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異世界 完全遭難のネリナル ~生命錬成サバイバル~ 白の章 素材から、生命を生み出し、大自然を生きよ  作者: chickenσ(チキンシグマ)
一章 遭難開始

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やっと安らかに 2


 水を飲んでいる、冷たい感覚はあるというのに。

 飲んだという充実感が全く感じられず。

 疲れた沙羅は、茶色く変色したシャツに腕を通し、そのまま壁に背中を預けた。


「はぁ…」

 目をつぶれば、上空ダイビングから始まった、さまざまな出来事が、フラッシュバックし、

 目の前がチカチカと点滅しているようだ。


 沙羅の頭は、地面に向かい。

 体中を覆う疲れに身を任せ、全身の力を抜いた。


 まだ、一日と半日ぐらいだろうか。

 時間にして、まだ、36時間強しか、ブルーに呼ばれた世界で、活動していない。


 だと言うのに、もう一週間ほど生活してきたようにすら、感じた。


 今まで体験したことがないほどの、濃密な時間。


 ココまで濃密な時間は、日常生活の中で味わえるモノじゃない。


 ソレが、欲しいから夜の町は、潤うのだろう。


 振り返れば。

 決められた毎日と、やらなければいけない義務と、光る画面。


 そこから逃げ出したい気持ちも押し潰し。


 なにか特技が、あるわけでもないと。


 今の仕事からすら、逃げたら終わる。


 という恐怖心だけが、沙羅の体を突き動かしていただけ。


 勝てないなら、負けたくない。

 その先にあるのは。

 負けだと決まっていないだけの、事実上の敗北があるだけなのに。


 曖昧で、何も決めていない動機そのものが、やる気を削ぎ続けていたのだろう。


 沙羅に「やる気」なんてものはなく。


 「やる気」など求められていないと、理解できたら、話は早かった。

 何かを得たいわけではなく。

 ただ、静かに暮らしていたかっただけだ。


 静かに過ごしたいから。

 仕方なく仕事をして。

 付き合いをして。

 残ったお金は、貯金に回していれば、そのまま墓場まで行けると、本気で思っていた。


 欲しがっても、得られないと分かっているから。


 周りに要求された義務や。

 やるべきことすら諦めれば。

 苦しいとすら、言えなくなるとも、分かる。


 そう、刷り込まれているかのように。

 ただ、大人の道徳とルールの中、消化試合をしていただけ。


 沙羅の、物の選択基準は、ひどく無機質だった。


 考える必要が、ほとんどないと言って良い。


 どうすれば良くなるのか。


 どうすれば良いか。


 そんなことを考える前に。

 大人の口にする「常識」と「普通」は、ソコに、あり続けたのだから。


 子供時代の終点が就職なら。


 年をとるつれ、選べる選択肢が、なくなっていくのなら。


 選択の幅というものは。

 就職を頭に、三角形を描けるのかもしれない。


 就職した先に、未来はないのか、と言われれば、そうでもないのだろう。


 現に、社会人三年生になっているのだから。


 だが、もう、収束してしまった選択肢を。

 もう一度、自力で広げるのは至難の業である。


 安全に失敗しなければならないと言う、大前提が。

 全てを難しくしていき、どうしたら良いかすら、分からなくさせる。


 子供の時から、長い時間、繰り返されてきた日常。


 高校生活も、その例外ではない。


 ブラック企業に、当たりたくないと。

 中途半端な大学をさけ、実費の費用を考え。

 少しでも安い、国立大学を進学先に選べば、すぐにやることで悩殺される。


 体も動かさないと不味いと。

 全身運動の水泳部を選び。

 前倒しの受験勉強を、少しずつこなせば。

 親が望んだ模試の成績は、ゆっくりと追いついてきた。


 遊びは、一人が多くなり。

 自分の時間としてあまった時間は、なにも気にせず、ゲームの流れである。


 沙羅には。

 皆が、大層、大事そうに口にする。

 目標や、夢が存在しない。


 焦って探そうとする「夢」全てが、疑問でしかなかった。


 そんな無駄なことを考えるのは。

 そんなに強くない野球部の、ベンチにすら座れない野球部員と、同じぐらい意味がない。

 努力すれば、うんぬんから続く言葉を言う前に。


 最初の椅子取りゲームで、負けているのだ。

