めんどくさいけど村を救ってみる
正直、助かった。
時間が止まるだけでも、とりあえずはありがたい。
「ほっとしているレスね。やっぱり、僕って役に立つのレス」
「そもそも俺をこの世界に連れてきたのはお前なんだがな……」
「それは心臓を捧げたのだから仕方がないレスよ」
「はいはい」
相変らず杓子定規な事ばかり言うつまらん奴だ。悪魔とはそういうものなのか。
「使えるのが炎魔法だけで困っているようレスね。他の魔法を授けてやるのレス」
「偉そうに……」
「いらないのレスか?」
「いります。どうか授けてください。お願いします」
「そうやって素直になればいいのレス」
メフィストがそう言うと、目の前にまた以前のような文字が現れた。
「この3つの魔法を選択して、習得するのレス」
① 暴風魔法レベル100
② 隕石魔法レベル100
③ 動物会話魔法レベル100
「動物会話魔法!?なんだそれ」
「文字通り、あらゆる動物と会話が可能で、意思疎通を図れるのレス」
「ふーん……」
「そして、この3つの代償を選択するのレスよ」
① マリーから嫌われる(永続)
② ミルンから嫌われる(永続)
③ ミルン以外のミュール村の住人から嫌われる(永続)
えっ……!?
「なんだよこれ……酷すぎね?この、悪魔!」
「そんなに褒められても困るのレス」
「くっ……」
悪魔に悪魔と言っても仕方が無いか。
①はありえん……。②か③だ。
ミルンにはまだ出会ったばかりだし、今後も会うかどうかわからない。
③にすると複数の人からずっと嫌われ続けてしまう……。
俺はミルンに抱き着かれたまま時間停止している。
自分に抱き着いているミルンの顔を見た。目をつぶって恐怖に耐えている。
…………。
「決めたぞ、悪魔」
「では、選択をするのレス」
「ゲインワン、チャージスリー!!」
「ほお……そうきたレスか」
「これで風魔法が使えるんだよな」
「それは保証するのレス。契約成立、そして時は動き出す……」
時間が動き出した。
またガルーダがこちらに向かってくる。
俺は新たな力を開放する。
風魔法レベル100、全開!!
ブオオオオオオ!!!
俺の右手の先から、猛烈な竜巻が派生し、ガルーダに直撃した!
「ギエエエエエエ!!」
ガルーダは洗濯機の中の衣服のようにぐるぐると回転している。
「な、何が起こってるんですか……」
顔を上げたミルンが、その光景に目を丸くしている。
「害獣を捕まえてやったんだよ」
ガルーダは竜巻の中で悶えているが、それだけではトドメには至らない。
さて、仕上げをやるか。
俺は左手を掲げた。
炎魔法レベル100!!
俺の左手から炎が噴き出し、右手の竜巻と混ざり合う。
混合魔法による炎の竜巻の出来上がりだ。
「ギャアアアアアアアアアアアアア!!」
バチバチと火がはぜる音がして、ガルーダの体が回転しながら焼け焦げて行く。煙が凄い。
俺は最初からこれを狙っていた。
隕石魔法を選択した場合、隕石がガルーダに当たるとは限らないし、村に被害が出る可能性がある。
動物会話魔法を選択した場合、ガルーダと意思疎通できるとしても、和解できるとは限らない。
炎魔法の範囲が狭い弱点を補えるこのやり方が一番確実だと考えたのだ。
じきにガルーダは真っ黒焦げになって動かなくなり、魔法を止めるとそのまま落下して行った。
「フライドチキンの出来上がりだな。ちょっと焦げ過ぎたけど」
「す、すごい……」
ミルンが茫然としている。
俺はミルンに言った。
「あ……あの……そろそろ離れてくれませんかミルンさん?」
「……あっ、あたしったら!」
ようやくミルンが離してくれた。ちょっと残念でもあるが……。
「さて、下に降りなきゃな」
「そうですね……でも、降りる道が全然無くて……」
ミルンが困った顔をしている。
でも大丈夫。俺は帰る所まで計算して風魔法を選択した。
「ミルン……下に降りるために……お、俺に、また抱き着いてくれないか?
「あ、はい。こうですか?」
ミルンは躊躇なく抱き着いた。ぽよんという感触が心地よい。
「し、しっかり捕まってろよ」
俺はそう言うと、崖から飛び降りた。
ミルンは目をつぶって俺にギュッと捕まっている。
俺は手を下に向けて、風魔法を発動した。
ブオオオオオオオオオ!!
