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このお話で完結です。
長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。
弟の墓に刻まれた名を愛し気になぞり、エリフィスは墓に花を供える。
丘の上の景色の良いその場所に建てられた弟の墓は、平民の墓にしては豪奢だ。ラース家がせめてもの償いとして建ててくれたものだ。
弟の墓参りには欠かさず来ているが、エリスに名をもらってからは初めてだ。
不思議と、弟が嬉しそうに笑っているような気がして、エリフィスの心に温かなものが宿る。
しばらくの間、弟との思い出を思い返していたが、やがてそれが尽きると、「また来る」と小さな声で伝え、エリフィスは墓を後にした。
帰り道、どこからともなく甘い花の香りがして、エリフィスは自然とエリスの事を想った。
あの時、エリスに『殺してもいい』などと言われて、エリフィスは心底驚いた。だが、それ以上に、エリスが深い情をエリフィスに掛けてくれたことが嬉しかった。母親が我が子に注ぐ様な無償の情を、エリスはエリフィスに与えてくれる。
でもそれは、あくまでも親子の様な『情』だ。エリスは命はくれるかもしれないが、エリフィスが望む形の『愛』は、向けてくれないのだろう。
エリスの視線はいつも。エリスだけしか見ていないあの狂犬の様な男に向けられていて。どれほど努力しても、どれほど成果を上げても、あの男以上の視線をエリフィスに向けてくれることはないのだ。
だがエリフィスはそれでも良かった。
自分の想いが生涯叶わなくても。エリフィスの唯一は変わらずエリスであり、エリスはそれを許してくれるのだから。
それにエリフィスは一つだけ、あの男に勝つことが出来た。
エリフィスはふふふと、笑みを浮かべる。
我が君の、憂いを晴らしたのは自分だと、心の底から誇る事ができて、幸せだった。
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