復讐者、一時のお別れ
「え~っと…とりあえず?俺もスキル保持者か?」
半獣人のような姿。
鉄の硬度を誇る白い鍵爪。
どこかカツの面影のある姿にケンは変身していた。
「なんだー?さっきのガキがなんで急に変身魔法なんかを…」
ナイフの一撃を受け止められたフレディは後ろの方へと飛んで引いた。
ケンはスキル保持者と言っていたが、どうやら変身魔法らしい。
「あれっ?そういえばカツは?」
(ぶい!)
「あれ?心の中にいる感じ?」
(ぶい!)
「よっしゃ、これならあいつ倒せそうだ」
「ちっ、さっさと終わらせるか」
フレディはポケットから手裏剣を数枚だして投げる。
「来るか?」
ケンは手裏剣を落とそうとするが、手裏剣のスピードは遅かった。
「影移動 渡り!!」
そして、手裏剣で出来た影から影へと移り、高速で移動する。
「なっ!」
ガンッ!
「ちっ、体も鉄の硬度かよ!」
「あぶねぇ!!!」
フレディはケンの横腹を深く刺そうとしたが、フレディのナイフでは刺さらなかった。
カツの本来の硬度である鉄の様な腹を持つ事が出来たのだろう。
フレディの速度に叶わなかったが、体が丈夫で助かった。
「くそっ!!」
ポンッ
すると、フレディは煙幕玉のようなもので煙幕を発生させた。
「レンコさん!一旦引きますよ!」
「え?」
ケンはそういうとレンコを抱えて、煙幕の外へと出た。
煙幕の外に出たケンはレンコを芝生の上に降ろす。
そして、辺りを見渡すが、周囲には誰もいなかった。
「あれ?いない?」
再び周囲を見渡すも、やはりフレディの姿はなかった。
しばらく、静寂が場を占める。
「もしかして…逃げたんじゃ?バロンさんを刺したし」
レンコがそんな事を言う。
フレディはあくまでも霊獣であるバロンを暗殺するためにやってきた刺客。
それが確認できれば帰るはずだ。
確認できれば…
(もしかして、バロンさんの方に!)
「そうだ、バロンさんは!」
そして、バロンさんの方へと見ると、まだ倒れていた。
まだ血は止まっていない。このままでは本当に命が危ない。
急いでバロンの元へと行こうとしたが…
「くっ?!」
不思議と体のだるさを感じる。
「やっと効いたか、即効性の痺れ玉だったのにな」
ケンの影からフレディが出てきた。
「おまえ!」
地面に倒れ伏せるケン。しかし、さらに状況は悪化する。
カツとケンの融合が解除された。
「ぶーい…」
「カツ!」
カツが疲労困憊で倒れ伏せる。
「どうやら、魔物の魔力で変身魔法が出来たのだな…そして、痺れもそいつが殆ど肩代わりしたそうだな。差し詰め、あのじじいが色々と細工したんだろうな。まったく…」
そしてバロンの元へと行く。
「とどめだ」
「やめろ…」
しかし、バロンの元へとゆっくりと確実に歩く。その歩みは止まらない。
「やめろ!!!!」
フレディに止まってほしいと願うが、そのケンの声は届かなかった。
ザクッ
ナイフの刃は虚しくバロンの体の中へと消えていった。
◇
バロンが止めを刺されて数秒。
手ごたえを感じたフレディはナイフを抜いて、その場から去ろうとしていた。
「任務完了。さてと…俺はとっとと帰還するぜ、おい、そこのお前」
フレディは呆然としているケンへと声を掛ける。
「聞こえているか?うわっ…ショックが激しいのな。まぁいいや、とりあえず俺は帰るけど、まぁ…すぐ再開するだろ。その時はまた再戦でもしようや」
「はっ?一体何の話?」
ケンはフレディの言った事の真意が読めない。そしてフレディもケンの返答を聞かずに赤い玉のような物を地面へと打ち付ける。
そして、その玉から赤い靄が出てくる。
「あれは…!」
レンコはその靄を見た事があった。
あの転移ができる靄だ。
その靄を通り抜けて、フレディは消えて行った。
敵が消えた事で緊張が解ける。
そして、一気に目の前の死がケンへと降りかかる。
「あっ…あぁ…バロンさん!!バロンさん!!」
バロンの元へ駆け寄り、バロンの体を揺らす。
「はぁ…はぁ…」
静かな息遣いが聞こえる。まだ意識はあるみたいだ。
「良かった。まだ意識が…」
「あぁ…ただ、これはちと私でもやばいのう…」
ケンは傷口を見ると、まだ血が止まっていない事に気が付く。
