復讐者、大事な仲間だと言い切る
バロンがお化け(霊体になっただけ)になってから数日が経った。
戦いの場となったニューアリアは今日も平和だった。
そもそも戦いが行われたのは【大会議】内が殆ど。
ラフロシア対カーナークが湖の側で戦ったが、ラフロシアがすぐに対処したおかげで生態系に大きな影響はなかった。
しかし、ニューアリアの中央にある【大会議】は悲惨なものとなっていた。
まず、自慢の障壁に大きな穴が開いた。しかもそれを行ったのが元自国の民である女エルフであるラフロシアの仕業だったのは彼女やステュアート家の信頼問題に関わる事だ。
だが、これはリリアシアの話術で形勢が変わった。
主に、彼女が着色を付けてニューアリアの民にラフロシアの行動が想い人を【大会議】から助けるためだったというのが、多くのエルフ…主に女性陣の心を掴んだからだろう。
同情を買う事に成功したリリアシアは、民の意見をまとめてその矛先を【大会議】に向けた。
これにはリリアシアの夫(【大会議】所属議員)も胃が痛くなった。
さらにこの話を町中に流されたラフロシアは思いっきり赤面した。そして同時にレンコに会う顔がなかった。当のレンコはあまり気にしてなどいなかったが…
後、なぜかリョウマはこの話を師弟愛と受け取った。
とりあえず、ラフロシアはリョウマを食人草に一時間放り込んだ。そして、仲間は誰もリョウマを助けなかった。ラフロシアに同情したのだ。
しかし、ニューアリアの…特に女性達の矛先が【大会議】に向いたのは実は仕方のない事かもしれない。
【大会議】の議員を見たら分かるが、所属している議員は全員男性だ。その事に不満を持っていた女性は少なくなかったようで、このラフロシアの障壁を破壊した件で、新しい【大会議】を作るべきという意見が強まった。
そんな訳で、復興と内部の意見で忙しい【大会議】だが、当然今回の騒動の話し合いは必要で、リョウマ達は再び【大会議】の中の会議室で会議長と数人の議員と一緒に会議していた。
「…という訳で、リョウマ殿達の器物破損等の容疑は不問とする」
「どうも」
【大会議】の会議長 ランスティング・エイリークはリョウマにそう告げた。
ここは大会議内の会議室。
大きな焦げ茶のテーブルを挟んで、片方に【大会議】のメンバーとカーナーク、そして片方にはリョウマ、レンコ、メグ、エマ、スフィア、ラフロシア、ケン(肩にカツ)というようになっていた。
「しかし、【大会議】としてはそちらの二人まで許すつもりはない。どうか、その者達こちらに譲ってくれないか?」
穏便に済ませたいと言わんばかりにランスティングは提案した。【大会議】の要求は当然と言えた。自国を攻撃してきた相手をおめおめ逃すなど国の威信に関わる。
そして、この二人というのは当然エマとスフィアの事だ。
エマは身震いをする。スフィアは毅然としていたが、腕を組んでいる所を見ると、警戒しているのだろう。
そして、リョウマはランスティングの言葉にすぐに返答した。
「…それは無理ですね。こいつらは俺の仲間ですから。イグルシアの幹部達は一人を除いて、俺らが倒しましたのでご安心ください」
にかっとリョウマは言う。
それにランスティングの側に立っていた議員が怒りで声を上げる。
「何をいう!そいつらは自分らでイグルシアの者だと名乗ったじゃないか!」
遠視の魔法を見ていた議員だろう。
「だからぁ…そいつらは俺が殺しました。こいつらは魔王国のスフィアにエマで、俺のパーティの仲間で、後から援軍で魔王国からやってきたんだよ。おまえら遅いんだよ!」
「えっ…えぇ」
「ごめんなさいね」
エマはそういうの事にするのかと驚いた顔、スフィアは少し呆れながらも笑ってリョウマの言葉に乗る。
レンコはあまりいい顔していないが、他のメンバーは楽しそうにリョウマを見る。
そんなリョウマの仲間達を見て、議員は苛立ちを覚える。どう見ても仲間可愛さに守っているようにしか見えないからだ。
「屁理屈を若造が!魔王国の国家象徴風情が何を言っている!強力なスキルを持つだけで得たくせの地位で何を偉そうだな!ここは魔王国ではなく、ニューアリアだ!なら、我々【大会議】の法で裁かれろ!」
リョウマに指を指して、言及する。
側にいたレンコが腰の刀に手を掛ける。
「おっ?武器を出すか?なら国際問題にしてもいいのだぞ?」
「…」
「よせ、レンコ」
「うん」
レンコを治めて、リョウマは議員に言う。
