表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ステゴロソウル~たとえば俺が勇者なら~  作者: 寅猛
商業都市モノポリー
164/165

モノポリーの6

 遅くなってすみません! 

 第二次多忙期が予想よりも数倍早く到来してしまいました……。

 申し訳ありませんが、しばらくの間締め切りを決めずにやろうと思います。

 月に3、4本のペースは維持したいと思っていますので、よろしくお願いします。

 市民から通報を受けたのであろう騎士が広場に到着したのは、リュージが男を気絶させて縛り上げてから、数分後のことだった。

 騎士達の先頭に立っているのは、栗毛色の髪の毛を肩口で揃えた少女だった。

 凛とした雰囲気と言えばいいかもしれないが、その少しばかり鋭い目つきに、リュージとしては共感を覚える。

 きっと、幼い頃は色々言われたに違いない。

 一人で勝手に同情しているリュージの方を見て、少女ははっきりと言った。



「出遅れておいて言えたことではないですが、こういう時はまずは逃げてください」

「いや、狙われてたのは俺たちだった、下手に逃げ回ると都市に被害がーー」

「それでもです! あなたたちが強いのはこの状況を見てわかります、だからと言って簡単に戦闘を選ばないでください……どんな強い人だって、死んでしまう時は一瞬なんですよ?」

「私たちは二人とも生きてて、その男は縛られて転がってる。もしなんて無意味じゃない? 出ている結果が全てよ」

「そういうわけにはいきません! その魔法の杖、ですか? そんな聞いた事もないものを相手にして、無傷だったのは奇跡みたいなものなんですよ!? しっかりわかってもらわないと!」

