エピローグ
これで、ひとまず本編完結です。
お父さん。お母さん。雲雀ちゃん。鷹斗君。
遠く離れていても、私は皆が大好きです。
私が見上げている空は、たぶん皆に繋がっていないでしょう。
でも、世界が違っていたって皆は私の大切な家族です。
いつまでも元気に笑って、幸せでいてください。私はそれだけを祈っています。
あ、もうないかもしれませんが、叔父さんはあの遊園地の取り壊しを考えた方が良いと思いますよ?
あそこはとっても危険なので、これ以上被害者が出ないようにしてください。
皆に一言だけでも伝えられるなら“私は幸せです”と伝えたいです。
元の世界に未練がないわけではありませんが、この世界で一番大事な人ができました。
皆に“薄情な娘”や“冷たい姉”だと思われても、私は彼の隣で生きることを選びます。
……きっと、皆はそんなこと言わないで祝ってくれますよね。
お父さん。お母さん。親孝行できなくてごめんなさい。
雲雀ちゃん。鷹斗君。良いお姉ちゃんじゃなくてごめんね。
皆にこの姿を見せられなくて、とても残念です。
―――私は今日、結婚します。
◇◇◇
花嫁の控室。
予定より大分早く式の準備を終え、緊張しつつも彼と過ごしていたのだが、いきなり控室に来た彼の家族に占領されてしまった。
今、私は彼のお母さん達とおしゃべりをしている。…彼のお父さんは部屋から追い出されてしまった彼と一緒にいるはずだ。
「あの……」
この部屋には彼のお母さんと三人のお姉さん達がいる。
歳の違う四人の美女に囲まれて、正直どうしていいか分からない。
何回か会ってはいるし、それなりに親しくさせてもらっているのだが………式の前で緊張しているのかもしれない。
「あら、どうしたの?」
私が戸惑っていると、ナディアさんが声を掛けてくれた。
悪戯っぽい笑みを浮かべている彼女は彼の三番目のお姉さんらしい。
「ナディアさん、何で…」
私の唇にピタリと彼女の人差し指が当てられる。
何で彼を追い出したのか聞こうと思ったのだが、遮られてしまった。
「ダーメ。……あの子と結婚するんだから、私のことは“ナディアお義姉様”って呼んでくれなくちゃ」
現代日本人にとっては難しい注文だ。…少々…いや、かなり恥ずかしい。
「ナ、ナディアお義姉様……?」
ううっ、顔が赤い気がする。…皆でそんなに凝視しないでください。
「かーわいいっ!!私、昔からこんな妹が欲しかったの!」
そう言って軽く抱きつかれる。
もうウェディングドレスも着て、化粧も済ませてしまっているので、配慮してくれたようだ。
「ずるいわよ、ナディア。…ねえ、スズメちゃん。私のことは?」
彼の真ん中のお姉さん、ヴィオレットさんにも要求される。
ナディアお義姉様を甘え上手な小悪魔系――年齢不詳――とすると、彼女は知的系の美人さんだ。…一番、彼と顔が似ている。
……言えば良いんですよね、言えば。
「ヴィオレットお義姉様」
私がそう言うと、彼女はふんわりと笑ってくれた。…ちょっとドキドキする。
「………………」
最後の一人、長女のリディアーヌさんは無言だ。
無言なのだが……リディアーヌさんの目が“分かってるんでしょう?”と言っている気がする。
彼女は迫力美人…というか、伯爵家の当主らしく貫禄のある人なので、見つめられると焦ってしまう。
「リディアーヌお義姉様」
「……ふふ、可愛いわね、スズメちゃん」
妖艶に微笑まれてしまった。…な、流し目は止めてください。
三人とも呼んだので、やっと羞恥プレイから解放されると思ったのだが……。
「あら?スズメさん、私のことは呼んでくださらないの?」
お義母様、あなたもですか。
「……お、お義母様」
“お義母様”呼びが一番恥ずかしい。…元の世界では“お母さん”と呼んでいた身なので、言い慣れないのかもしれない。
