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プレゼント1 その1

 十二月二十三日。クリスマスイブの前日。

 放課後のことである。クラスの男子全員が教室に集まっていた。

教卓の上に立っている隼人が全員に呼びかける

「おい、お前ら!」

「「「「「はい!」」」」」

「この中で明日彼女と過ごす奴は手を上げろ!」

 するとほとんどの奴らが手を真っすぐに挙げていた。

「一か月前まで誰も彼女を持っていなかったのにどうしたんだ! 皆良かったな! おめでとう!」

「待て、亮」

「どうしたんだ?」

「今、手を挙げていた奴は手を挙げてくれ。今から言う事柄に当てはまらないならそのまま。当てはまったら手を下げてくれ」

「何をするんだ?」

「いいから見てろ。まず問一。外で彼女と過ごすもの!」

「え……」

 いきなりハードル高くないか? だってそれは自分の家で彼女と過ごすという事になるんだぞ。 ほとんど全員が手を下げるにきま――。

 という予想に反して手を下げたのはほんの数名であった。だがそれと同時に俺は何か違和感を覚えた。

「問二。正直に言って自分の彼女がブサイクだと思うもの!」

 これには誰も手を下げなかった。

 ちょっと待てよ……。

「問三。その子と付き合い始めて一か月未満のもの!」

 三分の一ほどが手を下げた。

 おいおいおいおい。そんなことがあってたまるかよ! 本当はいるんだろう⁉

「隼人もういい。やめるんだ」

「ダメだ! ここで止まっていたら先には進めない! 手を下げたものはもう一度挙げ直してくれ。 行くぞ問四!」

 本当はいるんだろう⁉

「その彼女が――」

 三次元の彼女が居る奴が!

「二次元にいるもの!」

 隼人がそう言った瞬間、俺は最も悲惨な光景を目にしてしまった。

 あるものは平然としている。あるものは覚悟を決めて笑みを浮かべている。必死に泣くのをこらえている者もいた。

 

 そう、全員の手が一斉に降りてしまった。

誰一人として今、手を挙げている者はいない。


「皆。これが今の現状だ。そしてこのことに目を背けてはならない。この悔しさをバネにして己を磨いていって欲しい!」

「「「「「はい!」」」」」

 亮もたまにはいいことを言うんだな。少し感動してしまった

――けどよく考えたらそうでもないな。

「それでだ!」

「まだ何かあるのか?」

「むしろここからが大事だ。明日、彼女との約束をなしに出来るものは手を挙げてくれ」

 全員が無言で手を挙げた。というかまだ二次元の女の子を彼女と呼ぶのか。

「明日、クリスマスパーティーを開こうと思う!」

「師匠! 質問良いですか?」

 前の席に座っていたクラスメイトの一人が手を挙げて立ち上がった。というか隼人はいつのまに師匠になったんだ。

「許可する!」

「女子は来ますか?」

「来ません! 女子禁制です!」

「帰ろうぜー」

「「「「「ウィース」」」」」

 隼人が言うのと同時に全員が帰る準備を始めた。

「お前ら、帰るのはまだ早い。話を聞いてからでも遅くはない」

「でも女子来ないんですよね?」

「女子は誘わない。というよりも誘えない」

「何でですか?」

「なぜなら今回のパーティーで、来てくれた皆にエロ本及びエロゲをプレゼントしようと思ったからだ」

 皆の動きがピタリと止まり、それぞれ自分が座っていた場所に座り直した。

「し、師匠。その話って本当なんですか?」

 先ほど質問した男子が再び質問する。

「ああ本当だ」

「まじですか?」

「まじです!」

 隼人が親指を立てて軽くウィンクすると、男の低音のキャーという気持ち悪い歓声が上がった。その光景はアイドルのライブにしか見えなかった。

「それでもう一度聞き直すぞ。明日のクリスマス会に参加出来るやつは手を挙げろ!」

一瞬にして全員の手が挙がった。何人かは早すぎて手を挙げる動作が見えなかった。

「兄貴!」

 教卓の近くに座っていた一人の男子が立ち上がって隼人に言った。

「今、手を挙げている俺たちは一生兄貴についていきます! 何か異存があるものはいるか⁉」

「「「「「ありません!」」」」」

 二十人近くの声がぴたりと重なった。こいつらは打ち合わせでもしてるのか?

「そ、そうか。まあ無理はするなよ」

 あまりの男子達の団結力に隼人は軽く引いていた。

「連絡は折り入ってする! というわけで今日は解散!」

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

 今度は声だけではなくお辞儀まで完璧に重なっていた。

 

 今日見ていてわかったことがある。

クラスの男子は団結力が強いということ、そしてエロ本、エロゲは人を集めるものだということ。



どうでもいいなこれ……。


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