37話 遭難5日目 パパ? サラダ? スレイ健全育成計画の第一歩 1
ガヤガヤとした喧騒が耳を撫で。
沙羅は、ゆっくり目を開ける。
五日目の朝。
横穴から差し込む光は強く、空気も温かい。
本当に疲れていたのだろう、半日は、寝ていたようだった。
深く眠れば、変な夢ばかり見せられていたが。
もう、夢は、見れないのだろう。
白龍が残した優しさも、思いも、叶えられて、しまったのだから。
竜の体に残る、ブルーの残り香は、もう、臭ってすらこない。
沙羅は、なにか、抜け落ちたような、さみしさを感じ、体を起こす。
ひょっとしたら、何かの拍子に、香り立つのかもしれないが。
自分の意思で、なんとかデキないモノばかりに、慣れ始めた沙羅は。
考えるだけ無駄だと、大きくあくびをする。
床に葉っぱを敷いて、マシにしているが、高反発ベットに変わりない。
柔らかいベッドに慣れた体に、痛みを感じ。
固まった筋肉を、ゆっくり、ほぐすように、周りを見れば。
おいしそうに、芋を、みんなで揃って、貪っていた。
その中、一人だけ。
イモの形にした岩を、ボリボリ食べている、岩沢が目につくが。
みんなの輪に、溶け込む努力を、言ってやることもない。
まるで、白い紙に墨を落としたように、目立つのだが。
言ってやることもない。
何気なく、芋を食って笑っているダメ子に。
妙な、イラ立ちを感じるが、殴ることもない。
ジュライ子は、ジュライ子で、スレイの面倒を見ているので、株価が高く。
ブルースカイが、腰の刀で、芋を切り分けるのが、非常に目立つが。
楽しそうだから、見逃そう。
とりあえず、ぶんぶん振り回して、うっかり横穴も切りそうだが、見逃そう。
沙羅は、じんわりと、腹の底にストレスが、溜まっていくのを感じ。
ここが異世界だと、思い出した。
まだ、なぜか。
目が覚めれば、ワンルームのエアコンの効いた部屋で、見慣れた天井を、見上げるのだ。
そう、思っている自分に、自然に口元が緩み。
そんな甘えを、脳裏に焼き付いた竜騎士の姿が、全てを否定するのだ。
納得しなければ、いけない。
見逃さなければ、いけない。
そして、こう、しなければいけない。
浮かぶのは、義務と、分かりやすい問題点。
山積みにされた、洗濯物。
心だけが、すり減り続けている。
それでも、すり切れないで、いられるのは。
目の前にいる、ストレスの原因達のおかげだと、思えてしまうから。
とりあえず、5姉妹。
みんな仲がよろしく、笑っているのに、水を差すこともない。
水を差して、水をわざわざ、汚すこともないのである。
寝る前に、菜っ葉しか口にしていないから、なのか。
胃に痛みを感じた。
ワンチャン、ストレスかもしれないが、気にしたら負けである。
喉が渇き、身体中、へばりつく汗と埃っぽさ。
せっかく風呂を作ったというのに、この目覚めに、うんざりする。
先に風呂に入ればとも思ったが。
それは、それで、めんどくさいと、気持ちが先に立ち。
今いるところが、どういう場所で。
どういう状態にあるのかを、教えてくれているようだ。
「沙羅様、おはよございます。紫ジャガがデキ上がってるので、どうぞ」
朝一番に、声をかけてきた、ダメ子。
そして、眼前に突き出される紫ジャガ。
「……」
沙羅は、周りを再度、見渡し。
沙羅の所に行こうと、立ち上がるスレイを手でかわし。
見たモノを正しく理解するため、奥の野菜保存プールまで歩く。
ダメ子たちが、入ったときの名残なのか。
出入り口に焚き木セットが、そのまま置いてあった。
薪から拝借した、松明から火を焚べ、明かりを確保。
顔を洗い、水を飲めば、やっと意識が、ハッキリしてくる。
そのまま、飛び込むには、冷たい水たまり。
どうせ、風呂も沸かしていないのだから、と。
身体中ベタベタよりは、マシだと。
服を脱ぎ、プールの中で泥を落としていく。
「つめてぇ…」
鳥肌が全身に浮かび上がり、すぐに後悔するが。
身体中に、へばりついたものを、洗い流せるだけマシだった。
こんなことすら、デキなかった昨日に比べれば、かなりマシだ、と。
