逃走の果て だから 竜騎士は 3
ぐちゃぐちゃに思えた、二日間と半日の出来事は。
理由を探そうとさえすれば、正解は、ソコにある。
沙羅が、竜騎士との衝突で得られたものは、非常に大きい。
沙羅は、無知であり、なにも、もたない。
だからこそ。
今、起こっている全ては。
突発的な「何か」で、あるわけがない。
サバイバル生活とは、よく言ったものだ。
だから、突発的に見えてきたモノは。
そのように、見えているだけだ。
理由さえ分かってしまえば。
全ては、沙羅が行動を、おこしたからこそ。
何かに繋がっている。
気づかなかっただけで。
あるものから連鎖的に、話が大きくなっているだけだ。
そして、沙羅の前に。
最終的に立ちはだかったのが。
竜騎士だったと、言うだけの話なのだ。
何も知らないから。
分かってしまえば。
今、こうなることは、当然の流れなのだ、と。
この時点、この瞬間だからこそ。
沙羅は、ハッキリと自覚できた。
この、何も分からない世界を。
異世界だと、思っているのは、ダメ子や沙羅だけだ。
なぜなら、日本社会を知っているから。
ジュライ子と岩沢にしてみれば。
異世界だ、なんて、思ってもいないだろう。
自分が生まれた大地が、別世界、などと思えるハズがない。
そう、本来は逆なのだ。
異なる者は。
沙羅自身であり。
法の力のほうだ。
完全遭難したからこそ、そう思えているだけだ。
スタートの時点で。
意思疎通が、できる村に、沙羅が到着していたなら。
こんな結果に、なっていないだろう。
今、沙羅がいる森が、竜騎士の森だと。
村から見える、一番、高い山が。
ブルーの山だと。
あらかじめ、分かったからだ。
分かっているなら。
まず、近寄りすらしなかっただろう。
不思議にすら思わなかった、かもしれない。
知らなかっただけだ。
知らないから。
一つ、一つが、異常に見えるだけ。
だが、何も知らなかったと言うことを、自覚できてしまえば。
今起きていることが。
一つの流れだと、理解できてさえ、しまえば。
当然の流れ。
起こるべくして、全ては、起きたと考えれば。
おのずと、ブルースカイの指が示す意味は、浮き彫りにされていくのだ。
勝手に解決することなど、何もなく。
やったことだけが、積み重なっているのなら。
横穴生活が始まり、竜騎士に、たどり着くまで。
理由もなく、解決してしまった事柄は?
それは、大きな疑問として残るのだ。
完全遭難したのは、沙羅の革新的な決断のせい。
ダメ子達が生まれ、力を持って生まれるのは。
沙羅の願いと、法の力のせい。
ブルーばあちゃんに、会えたのは。
岩沢が、やさしさをみせたから。
人里があると分かったのは。
高いところから、全体の地形を、見渡す事が、できたから。
ならば、なぜだろう。
もっと早く、持たなければいけない疑問を。
沙羅は、ここでハッキリと、自覚した。
「俺は、なんで。
力を使っても、倒れていないんだ…?」
竜騎士に使ったというのに。
なぜ、そのまま、逃げることがデキたのだろう。
法の力を使えば、弱ってしまう。
力の代償のようなモノを感じることなく、だ。
ブルースカイの、沙羅に差し向けられた指は、地面に向かって落ちる。
生命を作り出す法の力。
最初と、今では、大きく違うことがある。
ブルーに、力の使い方を教わったから?
そんなに、曖昧な理由であるハズがない。
最初に、法の力を使ったときは。
ブルースカイを生み出したときのような、大きな光ではなく。
もっと、小規模な光だった。
だが、ブルーに会ったあと。
森を真昼のように、照らすほどの強い力を見せても。
沙羅は、体を動かすほどの余力を残していた。
ジュライ子の時は、意識を失ったというのに。
ジュライ子誕生後。
中腹に向かう階段を上る途中で、体力が尽き。
寝て、おきたら。
法の力問題が、解決してしまっていたのだ。
沙羅は、力を自覚したからだと思っていた、が。
この数日、そんな曖昧な理由で、物事が動いてきただろうか。
確固たる力の結果として。
水も、住処も、食料も手に入れてきたのだから。
法の力という、沙羅自身に大きく関わる事柄が。
こんなにも曖昧である、ハズがない。
だからこそ、明確に。
法の力を使えるようになった理由があると、考えるべきなのだ。
「ブルーが、何かをしたんだ。あの時、なに、を…」
自分で口している言葉が、どれだけ薄っぺらく。
そんなことを、いちいち、聞くまでもないと。
どれだけ、状況に置いていかれ。
どれだけ、頭が追いついていないか。
沙羅は、かみ締めた。
ブルーばあちゃんが、何をしたのか。
そんなことは、もう。
沙羅は、見ているのだ。
ただの人間が。
超人的な力を持つ存在になるストーリーを。
見せられているのだから。
もう、必要な情報は、開示されている。
すべて、関係しているのなら。
ここまで、お膳立てされているのだ。
分からないわけがない。
「俺も、竜騎士と同じなのか?」
「竜騎士は、竜から力を与えてもらった。
でも、沙羅は、根本的に違う」
「なにが、違うんだ?」
「ブルーばあちゃんは、もう寿命だったと、言っていたけど。
本来なら、竜に寿命なんていうモノは、ないの」
「老衰がないってことか?
