めんどくさいけど幼女も救ってみる
休憩中。
マリーとミルンは二人で楽しそうに話している。
「そっか、ミルンは体術の修行をしてきたんだ、今度手合わせしようか」
「騎士様のお相手なんて恐れ多いです、どうぞお手柔らかにお願いしますー」
「騎士学校はいけすかない男ばかりで、ミルンみたいな子はいなかったのよ。訓練の相手に困っていつもひとりぼっちだったわ」
「そんな……あたしで良ければ何でもお手伝いしますよ」
マリーが成長できなかった理由はそんな所か。
マリーにとってミルンは都合のいい存在だろう。ともかくミルンが入ってくれてよかった。
あの巨大な胸は俺の目の保養にもなるし……。
おっと、俺は読書に勤しまなくては。
出発前に購入した『現世転生奇譚』。
内容はこんな感じだ。
ファンタジー世界に生まれた主人公はモンスターとの戦いで命を落とし、神の意志によって魔法は無いが科学文明が進んだ平和な島国に赤ん坊として転生する。
そこで主人公は成長し、学校に通い、会社に就職して事務職として働き、結婚して幸せな家族を築いて、子宝に恵まれたまま大往生を遂げる……。
全然面白くない……というか、俺の世界にある異世界物の逆やん。こっちの人間はこういう事を夢想しているのか。
この世界にいると、刺激より安定を求めたくなるものなのかな。
「さあ、そろそろ行くわよサトシ!」
マリーは立ち上がると歩き出した。
ミルンが慌ててその後を追う。
俺も行くか…よっこらしょっと。
ん?
振り向くと、小さな女の子が立っていた。
フード付きのローブを着ている。
顔はかなりかわいい。マリーよりはミルンに近い顔で、より幼くした感じだ。
8歳くらいだろうか?フードの端から、薄緑色の髪が見える。
「…………」
その子は何も言わず、大きな目でこちらを見つめている。
吸い込まれるような瞳だ。
なんだろう?
手には、汚れたお椀を持っている。
「ああ、托鉢の子ね。そのローブからすると、ニヒトレイス教徒だわ」
いつのまにかマリーがこちらに来ていて、教えてくれた。
そっか……こちらの世界では、こんな幼い子が寄進集めのような苦役をやらされているんだな。
あの本のように現実逃避して、俺が居たような世界に転生したい奴も出てくるわけだ。
とりあえず、俺の手持ちから銀貨を一枚入れてやった。
俺もそれほど持ってないので、このくらいが限度だな……すまん。
少女の顔がぱっと明るくなった。
そして後ろを向いて、ててて……と走って行って……こけた。
「あっ、大丈夫!?」
ミルンとマリーが駆け寄る。
「!!この子……」
ん?様子が変だな……俺も行ってみて……理由が分かった。
少女のローブがはだけて手や足が見えたが……これは、酷い。
みみず腫れや火傷の跡がいくつもある。
虐待か……。
少女を起こしてあげながら、マリーが尋ねる。
「大丈夫?ねえあなた、名前は?」
「…………メグ」
「どこから来たのかしら」
「……あっち」
そういってメグは遠くを指さした。その先には、教会のような建物が見えた。
「行きましょう。サトシ、あんたも行くわよね」
「ああ」
とりあえず、虐待は止めさせないと。
俺ら三人とメグはその教会の前までやってきた。
「出てきなさーい!騎士様が直々に来てあげたわよ」
「おやおや、どなたですかな?」
初老の男が出てきた。この教会の司祭だろうか。下卑た顔をしている。
「あなた、このメグって子をいじめているでしょ!」
「いきなり何かと思えば、心外ですな。何か証拠でも?」
「この子の手足に痣や火傷があるわ!」
「それが証拠になるのですかな?その子が自分で怪我をしたのかもしれませんよ」
悪・即・断。
俺は炎魔法をぶっ放した。もちろん出力は前に野盗を退治した時と同程度に絞っている。
「ぎゃああああ!あ、熱い、熱い!な、何をするっ!」
「メグが自分で怪我をしても、お前は保護者なのだからそうさせない責任がある」
「そ、そんな、横暴な」
「横暴なのはお前だ。お前は子供より力が強いからメグを思うがままにしたのだろう。ならばお前より力が強い俺が、お前をどうしようと自由だ」
ボカッ、ガスッ!!
