遭難5日目 パパ? サラダ? スレイ健全育成計画の第一歩 2
「ほら、沙羅様。火にあたって、服も乾かしたがイイですよ」
「はぁ…。これからは、お前らで解決デキることは、お前らで解決してくれ、頼むから」
焚き木の前に、ドッカリと座り込み。
焼けた芋をかじれば、良く知っている、ジャガイモに似た味が広がり。
こんな芋一つで、体が震えるほど。
美味しく感じられていることに、違和感すら覚えるが、すぐに、当然だと思い直す。
生きるか死ぬか。
そのレベルの話なら、水と菜っ葉で食いつなげる。
だが、それで満足できるかどうかは、別の話だ。
まったく、満足なんてデキやしない。
そもそも、雨風を、しのげるだけの横穴の中は、快適とは言い難く。
野宿よりはマシだと、言える程度でしかない。
ビバークは、野宿ではないのか。
野宿の中の一つ、なのかは、人によるのだろうが。
初期に比べれば、だいぶマシなのだろうが、快適ではない。
早いところ、人並みの衣食住を、手に入れる必要があるだろう。
この世界に来てから、繰り返し望んでいることだが。
今は、腹に、たまる食事が、デキただけマシだと、思うしかない。
もう一つ、芋を食べようと、手を伸ばした沙羅の食欲は。
鼻をつく臭いに、そぎ取られた。
「くせぇ…」
容疑者は、5人。
そして、無実を証明できるのは、二人だ。
あぐらをかいた、沙羅の上に座る、スレイからは、臭わない。
岩沢が、トイレに行くところを、見たことがない。
対面に座る。
ダメ子・ジュライ子・ブルースカイ容疑者のほうから。
香しい匂いの発生源がある、それだけは、分かった。
食い気を一瞬で奪い去る。
硫黄のような匂いは、食べているモノが、原因なのだろう。
そうだと、してもだ。
「するなとは、言わないからよぉ…。
せめて、外でやらかさないか?」
前に座る三人は、目を背けながら芋を、パクつく。
犯人捜しを、するまでもなく。
ダメ子・ジュライ子・ブルースカイ全員が、目を背けている時点で。
自分が、犯人だと言っている事に、気づいているのだろうか。
「パパ、何がくさいの?」
「オナラだよ、スレイ」
「スレイもやる~」
「マジで、やめような」
「臭いって、言ってもらう~」
「テメェら!」
「なんか、すいません。沙羅先生」
「なんで、パパ怒ってるの?」
「スレイ。そろそろ、むず痒いから、パパって言うの、やめないか?」
「なんて、呼べば良いの?」
「俺の名前分かるだろ?」
「しらな~い」
「……」
「沙羅様も、私達も、そういえば、言ってないですね」
「お前らは、最初から、知ってただろうが。
俺が、お前らの生みの親だってことは、分かるんだろ?」
「だから、スレイちゃんは、ソレだけ、なんだと思いますよ?」
変だと言わないのは、優しさだろう。
「……」
「お父さん、そんな顔して、どうしたの?」
「スレイ、沙羅だ」
沙羅は、自分を指差して、説明するところから、初めてみることにした。
「サラリ?」
「違う、そんな、健康食品みたいな名前じゃない。沙羅だ」
「サラダ?」
沙羅の子供時代の古傷が、チクリと傷んだ。
沙羅という名前だけで、からかわれたことは、いく知れず。
社会に出れば。
そんなことを、面と向かって、言う奴こそ、いなくなったのだが。
子供時代。
皆という、誰が作ったのか分からない、普通からそれた常識は。
子供だからこそ、的確に、心をなじるモノだ。
いじられる、そう、言われれば聞こえは、良いのだが。
当時にしてみれば、そんなに優しいモノではない。
いじめている側が自覚がないのは。
この子供社会が作り上げる、常識からくるのだろう。
集団生活で、望んでいない洗礼を受けるのは、いつの世の中も変わらない。
沙羅だけだろうか?
