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羽のあるヒロインはいかがですか?  作者: 遊雨季
拍手小話:羽根のメドレー
14/26

小話①:「小鳥のフーガ」

 拍手小話からの転載です。

 特に変えているところはありませんが、後日譚を付け足しました。

 ―――桐下鈴芽、人生最大のピンチ……かもしれません。



   ◇◇◇



 この世界に来て一ヵ月が過ぎた。

 まだまだ慣れないことはたくさんあるが、上手くやっていけている。


 うぅ~。……暇だー。


 朝のお見送りが終わると、もうすることがない。

 この鳥の姿では、何をするにも人の手を借りなければならないのだ。…飛べないから。


「あら、どうかなさいました?」


 玄関の近くでぐるぐる歩き回っていると、クロエさんに声を掛けられた。

 さすがに、不審だったのかもしれない。


「あの、外に出ても良いですか?」

「申し訳ありませんが、旦那様から止められておりますので…」


 ここの邸の人々は親切だが、親切過ぎて私を外に出してくれない。


「そう、ですか………」


 ダメもとだったが、やはりショックだ。

 石…はないので地面を蹴っていると、クロエさんがある提案をしてくれた。



   ◇◇◇



 優しい侍女頭の言う通り、庭に出てみた。

 久しぶりの外だ。…邸の敷地内だが。


 やっぱり外は気持ち良いなぁ。


 寝心地最高の鳥籠生活でも、ストレスが溜まっていたのかもしれない。

 庭に出ただけですっきりとした気分になる。


 池の近くは落ちると危ないからダメだって言ってたし、薔薇園の方も棘が刺さるからダメって言われたし…。


 クロエさんの注意を思い出しながら歩く。

 彼女は過保護なのだろうか。

 それとも、私がよっぽど頼りないのか。


 …良いんだ、別に。……今は小鳥なんだし、頼りになるように見えなくても仕方ないよね。


 そうやって自分で自分を慰めていると、植え込みの方から音が聞こえた。

 何だろうと思って振り向くと……。


「バウッ!!」


 犬がいた。…しかも“わん”じゃなくて“バウ”って感じの怖そうな犬が。

 視線が絡む。


 ――とりあえず、逃げた。



   ◇◇◇



 私は飛べない鳥だ。…いや、元は人間なのだが。


 飛べないなら走るしかない。

 しかし、悲しいかな。鳥は早く走ることには向いていない。

 しかも、追いかけて来るのは犬だ。

 ……捕まったら食べられるのだろうか。


 いやぁー!!誰か助けてー!!


 まだ犬に捕まっていない理由は、私が障害物の合間を縫って走っているからだろう。

 できれば、犬をやり過ごせる場所に隠れたい。

 そう思っていたのだが……。


 も、もう無理…………。


 それより先に体力の限界が来てしまったようだ。

 だんだん、というかすごい速度で犬が近付いてくる。

 私は咄嗟に目を瞑った。


「キャンッ!」


 何故か私ではなく、犬の情けない声が聞こえる。


「スズメ」


 次に聞こえてきた声にほっとして目を開くと、ギルバートさんが立っていた。


「……ギルバートさん」

「怪我はありませんか?」

「え、は、はい。ありません」

「そうですか」


 彼は私をそっと持ち上げてくれる。


「あの犬は追い払いましたから、もう大丈夫ですよ」


 少し私が震えていたからか、彼はそう言って安心させるように微笑んでくれた。


「助けてくれて、ありがとうございます」

「いえ。 これからは邸の結界を強化して、他の対策も立てておきましょう」

「すみません。ご迷惑をおかけして…」

「そんなことはありませんよ。……あなたが無事で良かった。」



 ――後日、庭にすら出れなくなった私が嘆くのは、また別の話。



   ◇◇◇



 ~後日譚~



「庭に出たいです!」

「危ないので、ダメです」


 私が犬に追いかけられるという事件が起こってから、ギルバートさんが過保護になってしまった。

 彼は私を小さい子供か何かと勘違いしているんじゃないだろうか。


「ちょっとくらいなら、大丈夫です!」

「結界は強化しましたが、万全という訳ではありません。…また犬に襲われたらどうするんです?」


 …………ぐうの音も出ない。


「ずっと邸の中だと気が滅入っちゃいます……」


 邸の人達は優しくしてくれるし、ここでの生活には何の問題もないが、やはりたまには外に出たい。

 じっとギルバートさんを見つめると、長い沈黙の後、彼は溜め息を吐いた。


「………………。はぁ、仕方ありませんね」

「出ても良いんですか!?」


 勝った……っ!


 喜びに打ち震える私に、彼は一言付け加える。


「ええ。……ですが、条件があります」






 ギルバートさんの出した条件は“保護者同伴”…じゃなくて、“彼と一緒に庭に出ること”だった。

 彼は多忙な人なので、必然的に庭に出るのは夜になる。


「綺麗ですね…。静かだし、花が眠ってるみたいです」


 夜の庭園に感動した私はそう告げる。

 ちなみに、私は彼の手のひらに乗っての観賞だ。…自分で歩くことは、諦めた。


「ええ。…昼間に騒ぐ花や木もありますし」


 騒ぐ植物…、メルヘンを通り越してホラーだ。…これが冗談ではない、ということが何より怖い。

 何でこの世界の植物は自由に動くのだろう。彼らは植物ではなく、動物と名乗るべきではないのか。


「私の世界の植物はずっとこんな感じですよ」

「眠ったままなのですか?」


 眠ったまま……何というか、詩的な言い回しだ。


「そうですね、眠ってるだけなのかもしれません。

 ……この世界の植物はよく動くので、見ていてすごく楽しいです」


 だから……。


「朝やお昼も庭に出たいです」


 私がそう言うと、彼はにっこりと笑う。


「ダメです」




 ―――いつまで経っても一人で庭に出れない私が、飛べるように猛特訓し始めるのはこのすぐ後。





 この話でとりあえず完結にしておきますが、二、三日で完結タグが取れるかもしれません。

 まだまだ本編でも小話は書く予定です。


 ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。

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