ホバリングの要領で、体に浮力が生じる。
ゆっくり、ゆっくり……もうすぐ地面だ。魔法を弱める
すたっ。
ふう、うまく着陸できた。
やはり風魔法を選択したのは正しかったな。
動物会話魔法でガルーダと和解して下ろしてもらえる可能性もあったかもしれないが……それはあまりに楽観的すぎる。
「うわー、凄い!ふわふわしてて、気持ちよかったー!」
ミルンはとても楽しそうだ。まだ抱き着いているけど、もうしばらくミルンのぶよんぶよんとした胸の感触を味わってようかな。
「サトシ、あんた何してんのよ!!」
あ……聞き慣れた声。
「あっ、ごめんなさい、あたし……」
ミルンは俺からさっと離れた。何かを察したのだろうか……勘違いしている気もするが。
「べ、別にあなたが抱き着いてたから文句言ってんじゃないのよ!サトシがいきなりいなくなっちゃったから、いったい何やってたのかって」
何やってたのかって……お前をかばったせいで攫われたんだが……。
「サトシ様は、ガルーダを倒して私を助けてくれたんです。サトシ様の魔法、凄かったです」
ミルン、ナイスフォローだ。
「魔法!?魔法ってどんなの?」
「炎が竜巻みたいにぐるぐるってなってて……とにかく凄かったですよ」
「えー!私も見たかったー、サトシぃ、なんで私が居る時にやってくれないのよ!」
こいつ……魔法見物のことしか頭に無いのか?
「まあいいわ。私の名前はマリーヒェン・フォン・マリーンドルフ、22位銅印騎士よ」
「き、騎士様ですか。あたしはミュール村の農家の子のミルンです」
「そう、よろしくねミルン。私、身分の差なんか気にしないから」
気にしないと言いつつ、騎士という身分をアピールしていつもマウント取ろうとしてるよなあ。
「ガルーダも倒したことだし、さっそく村に行ってこのことを伝えましょうよ」
「は、はい、マリーンドルフ様」
「マリーでいいわよ」
倒したのは俺なんだが……もう慣れたわ。マリーが自分も貢献したことにする所までがテンプレです。
そして三人でミュール村に戻ったが……俺は代償の重さを思い知ることになる。
村人たちは俺の顔を見るなり、口々に罵りはじめた。
マリンが抗議しても、ミルンがかばっても、彼らは聞く耳持とうとしない。
「こいつ、村に何しに来た?騎士様の従者か?そのなりでよく務まるものだな!」
「ガルーダを倒した?騎士様の手柄を横取りするつもりか?」
「気立ての良いミルンに取り入って、何か企んでんじゃないのかい?」
「とっとと出て行ってくれ!お前がガルーダを倒した?証拠はどこにあるんだ?」
「いったい何なのこの村の人たちは?サトシは確かに冴えない奴だけど、顔を見るなり悪口を言わなくてもいいじゃない!」
マリーが憤慨する。
「みんな、なんか変です……。うちの村はいい人ばかりで、他所から来た人にもいつもは親切なのに……」
ミルンはしょんぼりしている。
「ガルーダが居たせいでみんな機嫌が悪いんじゃないか?俺は先に村から出てるからさ、報酬はマリーが受け取っておいてくれよ」
そう言って俺は村を後にした。
正直、俺もへこんでいるが、これが代償というものなのだ。
マリーやミルンに代償の話をしても信じてくれないだろうな。
俺は、悪魔の力身につけた正義のヒーローだ、孤独は仕方がないさ。
村の外で待っていると、しばらくしてマリーがやってきた。
「金貨3枚は受け取ったわ。今回はあんたが全部取れば。なんか、かわいそうだし」
マリーは悲しそうな顔をしている。どうすっかな……ここは好意をそのまま受け取ったほうがいい流れかな?
「待ってくださーい!」
振り向くと、ミルンが走って来る。
胸がばいんばいん揺れてる……おお、絶景かな絶景かな。
「あたしも、サトシ様について行きます!どうかお供させてください」
マリーが驚いて尋ねる。
「ミルン、あんた本気!?私達は戦いが生業なのよ、あなたに務まるの?」
「あたしは村で武術の修行をしてきました、弱い魔物くらいなら倒せると思います」
おお、マリーよりずっと戦力になりそうだ。
しかし……あまりにも急な話じゃないか?
「でも……家族とか、大丈夫なのか?」
「お母さんに話してきました。お母さんは私を信じてくれるって言ってくれたし、いつでも帰って来なさいって。帰りませんけどね!」
マリーがこちらを見て、ニッと笑った。
「いいんじゃない?3人で行きましょうよ。私も同じ女子がいた方が色々助かるし」
「そうだな……じゃあ、行くか!」
「そうこなくっちゃ。じゃあ、この3枚の金貨は、パーティ結成のお祝いね」
そういってマリーは俺とミルンに1枚ずつ、金貨を渡した。
「あたし、金貨をもらうなんて初めてですっ!キラキラしてて、綺麗だわぁ」
ミルンは顔を紅潮させている。
なんだか、三者三様の楽しいチームになる気がしてきた。
チームに名前があってもいいな。
「そうだな……チーム名は黄金血盟団とか、どうだ」
「却下!他のを考えておいてね。さあ、行きましょ!」
やれやれ、せっかくめんどくさがりやの俺が名前を考えてやったのに、黄金ならぬ銅の騎士様に即効で却下されてしまった。
「一人で突っ走るなよー、また野盗にやられるぞ」
「あ、二人とも、待ってくださーい」
こうして、3人での冒険が始まった。




