プレゼント2 その3
さてと……。
もうそろそろクリスマス会の会議も終わる。大量の感情を得るにはあいつらからもらうしかない。
ここで稼がないとノルマは超えられない。
え? 他の人から集めれば良いって?
そんなこと俺が出来るわけないじゃないですか。仮に知らない女性にしたとしたら痴漢行為で警察署行きだよ。男は……触りたくない!
どうしようかなー……。
「どうした亮。そんなところで突っ立って。兄貴がお前を呼んでるぞ」
「ああ。今から行く」
教室に戻ると、全員がなぜかそわそわしていた。
「どうしたんだお前ら」
「亮! 大丈夫だったか⁉」
「何で電話しただけでそんなに心配するんだ⁉」
「いや、店長かもしれないと思ったもので……」
そういえばそういう話をしていたな。
「それで相手は誰だったんだ?」
全員が俺を白い目で見ている。ここで加奈と言いだしたらここで処刑が行われ――待てよ? 逆に、これは感情大量のチャンスじゃないのか?
「どうした亮? もしかして加奈ちゃんとか言わないよね?」
隼人が握っている携帯がミシミシと音をたてている。
覚悟を決めろ。亮! もうここしかない!
俺はバックから手袋を取り出し右手につけた。そして言った。
「いやー、それがさ、俺の愛しのマイハ二―の加奈だったんだよ。今日、加奈の家に誰もいないらしくて、さびしいから家に来てだってさ」
さあ来い! お前らの感情で満タンにしてみせる!
一斉に襲ってくると思っていたが、全員が携帯を持ってメールをしていた。
「お前ら何してんだ?」
「「「「「加奈ちゃんに真相を確かめてるんだよ」」」」」
こいつらやっぱり意思疎通している。何で毎度毎度声が揃うんだよ。
「まあ俺は亮の軽いジョークだって分かってるけどな」
隼人さん。お前って奴は……。
でも加奈が嘘だと言ったら集められる感情は少なくなる。それはそれでまずい。
「俺に返信が来たぞ!」
「あ、俺にも来た」
次々とメール通知音が聞こえてくる。
「待て! そのメールはまだ開くな! これは代表者の携帯で見るようにしよう。じゃないとつまらん!」
隼人の提案でメールを送った全員が携帯を閉じた。
「来たぞ!」
俺を押しのけて隼人の周りに集まった。
さあ加奈はなんて答える。
「開くぞ!」
隼人は震える手を抑えながらボタンを押した。
『差出人 かなちゃん 何でそういう話になったの⁉』
即座に隼人は返信した。
『亮が皆に自慢してた』
あれは感情集めのためにしたことで自慢じゃな……いや、俺のさっきの言い方だと自慢にしか聞こえないな。
「加奈ちゃんから来た」
『はあ。まったく亮も何を言ってるんだか。確かに私はそうはいったけど、いかがわしいことはしようと思ってないからね? 皆にもそう言っておいて』
「……」
加奈は俺の感情集めのために汚名を着てくれた。
ならば俺がへたれるわけにはいかない。加奈のためにも。
「本当だったがこれから俺をどうする?」
「そうだなー……。あ、俺も来年こそは彼女を作りたいから、今年作れた亮からパワーをもらおうかな。ほら亮、握手しようぜ」
隼人がいい方向に持っていってくれた。
「ちなみに最初に手をつないだのは右手だったぞ」
「じゃあ、右で握手してくれ」
「おう」
俺が右手を差し出すと隼人は両手で俺の手を握った。
「いたたたたたたたたたたたたたたた!」
「どうした亮。そんなに痛がって。全然力を入れてないんだけどな
隼人は笑って軽い声で言っているがかなり力を入れている。
メーターは……すごい! 隼人だけで一割貯まったぞ。これなら満タンになるけど・・・・・。
貯まるまで俺の手が持つかわからない。
「ほら! 他の皆も亮からパワーをいただこうぜ!」
「「「「「じゃあ亮さん、よろしくお願いします」」」」」
このとき全員がニタリと気持ち悪い笑みを浮かべていた。
あ、俺の右手はここで使えなくなるかもしれない……。
集合五分前。
「それで満タンにしたのかい?」
「ああ。死ぬかと思った」
「なかなか無茶やるねー」
