逃走の果て だから 竜騎士は 2
ブルースカイのまわりに、青い光の粒子が舞い始め。
粒子は、形を作り上げていく。
「紋章…」
ひとつ、ひとつ。
宙に浮かぶ紋章は、七つ並び。
よく見れば。
一つ、一つ。
全く、違うの形の紋章は。
大きな、一つの形を沙羅に見せつける。
紋章は、ブルースカイの体のサイズに、合わせるよう縮み。
ブルースカイの周りを踊った。
兜・鎧・肩当て・ベルト・ガントレット・グリープ・剣。
この、一つ、一つ、が。
竜騎士を、竜騎士たらしめていたのだろう。
一つの大きな力を7つ分け。
竜の体の象徴として、武具に力を与えていたのだろう。
竜紋は七つに分かれ。
ブルースカイの頭・胸・羽・腹・右左の腕・足に消えたのだから。
全てが収まった、次の瞬間。
ブルースカイの背中から。
不釣合いなほど、大きく立派な羽が。
ブシュッという、なんともシュールな音ともに、生え出た。
「キモっ…」
驚いた拍子に沙羅は、体を引くが。
背後の木が邪魔をして、座高を測っているような姿勢を、強要される。
白い光沢を放つ、大きなドラゴンの翼。
扇を開いたような翼は、人を、二人並べても足りない大きさだ。
鳥のような白い羽毛に覆われた羽は、神秘的にすら見える。
「これは…」
沙羅は、白い翼に。
胸が熱くなった。
見覚えのある光沢、見たら忘れない、雄雄しさ。
沙羅は、同じ翼を持つ。
もっと、大きな翼の持ち主を、ブルースカイの背後に見ていた。
ブルースカイの体は、次第に大きくなり。
まぶたの裏に見た、等身大のシルエットが、デキ上がっていく。
沙羅は、忘れていた願いを思い出す。
ブルーの、死んだ後の未来が見たい、という願いを。
ブルーの生まれ変わりが、ブルースカイなら。
この願いの影響を、強く受けていて、当然なのだ。
ブルースカイは。
存在そのものが、ダメ子・岩沢・ジュライ子とは、そもそも違う。
なら、竜騎士問題を解決できなかったのは。
ブルーの私情が、大きく絡んでいるからだ。
力を使ったときに見た夢で、気づくべきだったのだ。
ただでさえ、よく分からない法の力を使い。
ブルーの私情が絡めば。
本当に、よく分からなくなって、当然だ。
光のシルエットは、明確に実態を持ち。
青い髪を後ろで結った、白い和服姿の女性が現れる。
つまようじと馬鹿にした刀は。
白鞘に収まった、一本の日本刀として、彼女の腰に刺さり。
優しい顔、整った幼い顔立ち。
沙羅より、頭一つ小さいだろう体を、もつ彼女が、誰なのか。
聞くまでもない。
大きな翼を生やした、ブルースカイの両手が、沙羅の顔を包み。
近すぎる顔は、笑顔を浮かべる。
同じ大きさの顔。
目の端に流れる雫は、いったい何なのか。
なぜ、泣いているのだろうか。
長いまつげは、なぜ、そんなに。
涙を、すくい取るのだろう。
口を出そうとした沙羅の頬に、柔らかい感触が広がった。
控えめに突き出された、ブルースカイの頭が、目線の下で止まる。
キスをされた。
キスが、沙羅の上着の張り付いた肌に、鳥肌を呼ぶ。
やさしいキスは、どこまでもやさしい。
やさしすぎて、ゾッとするほどに。
ブルースカイは、なんで、こんなことをしたのか。
考えても、良い答えが、浮かばない。
法の力で生まれる生命は。
沙羅に対する愛情が、無意識にすり込まれている、とはいえ。
こんなにも、ゾッとするキスが、できるハズがない。
ゆっくりと、沙羅から離れるブルースカイは。
首をかしげ、笑顔を作る。
沙羅はブルースカの頬をなで。
これは夢だと言う思いを、こすり落とし。
手の感触も、頬に感じた物も。
目の前で起きていることも、夢などではない。
幾度となく、意識を失ったり、寝落ちたりした後遺症。
そんな言い訳が通じるほど。
目の前で起きている出来事は、甘くはないと。
ブルースカイの顔は、言っていた。
沙羅の心は、夢心地のまま。
沙羅だけを置いて、変化は、駆け足で進んでいく。
再度、ゆっくりと開かれていく、ブルースカイの翼。
水色の長い髪を、後ろでキチンとまとめ上げ、見えたうなじ。
跪き、頭を下げる和装の彼女は、とてもキレイだった。
白い和服に、白鞘の刀。
彼女の大きく広げられた羽は、折りたたまれ。
ゆっくりと立ち上がる彼女の、長いまつげの瞼が、ゆっくりと開かれ。
少しつり上がった、目の外郭と、キレイな青い瞳で、沙羅を見る。
透き通る、深く青い瞳に。
沙羅は、釘付けにされ。
膝元で切られた和服から伸びる足が、肩幅に広げられ。
白く、長い袖から伸びる、細長い指。
彼女が、一つ。
ため息をつけば、背中の羽が消え。
スタイルの良い体だけが残された。
和装の上からでも、隠そうともしない。
胸の谷間の向こう側から、小さく整った唇で、沙羅に語る。
「沙羅君。私が、なにもしないと、沙羅君が死んじゃう」
トンでもない、アニメ声で。
外見に見合わなすぎる。
キーの高い声に、沙羅は面食らった。
彼女の姿の全ては。
クールビューティを語るが、彼女の声は、萌え萌えだと語る。
そのギャップに、別の誰かが、話しているのでは、ないか。
と、錯覚するほどに
「人が話しているとき、よそ見するって、どういうことなのかな?
