ブルー 2
法の力の使い方は分かっているが。
結果が、なぜ。
ダメ子・岩沢・ジュライ子なのか、不明な部分の方が多すぎる。
何度も試すにしても。
それは、願いもナニもなく、命を生み出すことが、目的になってしまう。
上手くいくか、どうかすら怪しい。
力を把握するために、命を生み出し続けるのは。
ハツカネズミを、医療実験と言って、沢山、殺すことと同じだ。
医療のため、何かで試さなければ、分からないから、したない。
人の死体よりも天高く積み上がった、たくさんのネズミ、ウサギと、豚の犠牲の下。
人間が死に、医療ができあがっているのは、しかたないことだ。
その結果、次の子供達が、生きながらえるのだから。
百万の屍の上に、一人が立っているのなら、報われる部分は、あるのかもしれない。
やってしまったことに対する、言い訳じみている、が。
現在も続き、死んでいる生き物と、隣にいる、その人の命なら。
家畜と考えられる、動物を殺すことを選ぶのは、当然なのかもしれない。
食べるか、食べないかの差でしかないのだから。
あの人ではない、誰でもない。
知っている人の命を、多く救うと、目に見えて分かれば。
動物愛護団体からすれば、大激怒だが。
動物大量虐殺にも見える、コレは。
誰かのためではなく、皆の為だと。
ハッキリ言い切って、両手を合わせる事ができるだろう。
だが、沙羅の力は。
個人的な、目的のためにしか、使うことがデキない。
生命錬成の力に必要なモノが、力の方向性を決めてしまっているからだ。
素材、名前、そして。
沙羅の願いだ。
生命錬成の法は、おいそれと、乱発できる代物ではない。
生み出してしまった命に。
沙羅自身が、気持ちの落とし所を見つけることがデキない。
生まれ出た命に、なんと言って放り出せば良いのだろう。
オマエのおかげで、力の使い方が分かったから。
もう、ドコへなりとも、消えてもらってかまわない。
人の言葉を話さない動物なら、喜んで森に消えていくところだが。
生まれてくるのは、人外とはいえ。
野生動物にしては、ひ弱で。
頭だけ良く回る、人の形をした、人の意思を持つ、生命なら。
そうは、いかないだろう。
少なからず、彼女達を、医療実験で使われる家畜だと。
沙羅は、思うことが、デキないのだから。
法の力は、法の力でしかないが。
沙羅の力だからこそ。
沙羅自身が力のストッパーであり、ブレーキなのだ。
法の力には、アクセルしかない。
スポーツカーですらビックリの、爆発的な加速力を持っている。
車にはブレーキがあるから、アクセルを踏めるのだ。
ブレーキがないのなら。
アクセルの踏み方を知らなければ、怖くて使い物になりはしない。
暴走運手を、荒い運転を繰り返した先は。
例外なく、いつも決まっているのだから。
法の力を、ブルーに力を使うにしても。
結果が想像できない以上、安請け合いなどデキない。
体だけ生まれ変わるのか。
魂から別の、何かになるのか。
物を消費して、生命を作り出す力を。
生きている物に対して使ったら、どうなるのか。
洋画では、繰り返されてきた命題だろうが。
実際に、作り物ではない光景を見せられるほど。
ツラいことは、ないだろう。
作り話は、究極的に気持ちの問題だけだ。
実害を与えることはない。
だが、実際に奇天烈な出来事に出会えば、実害でしかないのだから。
法の力にも、一つの法則のようなものが、あるのだろう。
だが、まだ、この法の力が、どんな道具なのかすら、理解できていない。
包丁の使い方を変えれば、人を殺せるように。
沙羅は、自分の力を、この場にいる、誰よりも信用していなかった。
「最悪も、ありえるんだよ」
「分かっている。だからこそ、こういう場を、用意して頂いたのだろう。
沙羅の「力」、言ってしまえば、ソレは神の力の片鱗だ。
魂さえ、どうにかデキる、だけのモノだよ、沙羅」
「魂さえ?」
「そうだ、沙羅が持っている力は、全て、素材にデキてしまう」
つまり、発想しだいで、なんでも素材になると言うことだ。
「ちょっと待ってくれ!