「それくらいしか方法を思いつかなかったんだよ」
「というか、加奈の奴はまだ出てこないのか?」
「準備してるんだよ」
俺が来たのは今から一時間前。加奈は、俺が加奈の家に入ってきてからずっと部屋にこもっている。
「おーい! そろそろ時間だぞー!」
俺は加奈の部屋に呼びかけてみるが、返事はない。
「メリー。これって放置していていいのか?」
「いや、行かない方がいいんじゃないかな? これって漫画でよくある部屋に入ったら着替えているパターンだから」
「なるほど」
「じゃあ放置でいいかな?」
「うん」
「でもさ、逆に倒れているパターンもあるんじゃないか?」
「確かに」
「もしそうだったら自分を悔やむことになるよな」
「……」
「なあ部屋まで行かないか?」
「怒られるよ?」
「安否確認だ。怒られることなど何もない。それよりも返事しない加奈の方が悪い」
「ノックだけだよ?」
と言っているメリーは意外と乗り気である。
移動して加奈の部屋の前。
「なあメリー」
「どうしたの?」
「呼んでも来なかったよな?」
「そうだけど?」
「じゃあノックしても返事はないんじゃないのか?」
「一理ある」
「やっぱり部屋に入った方が良いんじゃないのか」
「……」
「隊長! ご決断を!」
「やむを得ない! 突撃じゃー!」
今、メリーからグヘヘっていう笑い声が聞こえた。
思ったけどメリーっておっさんだよな……。
覗こうと扉に手をかけた瞬間、突然扉が開いた。
俺は手で受け止めたが、メリーは顔に思いっきり当たり、また吹き飛ばされた。
「あと一分! ぎりぎり間に合った! ……ってそこで何してるの?」
顔を上げるとサンタ服を着た金髪ロングでスタイルの良い美女がこちらを見ていた。
「えーと……どちら様でしょうか?」
「誰でしょ?」
姿勢を低くして上目遣いをするのを止めていただきたい。胸に目がいってしまう。
「正解は平野加奈ちゃんでした」
「へー。で、いくらで雇われたんですか? 大丈夫です。本人には言いませんから」
「何で信じてくれないの⁉」
「巨乳! 金髪! そして巨乳!」
「亮は女性を判断するとき胸しか見てないのか!」
そう言われても胸は偽造できないでしょ?
「まあ、そう言われると思ってここに至るまでの写真を用意したよ」
加奈は胸の谷間から写真を取り出して、俺に渡した。
「どこに収納してんだよ。リアルでされるとちょっと引くな」
「まあまあ。取りあえずそれを見てよ」
一枚目。今まで通りの普通の加奈が写っていた。
二枚目。髪が少し切られて金髪になっている。加奈の近くにはスプレーが写っていた。
三枚目。上着を脱いだ加奈がいた。胸にはブラではなくさらしが巻いてある
四枚目。上着を着ている加奈だが、胸の部分が明らかに膨らんでいる。
「……」
「どう?」
「確かにお前は加奈だ。よし! それじゃあサンタの仕事をさっさと終わらせようぜ!」
「また無反応⁉ これ泣いてもいいよね⁉」
「でも反応する奴はいるぞ」
俺は近くに吹き飛ばされたメリーを起こしに行った。
「おい。メリー。そこに金髪美女がいるぞ!」
「どこ! パツキン美女はどこ⁉」
メリーは一瞬にして目を覚まし周りをキョロキョロする。
「お前の後ろだ」
メリーは見た瞬間ニャーと鳴いて甘えてすり寄っていく。
「な? 反応しただろ?」
「猫にされてもうれしくない!」
加奈は泣き目になりながら訴えた。
「おいメリー。そいつは加奈だ。それぐらいにしてそろそろプレゼント配りを始めるぞ」
「嘘でしょ?」
「何で嘘をつかないといけないんだよ」
「加奈さん?」
「その母さんみたいに言うのやめよう」
「加奈」
「亮はなに?」
「昨日はすまなかった。似合っていて可愛いぞ」
不意打ちで言ってみたけど、こっちの方が恥ずかしいな。
「普通に言ってよ。バカ。ほらメリーもいつまでも震えていないで行くよ。さっさと終わらして遊ぶよ!」
加奈は顔を真っ赤にしているけど上機嫌にはなったみたいだ。
「じゃあ行きますか!」
「「おう!」」
そして二日間のプレゼント配りが始まった。