じゃあ、命が尽きるには…」
ブルースカイは、ゆっくりと頷いた。
竜に、そもそも寿命がないとすれば、老衰はありえない。
死ぬ為には。
殺されるか・病死するしかないと言うことだ。
だが、東の白竜ブルーは、老衰したように疲弊し。
自ら、虫ほどの時間もないと、ハッキリと口にしていた。
ならば、病気と受け取るのが正しいだろう。
だが、ブルースカイは、沙羅の言葉の先を、頭を左右に振り、否定した。
「北の青竜は王であり。
南の赤竜は敵であり。
西の黒竜は悪であり。
そして、東の白竜は、守護神である」
ブルースカイは、目を閉じ。
淡々と、どこかで聞いたような、言葉を並べた。
「沙羅は、その白竜を、受け継いだの」
「……は?」
「龍は、生き物を指す言葉じゃない。
称号なの。
そして、その称号は、沙羅君の中にある。
だから、もう、沙羅君は、人じゃ、なくなったの」
「……。俺、人間やめてたの?」
「そう、竜の称号を持った、人。竜人になってるね」
「だから、法の力を使っても、大丈夫になったと?」
「うん。今、沙羅の魔力量ハンパないし。
丈夫になってるから。
法の力の反動にも、ある程度、耐えられるようになってる」
「告知するタイミング、絶対、間違ってるだろ…」
「守護神、白竜は。
願いを聞き入れ、力を与えるだろう。
って言うのが、東大陸の中にある、言い伝えなんだよ」
「話を、要約すると、だよ。ブルースカイ」
「うん」
「竜が、とっちらかってるって事で、イイな?」
「間違ってない。間違ってないけど、他に言い方あると思う…」
ブルーばあちゃんが、したこと。
竜騎士、沙羅、ブルースカイ。
全てが、東大陸の言い伝えから始まった。
形は違えど、誰もが、白龍の力を宿す。
白龍は、病死したのではなく。
力を分け与えすぎた結果として。
存在を、維持できなくなったのだ。
それでも、自分の延命のために。
力を返せと、言わないのところが。
守護神、与えるモノ、と、言うことなのだろう。
竜騎士で言えば。
竜の武具だけで。
ただの人が、不老不死、死ぬことすら許されない、ゾンビになるハズもない。
まだ、白龍の分け与えた力は。
竜騎士の中に残っているのだ。
「だから、竜騎士は…」
沙羅の中で、バラバラだった事柄が。
一つになり、物語へと変わっていく。
沙羅は、顔を下にむけ、一つの物語を語りだした。
昔々、あるところに、一人の少女が居ました。
彼女には、ひたしい男の子が居ました。
二人は、とても仲が良く、元気一杯で、村でも評判の子供でした。
時が流れ。
二人は、大きくなり、村の皆に祝福され、結婚の約束をしました。
ですが、戦争が起こってしまったのです。
村の男の人は全員、兵隊さんに連れて行かれ。
ひたしい男の子と少女は、引き裂かれてしまいました。
男の子は、少女と約束をしました、絶対に帰ってくると。
少女は待ちました。
戦争で、村の皆が勝ったと聞き。
胸を躍らせて、帰りを待ちました。
ですが、いつまでも帰ってきません。
少女は兵隊さんに、いつ帰ってくるのか、聞きました。
兵隊さんは、何も答えず。
後日、男の子を、つれて帰ってきたと。
いくつモノ包みを、村においていったのです。
兵隊さんは、笑って答えました。
誰も死ななかったよ、と。




