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ステゴロソウル~たとえば俺が勇者なら~  作者: 寅猛
番外編 裁縫都市パッチワーク
94/165

パッチワークの2

次がとても短くなってしまったので二話連続投稿にします

 無機質な天井を見るでもなく見ないでもなく、リュージはぼんやりと考えに耽っていた。

 ここ最近の自分がひどく落ち込んでいるのは自覚している。そして他の三人が何だか気を使っているのも良く分かる。

 特にヴィートなどはリュージの一挙一動に極端な反応を見せていた。

 よくない状態だ。最もその状態を作り出しているのはほかでもないその状態を作り出しているリュージ自身なのだが。



 ――あとしばらくでこの大陸ともおさらばだってのに、いつまでもこうじゃいけねえよな……。



 数えるのも馬鹿らしいほどに繰り返された結論にまたもやたどり着く。

 頭では理解しているのだ。へこんでいる場合ではないことも、皆に心配をかけていることも――。

 それでも駄目だった。そもそも理解するだけで切り替えができるほど器用な人間ならばもう少し楽な生き方ができただろう。

 ジャケットの下で、半袖になってしまったワイシャツを思い浮かべ、リュージは深くため息をついた。



 遅かれ早かれこの時が来るのは分かっていたのだ。

 フィクションの世界じゃあるまいし、あんな怪物たちと戦い続けるのならば、服だって破れるし身につけている物だって壊れる。それが嫌なら全裸で戦うしかない。当然それは御免である。

 よってこの先選べる道は二つに一つ。

 このまま頑なにスーツ着用を続けて、ボロボロになっていく相棒を目に焼き付けながら進むか――。

 ――代わりの服を準備して、相棒には棚の隅で埃を被ってもらうかだ。



「……どうすっかなぁ」

「リュ、リュージさん?大丈夫ですか?」



 御者台からヴィートが顔を出す。

 四人のなかで馬車を操縦できるのがヴィートであるため、御者台は男部屋方向に繋がっている。

 そのせいで日中絶えずリュージのため息はヴィートの耳に届いてしまうのだ。聞こえたからと言って律義に声をかける必要はないと言えばそれまでだが、この優しい臆病者は同室の苦しむ様を放っておけないのだった。



 「ああいや、何でもないんだ。気にしないでくれ」

 「……服のことですよね」

 「……悪いな、隠すのが下手で」

 「いいですよ、でも、そんなに大事なものだったんですか?」

 「――この服は働く時の制服みたいなもんなんだよ。前に話したっけか?」

 「聞きました。働く人共通の服があるなんて変わってますね」

 「変わってるか……所変われば常識も変わるよな」



 スーツが存在しないこの世界では、仕事場であっても全員私服だ。

 土木作業員が来ているつなぎのような服はあるのだが、所謂事務職が着るような仕事着はこの世界にはないらしい。

 各人がそれぞれの良識に合わせて選んだものを着ている。当然職場の雰囲気によっては落ち着いた雰囲気のものを着ることを選ばされることもある。

 それでも結局のところ彼らが来ているのは私服なのだ。



「でも制服だって言うなら破れて悲しいのも分かります。僕も騎士服が破れるのは嫌ですから」

「……嫌だとか、悲しいとかもあるんだけどな、それだけじゃないんだよ」

「だけじゃないって……」

「まぁ俺にも色々あるんだよ」



 それは暗にあまり聞かないでくれという頼みだった。

 リュージは隠しごとが嫌いな男だ。だから大抵のことは食い下がれば教えてくれる。きっとこの事も聞けば教えてくれるんだろうが――。



 ――聞かれて嫌なことも、あるもんね。



 生来の控えめさから、こういう状況に陥った時に、ヴィートが無理に話を聞こうとすることは滅多になかった。

 自身が作ってしまった沈黙に申し訳なさを感じたのか、リュージは努めて明るく口を開いた。



「まあお前らに心配かけっぱなしってのも悪い、そろそろこの服とも別れの時ってことだろうな。次の都市は海に面して物の入りが盛んなんだよな?そこで適当に新しい服でも」

「――ふっふっふ、そんな必要はないわよ!」



 突然聞こえてきた声にリュージが首を回せば、隣の部屋にいるはずのラフィが腰に手を当ててふんぞり返っていた。

 よく見ればイナセが憮然とした顔で小脇に抱えられている。



「開けるときはノックしろよ、こっちからは鍵かけれねえんだから」

「別にいいじゃないの、見られて困るものなんて何があるって言うのよ。ヴィートが棚の奥に隠してる兎のぬいぐるみくらいでしょ?」

「ちょっと!?なんで知ってるんですか!」

「気にしない気にしない、ていうか別にぬいぐるみは隠さなくてもいいのに」

「ち、違いますから!あれは自分で持ってきたものじゃなくて、母さんが勝手に荷物に詰め込んでただけで、捨てると母さんが悲しむだろうから――」

「……マザコン」

「止めてよイナセちゃん!」



 言われのない汚名に悲鳴をあげるヴィートと、冷ややかな目でそれを見つめるイナセ。早くも収拾がつかなくなっているが、騒ぎを起こした当の本人は金色の瞳を爛々と輝かせていた。