「裁くならいいが…イグルシアの前に今度はお前らが痛い目見るだけだよ?」
「何を…!!」
「俺も、俺の仲間も簡単には捕まらないと思うし…」
「こちらにはカーナークがおる!」
「ミッシュさん…今回は少しきついかな…特にラフロシアもいるし」
「なっ…カーナーク…何を弱気な事を」
あれほど自信満々だったカーナークが弱弱しく言う。今回の件で彼の自信に大きな傷がついたのだろう。
ミッシュという議員もこれ以上攻撃に出れないと踏んだ。そこでランスティングが言う。
「リョウマ君。君の噂は私の耳まで届いているよ」
神妙な顔でリョウマ言う。
「それでも、そちらの者達は魔王国からの援軍だというのか?」
これはリョウマ個人に向けて言われている事に気が付いた。
私は君の情報を握っている、そしてその二人は裏切ったはずの仲間なのに、そんな人達をこのような形でかばうのか?後悔はないのかと…
「はい、こいつら…ここにいる全員は俺の大事な仲間ですから」
笑顔でリョウマは言う。
それにレンコは嬉しそうに歯に噛んだ笑顔をする。
「成程、よかろう、ではイグルシアからきた主犯格らは死亡、そして一名は逃亡と…」
「会議長!」
ミッシュは声を上げて抗議する。
「ミッシュ…もうやめなさい、私は魔王国の同盟をくずしたくないのだ。それは我の身とこの国の安全のためにもな」
そして、ランスティングはラフロシアへと顔を向ける。
ミッシュもそちらの方へと顔を向けるとそこには…
「あら、失礼。少し悪い空気になったので、楽しませようと思って咲かせましたの」
楽しませようと思ってというが、【大会議】の議員達は冷や汗を掻く。
先天的スキルの最高峰である【太陽】の力を持つラフロシアは今魔王国側についている。
最悪、彼女だけでもこのニューアリアを壊せる力を持っているのだ。
「…少し言い過ぎたようだな…」
「いえいえ、ミッシュ様のその国を想う熱は大切です。私は尊敬します…私もそうなれるよう頑張ります」
そして彼女の産んだ花のつぼみが開いた。
国を想う熱はまだラフロシアにないが、人を想う熱はある。
「分かったわい!」
そう、ミッシュはいうと座り込んだ。
これ以上言及する気はないのだろう。
リョウマはスフィア達の話が終わったと思うと、自分達にとって肝心な事を聞く。
「で、肝心の俺らがイグルシアへと行くことだが…どうなるの?」
ランスティングは申し訳なさそうにして言う。
「それはまだ待っていてほしい。大体一週間くらいだ。壁に障壁の復刻を優先しなければいけないのでな」
「そうか…まぁいいよ…というか俺達は待つしかないしな」
結構、リョウマ達にとって良い方向に黙認をしてもらっている自覚はある。そのため転移紋について色々と注文をするのは関係を悪化する未来しか浮かばない。
ここは引き下がる事にするリョウマ。
しかし、それよりも…納得というか…疑問に思っている事がある。
その事を一番に聞きたいと思っていたのはケンとカツだ。
「あの、それよりも…そこにいるじじぃに色々と聞きたいんだけど」
ケンはそう言うと、空中を指で刺す。
そこにはふよふよと霊体のバロンが飛んでいた。
「なんじゃい?ようやく私の番かい」
「「「霊獣様!」」」
議員達が驚いていた。
「バロン様、ユドラの湖畔にて過ごしてくださいよ。ここは貴方様の家では…」
「嫌じゃ、会議長や!これまでは体が大きいからあの湖畔で過ごしていたが、私はもう今は霊体!…これで貴様らに迷惑は掛からんじゃろうから…ここで住む事にした!部屋をすぐ用意せい!」
「「「えぇぇ…」」」
議員達は我儘を言うバロンに飽きれる。崇拝している霊獣がこれでは信仰心も薄れるというもの。そもそもバロンは信仰心に強いこだわりがないが…
「なんで、バロンのやつお化けになったんだよ!」
「それは実はバロン様は死ぬ事で霊になれる生き物でして…」
会議長が説明する。
「なんのために?」
メグが当然の疑問を口にする。
バロンの様な魔物の話は学校でも習った事がない。
「元々は早めに死んで、スキルの調節をするのが我ら霊獣の使命なのだが…まぁ今は守り神と存在する事多いな。それに私は肉体のある生活が好きでな。だから、長い間霊体にならずにいたんだ。だが、今ならこういう事もできる」
そういうと、バロンはリョウマの体の中へと入り込んだ。
「何!」
リョウマは驚くも、体の中から声が聞こえる。
(てめぇ!!俺の空間に入ってくるな!)