それは、いけないとおもうなぁ~」
沙羅は、思ったことを、思ったまま口にした。
「だ、だいなしだ…」
腕を組んだまま、首をかしげる彼女は、おもむろに、沙羅の前で一周。
「ウチ、可愛いでしょ?」
「お前も、そういう芸風なのか…。
可愛いというより、キレイジャンルだろ?」
「絶対、カワイイジャンルだって~」
「やめろ…マジで。
その姿で。
彼氏ができて、豹変した女子高生のような口調を、今すぐ、やめてくれ…」
「ブルースカイ、参上です」
目元に、二本指をそえる、作為的すぎる可愛い顔が、とても印象的だった。
ブルースカイは、その態度を、改めないまま。
「沙羅君。時間がないから、ウチ、言うね」
日常会話のように。
「なんだよ? 今度は、変身していられる時間があるとか。
言い出すんじゃ、ないだろうな?」
「それは、ないよ~」
横穴生活で慣れてしまった、バカ話のように。
「じゃあ、もう、竜騎士が近づいているほうか?」
「ソレも違うよ~」
また、なにを言い出すのかと、思いながら言葉を返すのだ。
「じゃあ、なんだよ?」
「ウチの命が、もう、あと、少ないんだぁ~」
声が、やけに通り。
キレイな、音楽のような音だった。
疲れている体に反して、口元に作った笑みは、固まり。
沙羅の目が、ブルースカイに。
何を言っているのか、聞き間違えではないのか、と訴える。
ブルースカイは、まっすぐに、沙羅の視線を受け止めた。
沙羅の、何かを言おうとした口は、大きく広げられ。
バカ面と言うには、もってこいの顔を、ブルースカイに返した。
言われた言葉の意味を探そうにも、分かるわけがなく。
理由をさがす沙羅の頭は、白く染まり。
疲れた体が、素直に重くなっていく。
沙羅の踊る目線は、まわり。
冗談を本気にしてしまった、と。
ブルースカイの顔を、再度、捉えたとき。
ブルースカイの目元から流れる涙が。
沙羅の思い。
まだ捨てきれない希望。
全てを否定した。
ブルースカイは、右手を、沙羅の顔の高さまであげ。
目に見えて、分かるように。
半分透けている指先を、沙羅に見せつける。
沙羅は。
背中を、今までの生きてきて。
味わったことのない、モノがせり上がっていくのを、感じ。
誰でもない、沙羅が。
作り出した結果に、唖然とする。
「沙羅。失敗した理由は、すごく簡単なんだよ」
ハッキリと口に出された結果に、言い訳も、何もない。
「…失敗、したのか? オレは?」
ブルーは、沙羅の言葉に目をつぶり。
一度頷くと、かみ締めるように口を開いた。
「ブルーさんが、沙羅君に会った時、やったことが、二つあるんだ」
立てた二本指を、沙羅の前で左右にふり。
人差し指を、自分に向ける。
「沙羅は、ブルーさんが、自由にできる部分を残して、私を生み出したよね?
でも、ブルーさんは、理想の「人」としての姿を、望まなかった。
やり残したことを、解決したい、見届けたい、と、願ったの。
だから、自分の体を使って、力と記憶を、私に残した」
ブルースカイの人差し指は。
沙羅に舞い戻り、もう一つを、沙羅に自覚させる。
沙羅は、もう一つを、話そうとするブルースカイの口を。
右手を突き出し、止め。
左手を、頭に向けた。