俺は、「物」以外も線引きなく、全て材料に、できてしまうって事か?」
「ソレを、人の身で抱えてしまったのが、沙羅。お前だよ」
何も分からず乱射してしまった力。
運が悪ければ、もっと悲惨なことになっていても、おかしくない代物だ。
ブルーは、そう沙羅に語る。
だから、ブルーは言ったのだ。
「ブルーばあちゃん、「運が良い」に、いろいろ含みすぎだ」
「恐ろしいか?」
「本当に、分かって良かったよ」
「自分の力が、理解できたならば。
ハッキリと、意識できたならば。
法は、神の代物ではなく、お前のモノだよ、沙羅」
「実際、まだ、よく分かってないからさぁ。
説明してくれって、言ってるんだけどな」
「この世界における魔術とは。
誰かに教えられるモノではなく。
ある日、自分の中に、そういう物があると、気づくところから始まる。
それが、持って生まれた者と、ない者の違いだよ」
「気づかなかったら?」
「ないものと、同じ人生を歩むのだろう。
要は、持っていることに、気づくか、気づかないか、だ。
使えないと捨てるか、利用価値を求め続けるか、だ。
私は、お前の中に、力がある言った」
自分の中にあるのか、ないのか。
そんな曖昧な事を言われたところで。
到底、納得できるモノではない。
社会は、資本主義という、究極的な合理性を、求め続けていると気づけば。
自然界の究極の合理性が、上手くすり替わっただけの話だ。
夢物語ではなく、明確なプランを示してほしいと思うのは。
ブルーの言う。
持っている者と、持っていない者の差という話に。
全て、落ちてしまうのだろう。
使えないスキルでさえ、使い方を覚えれば、使い道はできる。
求め続ければ、持っているモノになれる。
ただ、それだけの話しだ。
生命錬成の法という力に対する恐怖心が、拭えることはないだろう。
あまりに幅広い、力の用途を把握できたとしても。
変わることはない。
身に余る力。
チート能力と言えば、聞こえは良いが、それだけだ。
だから、使うべきでは、ないのだろう。
だからこそ、使うべきなのだろう。
使えないと捨てるか。
利用価値を求め続けるのか。
沙羅は、静かに目をつぶり。
ブルーの願いを叶える、唯一の方法である、力に頼るでもなく。
利用価値を求めた。
それは、ドコにあるのか。
どうすれば、沙羅は、力を使うことを、許すことがデキるのだろう。
意識は内側に向かい。
生命錬成の法とは、なんなのか、という漠然とした疑問が。
自分の中にある、何かを気づかせる。
あるハズのない、何かが、ある感覚。
尻尾が、翼があるわけでもない。
だが、もう一つの手足のような器官が、ソコにあると自覚させ。
一つのモノとして、生命錬成の法と呼ばれたモノを、自覚し。
三度も使っている、この力が。
イメージや使った印象、目の前の龍が言うような力ではないと、思えてしまった。
生命練成の法と言うような、仰々しい物ではなく。
沙羅自身が思う、この力の本質は、全く別だ。
沙羅は、自分の中で結論が出てしまえば。
意外にスッキリするものだと、目を開き。
手に力を込めるように。
歩き出すように。
今まで持っていなかった器官に、力を込めれば。
あれほど暴れ狂っていた、力は。
すんなりと、沙羅の意思をすくい取る。
沙羅は、自分の中から流れ出す力を感じ。
振り回された力の手綱を。
シッカリと、両手に握り締める感覚が、全てを確信させる。
想像してしまったヒドい結果は、絶対に訪れないと。
映画を見る観客を驚かせるのではなく。
ブルーを、驚かせてやろうと。
沙羅は、自分の周りに光の文字が浮かぶのを見て。
まっすぐ、ブルーアイを見据えた。
「最後に、一つだけ聞かせてくれ。
なんで、まだ生き続けていたいんだ?」
ブルーは、目を閉じ、頭を上げる。
長い時間と言うには、短い沈黙。
ブルーは、静かに、選びきった言葉を並べる。
「長く生きれば、見たいものも、少なくないよ、沙羅」
「そうか」
ブルーから、深く吐き出された言葉。
沙羅には、これ以上の言葉を、見つけることがデキなかった。
目の前の竜が、どれだけの時間を生きてきたのか。
大切なもの。
ソレが何かを、ハッキリと、言えないほどの時間。