きっとそうではないと、沙羅は、ため息を吐き出した。
「スレイ、ワザとやってるのか?」
クスクスと笑い声が、視界の端から聞こえてくる。
沙羅は、全て無視して、スレイとの会話に集中した。
スレイ本人は、顔に「?」を、うかべている。
ネタを、ぶっ込んできているわけではない。
けして、沙羅を、ディスってるわけではない。
そのハズである。
「ちがうよぉ~」
「スレイ、沙羅だ」
「さ・ら?」
「そうだ」
「う~ん。さ・ら~」
「なんで、お前は「さ」と「ら」を、分けて言うんだ?」
何かの魔法でも飛び出しそうだ。
「もう、沙羅パパで、イイじゃないですか~。沙羅様」
「お前、テキトー言ってくれるな、マジで」
「さらパパ~。もっとお芋、たべたい~」
「一撃? 一撃で、ソレは、言えちゃうのかよ」
「もう、さらパパ、で、決定ですね」
「背中が、むず痒いだろうが!」
「じゃあ「パパ」で、イイんじゃ、ないですかぁ~?」
「オマエ、そろそろ、一発、引っ叩いて良いか?」
「沙羅様。私に、一撃を当てられるとは、思わないことです。
沙羅様の攻撃なんて、ウスノロなんだから、当たるわけないでしょぉ~」
「そうか、そうか、分かったぞ、ダメ子。
俺は、ウスノロか?
分かったよ、オマエの言いたいことは、よ~く、わかった」
「姉さん、早く謝ったほうが、良いよ」
「大丈夫よ、ジュライ子ちゃん。本当のことなんだから」
「だから、余計に、マズいと思うんですけど…」
「え?」
ダメ子は、言われた意味をスグに思い知る。
沙羅は、スレイの頭をなで。
ダメ子は、薪の向こう側で、ため息を吐き出す。
予想された事態に、ジュライ子は、見ているしかない。
ブルースカイは、長女が調子に乗った、火花が、こちらに飛んでこないか。
ヒヤヒヤしながら、飽きもせず、芋を食べていた。
「スレイは、かわいいなぁ~」
スレイの膝の上で、素直に喜ぶスレイの顔。
絵に書いたような純朴は、背後の悪意によって汚れていく。
「スレイ~。良い子に育てよ~」
「は~い」
良い子に育たないほうが、問題である。
「人に、面倒事をなすりつけたり。
自分の間違いを、なかったコトにしようとしてみたり。
何も、デキないくせに、威張るようなヤツに、なるんじゃないぞ~」
「パパ、分かった!」
「パパじゃないぞ~、沙羅だぞ~」
「ほら、姉さん。ヒドイことに、なってくじゃないですか。
謝りましょ? 早く、謝りましょうよ」
「だ、大丈夫よ」
「やっぱり、スレイは、違うなぁ~。どっかの誰かは、しょ__」
「あ~あ~あ~あ~あ~!
謝りますから、ごめんなさいですから!
やめてください! 本当に、やめてください!」
「私達と違って、沙羅先生は、私達の弱みをつついても、
痛くも痒くもないんですよ、姉さん。
本当に、沙羅先生を、敵に回しちゃいけないんですよ」
「分かった! 分かりました!
沙羅様、私、どうすれば良いんですか!?」
「謝れば、良いんじゃないか?」
「なんで、他人事みたいに、言ってるんですか?」
「どうでも良いし」
「……。怒ってます?」
「呆れてるだけだけど?」
「ごめんなさい」
「謝られても、今更感、ハンパないな、お前」
「私に、どうしろと?」
「何もしなくてイイよ。期待してないし」
「え~っと。この地獄絵図は、なんなん? ジュライ子ちゃん」
「ブルースカイちゃん。アレはね、姉さんが、叱られてるんだよ」
「叱られてるって言うか、沙羅が、ダメ子姉さんの心を、折りにいってるけど?」
「だからね。アレが、沙羅様の叱り方なんだよ」
「コワッ! なにこれ、絶対、イヤなんだけど」
「ブルースカイちゃんも、沙羅様を、本気で怒らせちゃダメだよ。ああ、なるから」
立ち上がり、右往左往している、ダメ子をジュライ子は、指差す。
ブルースカイは、半べそになったダメ子を見て、深く頷いた。
「なに、頷いちゃってるのよ! 助けなさいよ!」
今更、手遅れである。




