺も物理攻撃で。
俺はサンダルとの戦いで使ったスタンガンブレードを取り出し、ライミの後を追った。