“お義姉様”はまだマシだ。私には姉がいなかったので、かえって新鮮さを感じる。
小さい頃は“お姉ちゃん”が欲しかったけど……。
“お義姉様”と“お姉ちゃん”……越えられない壁が存在する気がするのは何故だろう。
「娘が増えて嬉しいわ。うちの家系には、スズメさんのような可愛らしい子が生まれないから」
「お母様。私達は“可愛らしい娘”じゃないのかしら?」
ナディアさん…ナディアお義姉様が拗ねたように言う。年上なのに何だか可愛い。
「仕方ないでしょう、ナディア。…あなたも子供がいるんだから分かるんじゃない?」
「まあ、分かるけど…。女系の呪いかしら?」
「そうかもしれないわね。うちの家系って全然男が生まれないし、あの子が生まれたのは奇跡だわ」
上からリディアーヌお義姉様、ナディアお義姉様、ヴィオレットお義姉様の言葉である。
驚くことに、彼女達にはそれぞれ娘がいる。
全員娘だということも驚きだが、一番気になるのは彼女達の歳だ。…若さの秘訣を聞いたら教えてくれるだろうか。
彼女達が娘の話をし始めると、お義母様が話し掛けてきた。
「ふふふ。まさか、あの子がカナリアのお嫁さんをもらうとは思わなかったわ」
彼女の言う“カナリアのお嫁さん”…これは、今まで鳥の姿だったことを指す訳ではない。
いや、それも含まれるのかもしれないが……。
「すみません。…何か、変な体質になっちゃったみたいで」
実は、私は人間に戻った後も鳥になれるようになってしまったのだ。
人間に戻ってから半年ほど経った今では、自分である程度コントロールできるようになったが、前まではころころ鳥になったり人間に戻ったりして大変だった。
「まあ、そんなことはないわ!こんなに楽しいお嫁さんが来てくれて、とても嬉しいもの」
“楽しいお嫁さん”って何だろう。
「……そう言ってもらえると、ありがたいです」
女五人で楽しくおしゃべりしていると、不意に控室の扉が叩かれる。
四人は何故か私の方を見ているが……。
………。あ、もしかして私が言うんですか?
「ええと……入ってください?」
疑問形になってしまった。
「ご歓談中すみません」
そう言いながら、彼が扉を開けて現れた。
「母上、姉上。そろそろ彼女を返して頂けませんか?
――もう、式が始まる時間です」
◇◇◇
今日から私の夫となる彼は宰相である。
つまり、何が言いたいかと言うと……。
「つ、疲れました……」
「大丈夫ですか?」
私は“宰相の結婚式”というものを舐めていたようだ。
事前に聞いてはいたが、当事者である私がポッカーンとするほどの規模。そして、招待客。
「もう、一生分の挨拶をした気がします……」
「……すみません、私の所為で」
彼の所為、という訳ではない。…まあ、彼の親族席の人数はかなり多かったが。
「私は今日からあなたの妻ですから、これくらい平気ですよ」
「スズメ…。ありがとうございます」
私が笑うと、彼も嬉しそうに微笑む。
しばらくにこにこと笑い合っていると、急に彼が真面目な顔になった。
「私は騎士ではないので、剣は持っていないのですが……」
え、知ってますよ?魔法は得意でも、剣はからっきしですよね?
ちょっと失礼なことを考えていると、おもむろに彼が私に跪く。
そして、私の手を取って……。
「私、ギルバート・フェル・グリフィスはあなたを永遠に愛することを誓います」
“幸せにしますよ”と微笑まれた。
…少し恥ずかしいが、彼にだけ言わせる訳にもいかない。
「私も、ずっとギルを愛するって誓います。――二人で、幸せになりましょう」
私の羽で故郷まで帰れたとしても、大好きなこの人の隣を飛んで行きたい。
やっぱり最後は結婚式です。
しかし、実は第十羽から半年も経っているという謎。
詳しい話は、後日に本編の小話で書きますね。
拍手小話はちょっとした小ネタ用です。