長く、長く。
長命といわれる竜の走馬灯は。
どれだけの長さを持って、終わるのだろうか。
震えながらも、凛々しく立つ白竜は、雄雄しく美しい。
「ブルーばあちゃん。本題なんだが、どんな名前が良い?」
「わたしは__」
「違う。通り名じゃなくて、名前だよ。真名ってヤツだよ」
「真名、か…」
ブルーは、少し考えるような素振りを見せたが、クツクツと、笑い出した。
「名前は欲しいと思っていた。
だが、自分の名前を想像したことが、いまだ、かつて無い」
「イイ機会だから、考えてみろよ」
ブルーの尻尾が左右に振れ、頭が、ゆっくりと左右に揺れた。
「もしかして、困ってるのか?」
「ココまで私を困らせたのは、オマエが始めてだ」
白い竜ブルーは、ドラゴンと言うより、大きな鳥のようだ。
スラリとしたシルエット。
白くキレイな龍と呼ばれた、なにか。
体の曲線が細く、この体で空を飛び、風をきって舞う姿は。
まるで完成された、美しい人形のような美しさ見せつけるのだろう。
まさに、大空のブルーアイだ。
そんなブルーが、あれでもない、コレでもないと、考えている姿から。
若かった頃を想像できない。
岩沢の欠伸が聞こえ、それを「この子はぁ、もう」と、ダメ子が、注意する声が、聞こえ始めるほどの時間が過ぎ。
このままブルーに任せていても、埒が明かないと、沙羅は口をはさむ。
「もう、スカイブルーにするか?」
これ以上ないぐらい、安易に口に出した名前だ。
だが、ブルーの動きが止まり、ユックリと、頭が眼前まで降りてくる。
「なぁ? いちいち、つぶされそうで怖いからさぁ…。
首を上下させるの、勘弁してくれないか?」
「ソレは、どういう意味だ?」
沙羅が待っていた、反論などなく。
ブルーは、素直な興味を示した。
「おい、興味ありありなのかよ?
空の青って意味だ。テキトーに、大空の青って意味を、こめてみた」
「空の青、スカイブルー。良いな」
「うわぁ~。高評価もらっちゃったよ」
「何か悪いのか?」
「いや、うん。言いたいことは、一杯あるけど、気に入ったなら良し。
じゃあ、どういう娘になりたい?」
「どういう…、娘か?」
「あ、うん。もう勝手にやるわ。」
「沙羅様ぁ~。なんか、めんどくさい客を相手にする、店員みたいになってますぅ~。
ソレは、ないですぅ~」
「はいはい、ダメ子は黙ろうね」
沙羅は、背後から三人のブーイングを浴び。
「いまどき、ブーブーは、ないだろうに…」
沙羅は、再度、目をつぶり。
まぶたの裏側に浮かぶ、丸い魔方陣の中に、人物像を作り上げる。
「ブルーさんの自由意志分は、残しておいた。
少し時間をあげるから、それでダメなら身を任せて。
もう、俺にも余裕は無いからな」
今まで感じたことの無い、爆発的な力の熱が。
血管一本一本をたぎらせ、体中から汗が噴き出し始める。
「もう良いか?」
「もう、すでに身をゆだねている。
だが、最後に言いたいことが、一つだけある」
「なんだよ?」
「私を馬鹿にして、生きている人間は、お前が始めてだ」
死期が近いとはいえ、間違いなく竜なのだと。
ブルーの眼光が、沙羅の体中の鳥肌を、浮かばせる。
「怖い、怖い、怖い、怖い!」
「沙羅、今の私は「竜」に見えたか?」
「全身が、そう言ってるから!」
「そうか。もう、思い残すことは無い」
沙羅は、答えず。
握り締め続けた力の蛇口を開く。
両手のひらに、急激に集まる熱を、胸の前で強引に押さえ込み。
沙羅は、ブルーの全身を、ゆっくりと、頭の先から尻尾の先まで、脳裏に焼き付けるように、眺めた。
ブルーと目線を合わせると、ブルーは、瞼を下ろしていく。
「スカイブルー」
名前と言うカギが開かれ。
光の文字は、ブルーを包み込んでいき。
薄暗い、岩だらけの空間は、黄金色の光が舞う、幻想的な空間に変わる。
黄金色の光は、粒子のように踊り。
雪のように、一帯を包み込む。
全てが黄金色に染まり。
その中、粒子としてキレイに散っていく、ブルーの体。
その堂々たる姿は、さすがと言うべきだ。
竜は、最後に。
「そうか。最後の私は「竜」だったか…」
そう、一言を残し、光の中に溶けていった。