 流石は大好物は酒と喧嘩――ただし他人のものに限る――と言い切る女だ、聖職者とは思えない。

 リュージは仕方なく、話を強引に戻した。



「二人ともその辺にしとけ……で、なんの必要がねえって?」

「決まってるでしょ?あなたがすーつ以外を着る必要よ!」

「……このままこのスーツを着潰せってことか?それが嫌だから仕方なく――」

「違うわよ、話は最後まで聞きなさいったら。これからの旅が穏やかなものにならないってことはみんな分かってるはずよね?」



 ラフィの言葉に一同は頷く。

 当の本人であるリュージは勿論、この先出会う人々を守りたいヴィート、そしてこの数日間の間にリュージの境遇を詳しく聞いたイナセも、そのことは重々承知だ。

 ラフィは全員の顔を眺めて神妙な顔で窓の外を見やる。

 どこか芝居がかった声音で、ラフィは語る。



「きっと心が折れそうになることだってあるに違いないわ。何せ世界の命運は私たちの手にかかっているんですもの!」

「……かもな」

「ならばこそ!気持ちを高めておくことは大切なわけよ!いざという時に落ち込んでて力が出ないなんて笑い話にもならないわ!」

「姐さん、動きまわるなら降ろしてくれ……」



 大仰な身振りで話を進めるラフィ。

 抱えられているおかげで振り回されているイナセはうんざりした様子で抗議するが、当然のように却下された。

 ラフィは尚も舞台の上の役者のように舌を回し続ける。



「そして気分を保つために何が大切か、分かるわねリュージ!」

「知らん」

「そうこだわりよ!」

「聞けって」

「こだわりとは生き方の指針よ!それを失った人間は弱いわ!ヴィートが攻撃を捨てているように、イナセが可愛らしいように、その人を構成するに欠かせない要素となっているのよ」

「アタシ可愛いことにこだわったことねぇんだけど!?」

「そしてリュージがすーつを着るようにね」 

「ホント人の話聞かねぇなこの人!?」



 あまりの横暴に目を剥くイナセ。リュージは急激な疲労を感じていた。ラフィの厄介なところは言っていることがもっともらしく聞こえて

しまうことだ。

 確かにスーツ以外を着ることを選ぼうとしている今の自分は、少しば

かり不安定だ。それは認めざるを得ない。

 だが、それは仕方のないことだ。



「……お前の言いたいことは少しは分かる。だが現実としてこの世界

にはスーツは売ってないんだろ?新しいものを仕入れることもできねえ、今着てるのがこれ以上穴だらけになるのも嫌だ、とくれば別のもの着るしかねえじゃねえか」

「ふっふっふ、この才色兼備のラフィさんがそんなことも考えずに適当に喋ってるとでも思ってるのかしら?」

「思ってるな」

「……そんなことを言ってられるのも今のうちよ。今に私に感謝することになるわ」

「何言ってんだお前――」



 呆れを多分に含んだ視線をラフィに向けるリュージ、しかし当のシスターは自信満々に胸を張るばかりだ。

 また何か碌でもないことではあるまいな。過去の経験から勘ぐっていたリュージの耳に飛び込んできたのはヴィートの声だった。



「着きましたー!!もうすぐ中に入りますよ!」



 同時に聞こえてくるのは久しぶりに聞く城門が開く音。

 リュージは訝しげに眉を潜めた。件の港がある都市に到着するのはまだ一週間近く後のはずだ。

 そんなリュージをニヤニヤしながら見ていたラフィは、指で窓を指した。リュージは誘われるがままに窓の外へと身を乗り出し――。



 ――見える限りに服屋が広がる通りの眺めを見た。



「……どこだここ」

「ふふん、聞いて驚きなさいここはね――」

「裁縫都市パッチワークですよリュージさん!」



 馬車の中で得意げなラフィが口を開くよりも先に、初めて来た都市に気分が高揚しているヴィートがその正体を告げた。

 未だ状況を把握してないリュージに、ヴィートが笑いかける。



「ないなら作れば良いんですよ!スーツ!」

「……ああ?」



 より一層困惑するリュージの様子に、それまで黙って見ていたイナセが納得したふうに言った。



「なるほどな、これがサプライズってやつなのか、確かに楽しいな」

「……ネタばらし盗られた」



 楽しそうなイナセとは対照的に、サプライズの一番の醍醐味を奪われたラフィは不機嫌そうだった。

一場面をを長くするのって難しい、寅猛はそう思った。

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