沙羅は、自分で自分に言い聞かせ、汚れた衣服を洗い始めた。
「俺、なにしてんだろ…」
公園の噴水で遊ぶ、子供のようだ。
大きくなってから、こんな事をしているのは、家のない方々ぐらいだ。
彼らでさえ、川で衣服を洗うような真似は、しないかもしれない。
水道と桶、洗濯洗剤がアレば。
衣服をキレイにすることは、デキるのだから。
社会で目立たず。
あまり目に、つかないように生きている、彼らのスキルは。
こういうときこそ、生きるのかもしれない。
体が温度に慣れてくると。
冷やされた頭と心が、自分に訴えてくる。
ひどく虚しい気持ちが、心を振り動かす。
そんな感情に浸れるほど、暇ではなく。
水を吸った、Gパンを絞ることに、悪戦苦闘し。
着替えもなく、こんな事、するべきではなかった。
後悔が先に立つが。
明かりの少なくても分かるほど。
服を洗えば、水が濁るほど、汚れていたのだから、洗濯して正解だったのだろう。
結果、全ての温度を失ったわけだが。
泥で汚れた靴も、洗おうと考えたが。
火の近くに置いても乾かない、靴まで洗うのは気が引けた。
最初から素直に、風呂を沸かし、服をお湯で洗い、乾燥させれば良かった。
今となっては、もう遅い。
沙羅は、濡れた衣服を着てから、焚き木の火の始末を済ませ、皆のもとに戻る。
体が冷え、服もグチャグチャ。
ひんやりとした横穴の中の空気も、容赦なく体温を奪っていく。
それでも、体中の汚れが落ち。
身体の皮を、2・3枚はがしたかのような、心地がしているのだから。
服が濡れているぐらいは、見逃せる範疇だった。
スッキリした頭で、薪部屋まで戻れば。
皆は、まだ、芋と菜っ葉を、パクついており。
沙羅は、見間違えじゃないと、深いため息を吐き出す。
「なぁ? 毒味できるヤツがいるなら、最初から、デキないのか、お前ら?」
沙羅が寝た後のひらめきは。
こうして今日も、沙羅の心をなじる。
「な、なんのことでしょう?
沙羅様。とりあえず、お腹が空いているから、イライラするんですよ?」
焼いた芋を沙羅に突き出し。
ダメ子の作り笑いを貼り付ける顔。
ひっぱたきたい衝動を、グッと抑える沙羅は、大人かもしれない。
「ダメ子、ジュライ子のマネごとしても、許さねぇからな」
「まぁまぁ」
ダメ子は、芋を沙羅に握らせた。
「なんで、オレは、芋を押しつけられてるんだ?」
「私が食べて欲しいからですよ?」
「ヤバいなぁ…。お前の顔を、この芋で、グリグリしたい」
「やめてくださいね? 言うだけにしてくださいね?」
「ソレは、フリか?」
「……」
「そろそろ、オレの虫の居所が悪いときは、そっとしておいてくれないか? ダメ子」
「はい…。沙羅様は、陰キャですもんね」
「ほぅ…」
「ごめんなさい! お願いですから、頭をつかむの、やめてください!
その湯気が出てる所を、顔に向けるのやめて下さい!」
「ああ、これでグリグリできたら、幸せなのに」
「私は不幸ですよ!」
「世界の平和は、難しいと言うことだ!」
「私の顔面に、平和を下さい!」
沙羅は、ダメ子を解放し。
ため息一つ、ついて、おいしそうに、芋を平らげるスレイを見て。
芋に、口をつけた。
コレで毒があったら、ダメ子の顔面戦争を起こそうと、心に決め。
舌の上に広がる、炭水化物の味が、すべてを忘れさせた。
水と、菜っ葉が、メインの食事が長く続き。
白身魚が、食を思い出させ。
疲れ切った体に、滋養強壮の芋。
口に含んだだけで、体が喜んでいるのを感じ。
沙羅は、力が抜けそうになる膝に力を入れ。
ゆっくりと、片膝を立てる。
二口、三口。
スルスル胃袋に、芋一個が収まり。
お腹にモノが入った満足感。
ちゃんと、味のある食事。
舌がしびれるほど。
「うめぇじゃねぇか…」
コレが毒なら、仕方ないと思わせるほどの代物だ。
体が、極限状態だったのもあるだろう。
ソレを抜きにしても、この芋は、普通に、おいしい。
そして、スグ飽きるのだろう。
こうなる前に、食事のバリエーションは、早急に増やすべきである。