 そんな、不毛な努力をするなら。

 バイトで、時間と労力を使い、努力した方が、何倍もマシだと。



 夢なんて、大層な物が、欲しいわけではない。

 大学に行ってから探すなんていう。

 手に負えない、大きな子供にだけは、なりたくなかっただけだった。


 やりたいことは特にないが。

 背後から刺されるのだけは、勘弁してほしい。

 ただ、それだけだった。


 日々の行動が。

 布衣宮 沙羅という人間という物を作り上げ。


 沙羅の友人の「がんばるよな、俺にはデキない」と、言う言葉も、沙羅には届かなかった。

 頑張っていたわけではない。

 必要な努力だったから、淡々とやっていただけだ。


 自由ではない事に、不満がなかったわけではない。


 だが、妙に脅迫的な内側からの声が。

 危険性を、一つ一つ語り。


 最終的には、背中を押され続けていただけである。


 だからこそ、選択してやっていることが。

 あまりにも無機質なのだ。


 ソコに、やってみたいという感情は、全く存在せず。


 ただ、怖いから。

 怖くならないように、やり続けていただけ。

 誰もが最善を夢見て、背伸びをするが。

 沙羅は、底辺を見て。

 怖いから追いつかれないように、立ち回っていただけだ。


 特徴も特技も、親にもらった、キラキラネームぐらいしかない。

 体も程よく引き締まっているが。

 もう、三年も、まともな運動をしていない。

 本気で、運動に打ち込んでいる人に言わせれば、薄い筋肉だろう。


 そんな毎日を、ひっくり返したのが、一通のメールだった。


 沙羅は、何もしていなかった毎日から。

 一時間ごと変化する状況を、受け入れなければならない、この世界に放り込まれた。


 そして、これだけ濃密な時間をくぐりぬけても。

 言葉にしてしまえば、少ない言葉でまとめてしまえる事実に、沙羅は驚いた。 


「遭難して、力があることが分かって…。

 帰れないことが分かって…。

 とりあえず周りの地形と、近くにある人里の方向が分かっただけ…」



 一日半にしては、大収穫だろう。

 それだけ、体力的に、追い詰められていたと言うことでもある。


 グッタリと重くなり始めた体は。

 指先さえ動かすのを気だるくし、沙羅の視界を、かすませた。


「疲れたよ、ほんとに…」

 誰に言ったわけでもない言葉が、水音に消えていく。


 次の目標は、人里にたどりつく事だ。

 だが、その前に解決しなければいけない問題がある。


 森を通り抜け、人里にたどり着く方法だ。


 見つけたとはいえ。

 山の上から見た景色に、ピンポン玉ほどの大きさの村が、見えたと言うだけだ。


 富士山の頂上から見えた、近くの町まで。

 どれだけの距離が、あるかを想像すれば。

 歩かなければいけない距離の想像は、感覚的にできる。


 気軽に歩いて、たどり着ける距離などではない。


 安全な山脈にそって歩く道は、すべて東の海に向かっている。


 山の西側に出るにしても。

 山を再度、上り。

 反対側へ、今回と同じ方法で向かっても。

 野宿がデキるだけの準備がなければ、一瞬で、お陀仏だ。


 ならば、最初から森を、コンパスがある、ダメ子に、先導されながら。

 村がある方向へ、真っスグに突き抜けて行った方が。

 まだ、たどり着ける可能性が残されているというものだ。


 GPSに頼っている携帯地図をベースにしているなら。

 そもそも、使い物になるかすら怪しい。   


 舗装されていない道を進むのだ。

 小学生の遠足で行った、自然なんかとは比べ物にならない。


 横穴から見渡す、純粋な自然は、暴力だ。


 幸い、岩沢・ジュライ子がいれば、崖や急な展開にも、ついてはいけるだろう。


 だとしても。

 水も、食料も持たず、歩きだすのは、ためらわれる距離だ。


 人里にたどり着く算段は、何とか立てることはできるが。

 未知の部分に対しては、どうすべきか。


 それ以前に、コレ以上の横穴生活は、沙羅の体的に不味い。


 どういう処置を受けたか分からないが。

 ブルーが治してくれた体が、元気なうちに、行動を起こすべきだ。


 どうしたところで、最終的には、行くしかないのだから。


 沙羅は、あくびをかみ殺し。

 整理した頭がスッキリしたのを感じ。

 この世界で始めて、襲ってくる眠気に、身を任せた。

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