獣だが、その姿は弱弱しい。
「気張って!バロンさん!すぐにラフロシアさんが来るはずだ!」
ケンが着いてからもう数分は経つ。すぐにでもラフロシアが駆けつけてくるはずだ。
「あぁ…そうだな、先に先程の魔法の説明だな」
遺言を言うようにしてバロンは言う。
「話すなよ!バロンさん!傷がひどくなる!」
ケンの注意も無視して、バロンは続ける。
「あの暗殺者は変身魔法と言っておったが…あれは私のスキルの一つである【変身】を【譲渡】でお前の魔物に与えたのだ…ごはっ!…このスキルは本当は私がご主人様と共に冒険をしたかった事から生まれたスキルだ」
安らかな笑顔で話をづづけるバロン。
「もうこの世に、大昔に…私のご主人様はいなくなってしまったが…このスキルは私の願いとしてずっととっておいたスキル。生まれてしまった時には使おうにも使うための主などいなかったんだが…ごはっ…そんな時に貴様と出会った。どうか私のスキルを受け取ってほしい。そして貴様の魔物とより強き絆を築いていってくれ」
優しい目でケンを見つめる。
「あぁ!分かった、分かったから!もうしゃべるな!」
そして、ラフロシアが駆けつけた。
しかし、魔法を掛けようとした時、ラフロシアの顔が曇る。
「ラフロシアさん!何してんの!早く…早くバロンさんを助けて!」
「ケン…もう、霊獣様はもう…」
ラフロシア、悲しそうに言う。
「そんな」
「バロンさーん!!!」
再び静寂が場を占める。
哀しみが辺りに漂い、そして時間のみが刻々と…
「ほーい、呼ばれたバロンさんでーす!!!!!」
「………………え?」
…と思ったら、幽体幽体のバロンが空中にただよっていた。
満面の笑みでバロンが言う。
「いやーケン君、私がどう呼ばれていたかを忘れていたのかな?おっほん…私はニューアリアのエルフから霊獣と呼ばれている存在!それすなわち死ぬ事で霊の姿として真の霊獣へと昇華するんじゃあ!」
見栄を張ってお化け状態になったバロンは言う。
ちなみに今の彼は獣の姿だ。
獣姿で足がないので、非常にデフォルメする必要がある絵面だが、そんな事は気にしてはいけない。
顔を伏せて、ケンは静かにバロンに問う。
「スキルを俺に譲ったのは?」
「霊体になるとスキルは全部リセットだからのう!だったら手ごろなやつに与えようと思ってね」
「じゃあ、簡単に死んだ暗殺者の攻撃を受けたのも…」
「まぁ…ケンくんやレンコくんではあの者の戦法は不得手だと思ったからじゃのう。私なりに助けたのじゃ…私は結局死なないからのう」
ほほほっとバロンは笑いながら、空中をぐるぐる回る。
さながら馬鹿にしているようだった。
「そうか…」
沸々とケンの中から何かが込み上げてきた。
そして、ケンはポケットから白い物体を取り出す。
「そうか…」
拳に力を込めて、ケンは顔を上げた。
「うん?それってまさか…ていうかケン君その顔…」
ケンの顔を見て、バロンは恐怖した。
バロンの体があった時に感じなかった恐怖を、肉体がないにもかかわらずに背中から冷や汗が流れ出るかのような感覚を感じる。
そして、バロンの眼先には、顔を般若にしたケンがそこにいた。
思いっ切り、力を込めて掛け声を上げて投げた。
「ソルトアタッーク!!!成仏せい!」
「ぎゃぁーーーーーー!!」
塩が霊に聞く科学的根拠はないが、バロンの霊体には効いたようだ。
「ちょっとケン君!霊獣様が消えちゃうわ」
ラフロシアがケンをなだめる。
しかし、ケンの気持ちも分かるので深くは追及しない。
「うるせー!慌てて飛び込んできて、助けようとして、助けられなかったと思って泣いこうとしたらこれだ!こんな若者を心配させる老害なんて成仏しろ!老害がーーー!」
そして、白い物体…塩をさらにかけようとするケン。
「うわっ!うわっ!うわぁ!!!」
空中でブンブンと避けながら飛ぶ。
「こいつ、こいつ!死ね!死に晒せ!!!」
「ケン君!キャラが!キャラが…キャラが色々とまずいことに!」
しばらくの間、ケンはバロンの事を悪霊として認識し、ひたすら塩を振りかけたのだった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