俺は司祭に殴る蹴るの暴行を加えた。もちろん死なない程度には抑えている。とはいえ筋力100の俺では手加減は難しい。まあ、うっかり殺してしまってもかまわんのだがな。
「あ、あの、そのくらいでもう……」
ミルンが青ざめた顔で止めようとしたが……。
メグが、司祭の前に立って、手を広げた。
「もう、やめて」
そして、メグは司祭に手をかざした。
司祭の痣や火傷が、みるみる回復して行く……治癒魔法が使えるのか。
「ふ、ふん、珍しく気が利くじゃないか、メグ。……お、お前ら、許さんぞ」
「じゃあもう一度、俺の罰を受けるか?次はメグが止めても聞くつもりはないが」
俺は司祭にまた手をあげた。
「ひ、ひいっ」
「……メグを虐待したのは、お前だよな」
「は、はい、私がやりました」
「そうか……メグは、俺たちが連れて行く」
「ど、どうぞお連れください」
「……もし教団の力で俺の仲間に復讐しようとしたら、お前を必ず殺しに来る。お前はこの教会の地位は失いたくないから、今後もここに居るだろうしな。……わかったか?」
「わかりました、このことは他には言いません」
俺ら3人はメグを連れて、教会を去った。
俺のやったことは、前の世界の常識からすれば明らかに間違っている。虐待の確実な証拠を得てからやるべきだった。
司祭に制裁を加える前に、メグに虐待された事実を確認することも考えた。しかし、それではメグは自分の責任で司祭が暴行を受けたと気に病むだろうし、それ以前に虐待はされてないと嘘をつく可能性も高い。メグにそう証言されてしまうと、もう手を出せない。
そうなるくらいなら、9割以上の状況証拠で判断した俺一人が悪者になればいいんだよ。常に100%の根拠でしか動かないのなら、世の中何も変わらない。元の世界でもし俺がそうやって動いてれば、もっと違ってたんだろうな……。まあ、あそこで死ぬのは同じだったかもしれないが。
黙り込む俺に、マリーが話しかける。
「私、いい気味だと思ったわ。あいつが殺されちゃえばいいと思った。ミルンみたいに止めようという気に全然ならなかった。私って冷たい女なのかな」
「じゃあ俺は冷たい男だな」
「あんたと一緒にしないでよ……でも、あんたがやらなかったら私がやったけどね」
ミルンがおずおずと話しだした。
「あたしは……どうすればいいのかわからなかったです。ただ……これからも、サトシ様とマリー様に、ついて行きます」
「ミルンは俺を止めようとしたけど、それはそれでいいと思う。ミルンがまた違った判断をしてくれれば、皆の役に立つこともあると思うんだ」
「そうですか……」
俺はメグに話しかけた。
「メグ、お前は治癒魔法が使えるんだな。凄いじゃん」
「少しだけ……」
それでもあの何もできない騎士様よりはずっと役に立つぜと言おうとしたが、マリーは意外と傷つきやすそうなのでやめた。
最近、治癒魔法が使えたらいいなと思っていたのだが、ラッキーだ。
いずれメフィストの選択肢にもそれが出てきてほしい所だが……あいつ、危機一髪の時にしか出てこないしな。治癒魔法習得の機会はいつになるやら。
「でも、何で自分の傷は治さなかったんだ?」
「治すと、司祭様に怒られるの」
「そっか……。もう誰も怒らないから、治していいぞ、メグ」
「わかったの」
後付けで司祭が虐待していた証言ゲットってことで。
それにしても、今回の一件……。
かわいそうな一人の幼女を、救ったわけだが……。
俺は自問自答する。
――お前はそうやって、かわいそうな子供を見るたびに連れて行くのか?今はいいが、それが10人、100人となったらどうするんだ?
俺は少し考えて、答える。
――そうだな、そうなったらまた考えるさ。一人たりとも放置する気はないから。
世界最強の力があるんだ、何だって出来るだろう。その過程に暴力を使ったとしてもな。俺一人が悪者になって救えるなら、それでいい。
善人のふりをする方が、めんどくさい。




