復讐者、真実の一歩手前
場面は戻ってラルフの危機的状況下。
ルカルドが目の前にいるラルフへと止めを刺そうとする時
その止めの一発を彼へと放つためにルカルドは銃を向けていた。
「この戦いが終わった後にその訳とやらを聞こうじゃにゃいの…まず君にはこの戦いから降りてもらうにゃ」
獅子の獣人であるルカルドは、その特有の口元の牙をのぞかせながら言う。
強者同士の戦いで生まれた決定的瞬間、それを感じているルカルドのこの余裕は至極当然のものだ。
そんなルカルドにラルフは言う。
「なぁ、俺を倒したらその後はどうするんだ?」
そして、手元にあった剣を捨てるラルフ。離れた剣を見たルカルドだが、彼からの距離からしても対処可能のものだ。
「勿論、アマンダっち…魔王様を助けるにゃ」
ルカルドは魔王国の三大将軍。その忠誠は現魔王へと捧げている。
だが、その一言に返されたのは笑いだ。
その笑いには侮辱が含まれていた。
「ははは…まだお前達は知らないみたいだな…あの魔王は本来助ける必要がないんだよ」
ラルフはマリアを助けるために知ったこの世界の仕組み。
それを知らないこの世界に生まれたルカルドを見ているラルフにとっては特に滑稽に映ってしまっ
た。
「何を言うにゃ!」
そういい、怒りを含んだ手元でトリガーに力を入れるルカルド。
その時、視線が少し…わずかにトリガーを見るためにラルフから離れた。
その瞬間をラルフは見逃さなかった。
「俺もこのまま倒れる訳にはいけないんでね…」
瞬間移動かと疑うようなスピードでルカルドの後ろへと飛ぶラルフ。
「…自分の服を操れないとはいっていないぜ?」
己の服を自在に操作する事で人間には出せない速度を生んだ。
その速度で銃を蹴り落とす。
「やっぱ…あんたじゃあ…ラガーンは倒せないよ」
手刀をルカルドの心の臓の上で止める。
これで形勢が逆転された。
「…まだ俺のスキルにはたんまり武器があるにゃ」
まだ勝ち目を諦めていないルカルド。
実際、手はまだあった。冷静に現状を分析する。
今はただ、ラルフが本気を出してきただけの話だ。
そのために脳をフル回転させて、相手の力への戦術を建てる。
「…まだ来ないのか」
ふと、ラルフは外へと眼を向ける。
「なんの話しにゃ?」
「どうして君とは戦う理由もないのに戦っていたか分析できるか?」
そもそもラルフが少人数で行動していなければ、ここまでの戦闘ができなかった。
彼がなぜかラガーンや帝族たちと離れて行動している事がルカルドにとって好機だった。
故に、その可能性までは考えていなかった。
「…誰か来るのを待っているのにゃ?」
だが、それがだれなのかルカルドには分からなかった。
先程いったようにイグルシア帝国の要人へすでにこの城についている。
いるとすれば、それは国外の人間になる。
「…他の女はどこにいったにゃ?」
そして戦いの最中にラルフの側にいる女の一人である…レーナがいない事に気づいたルカルド。
「彼女には待ち人が来た時に合図してもらう手はずになっているんだ、そしてルカルド…さん、貴方にはこれからの戦いで戦えるのかを定めさせてもらった…結果はだめだ…」
「何を言っているにゃ、いやお前は何を知っているんだにゃ」
ラルフの様子がおかしい事に気が付くルカルド。
「…説明するにはお前の降伏が絶対条件だ、ルカルド・エヴァン・レオハート!」
「…」
ルカルドは考えた。
彼の行動の分析を…それはこれまでにどうこの場に繋がっているのかを…
そしてある仮説にたどり着く。
「分かった…、降伏するにゃ」
そして、両手を上げるルカルド。
「そうか…」
そして、ラルフは前へと倒れ駆けるが、それを側にいたローナが抱える。
「ラルフ様…無理をしないでください。自在の身体操作は負担が大きいのですから…」
実は最後の技は諸刃の剣だったりする。それを最後まで隠し通したラルフはやはり強いのだろう。
ルカルドは倒れかけているラルフを見ながら、立ち上がる。
まだ最低限の警戒は解いていない。
「でにゃ、その訳とやらを説明しろにゃ」
ルカルドは知らなければいけなかった。
ラルフの言う、アマンダがこと魔王が助けを必要としていない理由を。
「あぁ、話すよ…でもいいのか?これから話す事は恐らく…君にとって悔しいものになるだろう」
「いいにゃ…それも俺はお前の口からその真実を聞きたいにゃ…」
こうして、ルカルドはラルフにこれまでの行動の意図を聞いた。
それは確かにラルフにとって悔しいものだった。
◇
場所はラフロシア対カモーラの戦い。
ここの戦いは均衡していた。
お互いに兵士を生み出しつつ、攻撃をしているが、一向にらちが明かなかった。
ラフロシアは奥の手である【太陽】を出そうかと考えたが、それは魔王城の中では厳しかった。
すると、カモーラが気になる一言を言う。
「…何?来ただと?」
どうやら誰かと念話しているみたいだ。
「あんたの言う通り、エルフのねぇちゃんと戦っているけど…分かった…適当に切り上げてそっちに合流する、俺も消されたくないからな」
そういい、念話をカモーラは念話を辞めた。
「悪いね、俺はそろそろ行かなくちゃいけなくなったので…最大出力でとんずらさせてもらうぜ」
そういい、大量のゾンビを出すカモーラ。それはいくら魔力が豊富なラフロシアで追いつけない程の数だった。当然、それらを無力するためにラフロシアは自ら手を下す。
その隙にカモーラは動いた。
「なんでゾンビが消えないのよ!」
「ははは!ゾンビを生み出すのに動けないだけで、生んだ後は別に条件は関係ないんだよ!」
軽快に逃げるカモーラ。
その逃げっぷりにはどこか滑稽に感じてしまう。
「何よ!」
逃げるカモーラだったが、最後に一言だけ置いていった。
「まぁ、追ってくるな構わないが…これからの事はただ眺めておいた方が良いぜ」
そうカモーラは言って、今度こそ視界から見えなくなるぐらいに廊下の奥の方へと走り抜けた。
「眺める?まだ処刑の時間までは…あるはずよね?」
そう、まだ処刑の時間までいくらかある。
「あっちは…魔王城の入り口よね…誰かが来ている?」
ラフロシアは残党であるゾンビ達を倒して、カモーラの後を追うのだった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