(おぉー、レイジはこんな姿になっているのか。こうして会うのは初めてだのう!)
「え!もしかして俺の中に入ってきたのか?」
まさかの体験をリョウマはしている。
そして、バロンが中から出てきた。
「そうじゃ、霊の姿ならこうしてレイジと貴様の空間に行けるみたいだな。確証がなかったが成功したな」
これは重要な事が分かったのではないのだろうか?
霊体のバロンがリョウマの中にいるレイジに会えたという事はつまりレイジは霊だという事。つまり、バロンと似た存在ではないかという事だ。
「じゃあ、あの空間は霊のような物で出来ているのか?」
魔力ならぬ霊力?とでもいいのだろうか。
リョウマの中では色々な可能性が思い浮かぶが、確固たるものが出てこない。
「まぁ、私もレイジ殿の素性は分からない。試しにリョウマの体に潜ったら出来たという話じゃ…あまり参考にしないでくれ」
「はぁ…」
リョウマは返事をすると、今度はランスティングが言う。
「では、しばらくステュアート家で厄介になってほしいです。転移紋の準備ができ次第、連絡を向かわせますので、それまでどうか傷を癒してください。それでは…ここいらで会議はこの辺で終わりにしましょう」
そして、ランスティング達は会議室を後にした。
「はぁ…疲れた」
リョウマは力なく椅子に崩れた。
「有難う」
「有難うリョウマ…」
エマとスフィアがお礼を言う。
「うるせぇ…この前の続きをまた始めただけだ…まぁ、これからは宜しくな。しばらくは気持ち悪いかもしれないが…まぁお互いに慣れよう」
リョウマは軽く言う。しかし、めずらしくレンコはその意見に声を上げた。
「待ってリョウマ…こいつらを【大会議】に上げないのは賛成…だけど、それは私達の手で終わらせるかと思った」
そういうと、レンコは鞘から刀を見せる。警戒ではなく、軽い殺気も流れる。
「…エマはいいわ。だけどスフィア…忘れたとは言わせないあの日、リョウマの暗殺を提案したのは他でもない貴方だという事を」
「うっ…」
その事実を知るのはレンコ、エマ、スフィアだけだ。そしてそれぞれが顔を背ける。
「まぁまぁ…皆さん」
「おや?修羅場か?」
「黙れじじぃ!ソルトブラーッシュ!」
「ぐわぁーーー!」
バロンが邪魔しそうだったのでケンが退散させる。しかし、それでも重い空気は解かれなかった。
「一旦、屋敷に戻りましょう…話す事があるのなら場所も用意するわよ。スフィアさん?」
するとラフロシアが
「有難うございます…ラフロシア。そうね…話した方がいいわね、あの時の真相…暗殺を提案した私が見たあのリョウマの暗殺の真相を」
「…」
リョウマはスフィアの言葉に特に反応をしない。
そして一行はスフィアの告白を聞くために一旦ラフロシアの屋敷へと戻るのだった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋




