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15話 やっと安らかに1



 もっとスリルを、もっとスパイスを。

 足りないものを、足していくように。

 絶叫マシーンは、時代を追って進化していく。


 絶叫マシーンが得意な人と、全面的に、ダメな人。

 その違いは、遊具として用意されている物の捕らえ方が、根本的に違うことだ。


 笑いながら、絶叫マシーンに乗れるのは。

 それが安全であり、スリルを楽しむのが遊園地だと、心底、思えるからである。


 ダメな人に、絶叫マシーンに乗れというのは。

 二つのビルの屋上に引かれた、ガラスのロープを渡れと、言うのと変わらない。



 ガラスは、割れないから大丈夫と。

 命綱が、あるからと。

 渡るヤツが、ドコにいるのだろう。

 そもそも、渡ることが危険なのだから、望んでやる必要はない。


 食べ物の好みと同じだ。

 二人の好みが真逆である場合。

 お互いが、お互いに、相手の嫌いな理由は、一生理解できない。


 沙羅は、横穴の中で。

 体中にへばりついた粉っぽさに、眉間に皺をよせ、近くを流れる水で顔を洗う。


 遊園地に行って、絶叫マシーンに乗らない人の心理を、深く噛みめ。


 すべり台を落ちているとき、焦りと恐怖しかなかった。

 一生に一度、体験すれば十分だと思った、ロープ無しバンジー。

 同じような落下を、二度も味わえば、次もあるかもしれない。


 二度あることは、三度ある。


「マジで嫌だ…」

 この世界には、コレ以上の恐怖があるのだが。



 動転している沙羅を見て。

 ダメ子がやっていたのは、片腕を、上から引いていただけだ。


 落下スピードに合わせて、ホバリングをするという器用さを見せつけたが。


「こんな命綱、あってたまるか」


 脱線しそうなときや。

 スピードが出すぎたときには。

 沙羅の体を前から、ゆっくりと押したり。

 手を引いたりしながら、面倒をみていたが。


 配慮のない対応の結果が、右肩の痛みである。


「いってぇ…」

 肩を回し。

 痛みが走るが、動く腕にホッとし。


 痛みで顔をゆがめる沙羅の姿をチラリと見て。

 見えなかったフリをしたダメ子を、絶対に許さないと、沙羅は決めた。


 鏡面仕上げの岩の上を、滑り落ちたときの摩擦で、なのか。

 興奮しすぎて、なのか。


 まだ、熱く。

 汗を吹き出す体が、どれだけ無謀なことを、やってのけたのかを、沙羅に訴える。



 落下中、自分の意思でなんとかデキたのは。

 体をひねりながら、スグに熱くなっていく接地面を、変え続けることだけだった、

 付き合うしかないと、割り切れば。

 後は必死に合わせるしかない、不条理を。

 ダメ子の顔面に沈めたいが、我慢している沙羅は、偉いかもしれない。


 思った以上の速さで、横穴に、到達したのは良いが。



 体感時間は、かなりのモノだ。


 落下中だけ、ボクサーの生きる世界が、垣間見えてしまった。

 最後のUの字のジャンプ台が見えた所で、沙羅は絶望したのを覚えている。


 ダメ子が前に回り込み、ブレーキをかけた、までは良かった。


 さながら、隕石でも受け止めたロボットのように。



 隕石側である沙羅は。

 思った以上の力で押し返すダメ子の手が、体に食い込み。

 体から、嫌な音をするのを聞いたことは、墓場に行くまで忘れないだろう。



 それでも、スグに止まらず。


 空に向かってUの字に向いているジャンプ台、全てを使って、制止した。

 までは、まぁ良い。


 だが、そのあと。

 ダメ子が、上から降ってきたのは、いただけない。


 機械翼の尖った先端が、顔面めがけて落ちてきたときは、生きた心地がしなかった。


 首をひねって、交わした顔の横を貫いた翼は、太い針だ。


 岩の地面に、穴を開ける代物が、顔に刺さっていたらと考えるだけで、鳥肌モノである。


「沙羅様! 私のアシスタント能力、バッチリだったでしょ?」

 なんて言葉を、冷や汗を流しながら言われても、なんの説得力もない。




 横穴のなかで、ブルースカイをイジめたと。

 むくれていると思っていた岩沢は。

 手のひらで、グッタリとしているスカイブルーに泣き喚き、大変なことになっていた。


 沙羅は、ブルースカイを看病しながら。

 やりきったと豪語するダメ子と、岩沢を、なだめていれば、

 時間が過ぎていき。


 癒し系最強メンバーである、ジュライ子が現れ。

 岩沢を母親のようにあやし、ダメ子を、言葉の、おみこしに担ぎ上げ。


 やっと落ち着いた、横穴内。


 それを見届け。

 沙羅が、深いため息を吐き出した所で、ようやく。

 山を登ろう企画は、終わりを見せたようだった。


 ホコリだらけの体、張り付く汗。

 不快感を感じた沙羅は、顔を洗ってくると立ち上がった。



 薄暗い洞窟内を、岩沢が地面に放り投げた、淡く光る石を頼りに歩く。

 螺旋階段とは逆に、突き当たりを曲がれば。


 すぐに、湧き水の原点にたどりつく。

 源泉を筒状に突き上げ、周りをくぼめた噴水のような形をしている。

 水がある一定以上貯まってから流れる作りは、ゴミを沈殿させるためだ。


 湧き水とは言え、地面を通って出てきている。

 源泉を直接口にするのは、あまりよろしくないだろう。

 砂が一緒に口に入るかもしれない。


 こうして、大きく水をためておけば。

 キレイな、冷たい水で。

 髪や顔のすすを、洗い流すこともデキるのだから。



 沙羅は、まだ落ち着かない心に、打ちつけるように、顔を洗う。

 息は、早く深く。

 熱さを伴い、涼しい空間を白く染める。


 仕方なく、シャツをタオル代わりに体を洗い流すが。

 いくら汗や、ホコリを拭い取っても、熱は、さめない。


 昨日から続いていた、一連の流れには。

 一応、一区切りついたハズ。

 頭で分かっていても、体は、そうではないと熱で訴える。


 ようやく一息できるハズだ。

 水も、食糧も、雨風ぐらいはしのげる場所も、一応はある。

 この世界にくる原因になったであろう、白竜にも会うことがデキた。

 一休み、一呼吸しても、大丈夫なハズなのに。


 その一息が、見えてこない。


 自分の体ではないような、浮遊感。


 まだ、ドコか現実味を感じられない。


 そもそも、現実離れしている事しか起きていないのだ。


 冷静に考えれば、頭が痛くなることばかり。


 沙羅の体は、緊張状態のOFFスイッチが、ドコにあるかを忘れたのか、熱を放つ。



 ダメだダメだと。

 野菜貯蔵プールから、浮かんでいる野菜を一玉、持ってきて。

 一枚はぎ取り、口に入れても、味が遠く。


 思えば、しばらく水も口にしていないと。

 乾ききった体を潤すように、プールに顔を突っ込み。

 腹が膨れるほど飲み干すが、乾きが引いていかない。



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