「真面目な子ねぇ……どこかの誰かにそっくり」

「誰のことを言っているのか存じませんが、騎士としては当たり前の対応です!」



 目の前に立っている赤い騎士服を着た少女が、真剣な顔でラフィを諌める。

 さすがのラフィも、純粋な善意からくるお説教には返せる言葉も少ないらしい。

 しかしそれはリュージも同じことでーー。



「あなたもですよ! 強さに自信があるのかもしれませんがだからってむやみに戦おうとしてはいけません!」

「いや、むやみに戦おうとはしてないんだが……」

「言い訳無用です!」

「……悪かった」

「わかっていただければ結構です!」



 素直に謝罪すると、少女は安心したように微笑んだ。

 同時に、少女の背後にいた中年の男が少女に呼びかける。



「隊長、全員捕縛終わりました」

「ありがとう、それじゃあ連行して」



 少女の号令で、集まっていた騎士達が暴漢たちを一列にして連れて行く。

 年功序列の社会で生きていたリュージにはあまりなじみのない光景だ。

 特に、西に比べて治安のよくない東大陸では、このように実力重視で役職を決めていることも少なくないという。

 つまり、あの十数人いる騎士たちの中で、この少女が一番の実力者というわけだ。

 自然と、リュージの口からつぶやきが漏れた。



「すごいな、若いのに……」

「ーー今何か言いましたか?」



 少女が目つきを鋭くして、リュージを睨んだ。

 一般の人ならばひるみそうな視線だが、あいにくと自分の顔よりは怖くない。



「聞こえてたのか、悪いな」

「……別にいいですけど、私が若いことと職務については全く関係ないことですから、どうかお気になさらず」

「謙遜することないだろ、その歳で実力を認められるってのはそうあることじゃない」

「謙遜……?」

「ん……?」



 首をかしげる少女に、リュージも首を傾げ返す。

 なんだか話が噛み合ってない気がする。

 すると、そのやりとりを見ていたラフィが、わざとらしいため息をついた。



「えっと……隊長さん?」

「シャーリーです」

「そう、じゃあシャーリー、何か勘違いしてるみたいだけど、この顔が怖い人はあなたの年齢を聞いて驚いたよ、それ以外の意図はないわ」

「……そうなんですか?」

「ああ、それ以外に何かあるのか」



 その言葉に、シャーリーの表情が少し緩んだ。

 会話の流れについていけず首をかしげるリュージに、ラフィがそっと耳打ちする。



「若いと色々言われて大変なんじゃないの?」

「ーーああ」



 なんとなく察した。

 いくら実力重視とは言っても、内部の人間全てがそれに賛成できるわけではない。

 そういう連中からは、目の上のたんこぶ的な扱いを受けているのかもしれない。

 加えて言えば、彼女に捕まった犯罪者やら、今の自分たちのように注意を受けている人間も、似たようなことをよく言うのだろう。



「ま、そんなところです」

「あらごめんなさい、聞こえちゃったかしら」

「構いません、こちらこそ、邪推してしまって申し訳ありませんでした」

「気にしないでくれ、俺も紛らわしいこと言って悪かった」

「……どうやら少し気が立っていたようです、最近どうも忙しいもので」

「忙しい?」

「ええ、お二人もご覧になったでしょう? 魔石とかいう意味のわからないもの」



 ご覧になったも何も、結構な頻度で見ている。

 月一ペースは確実だろうーー。

 さすがにわざわざ言う必要はないので、リュージは無言で頷いた。



「最近、世界中の犯罪組織で、あれが急速に出回っていまして、威力は強大、サイズも小さい、コストはーー知りませんけどあれだけ用意できるってことはそこそこ安いんでしょうね、とにかくどいつもこいつも調子に乗って大暴れってわけですよ、本当に、おもちゃ買ってもらったばっかりの子供じゃないんだから少しは大人しくしとけって話でーー」

「怒りが滲み出てるわよ」

「ーー失礼しました」

「……相当疲れてるんだな」

「いいです、仕事ですからーーですけど、正直困りましたね」



 シャーリーは、言葉通り眉根を寄せて小さく嘆息した。



「最近やっと、魔石を相手にした時用の訓練が形になってきたのに、今更新兵器とか勘弁してほしいです……」

「あー……」



 ラフィが気の毒そうに苦笑する。

 その上新たに出てきた『魔法の杖』は、完全に魔石の上位互換だ。

 何せ呪文を唱えるだけで、騎士が使うレベルの魔法を使えるのだ。

 あんなものの普及するなど、騎士の立場からすれば考えたくもない悪夢だろう。



「出どころは掴めてないのか?」

「魔石のですか? そんなのわかったら全力で潰しに行きますよ」

「それもそうか」

「……少し喋りすぎました。まあお二人は旅人ということなので、危険は知っておいて損はないと思います、とにかく、最近は物騒ですから危ないと思ったらすぐに逃げることを心がけてくださいね」

「そうね、覚えておくわ……何も起こらなければ」

「もう少しお話ししましょうか?」

「じょ、冗談よ冗談!」

「隊長!」



 じとっとした目でラフィを睨むシャーリーの背後から、別の騎士が駆けてきた。



「大変です! 都市の西の方でまた騒ぎが!」

「……またですか」

「至急救援をとのことです!」

「……はぁ、そろそろ一回くらい家に帰りたい」

「その、頑張れよ」

「ありがとうございます、それでは」



 言い終えると同時に、風を操作して加速したシャーリーが二人の視界から消えた。

 年相応に小柄な体が、豆粒のようになっていくのをみて、ラフィが関心の声を上げる。



「本当にすごいわねぇ、あの年齢であそこまで操作魔法使いこなすなんて」

「そのせいで家に帰れないってのも、皮肉なもんだな」

「皮肉、皮肉ねぇ」

「能力があるからって、自分のやりたいこともできないなんてあんまりだと思うぞ、俺は」

「…………できる人にできることが回ってくる、当たり前のことよ」

「ラフィ?」



 その言葉がどこか棘を含んでいるように聞こえて、リュージはその横顔を見る。

 つまらなさそうに細められた目は、どこを見るでもなく宙空に向けられている。

 金色の満月のような瞳が、今は半月になっていた。

 ーーが、目はすぐに開かれ、満ちた月がこちらに向けられる。



「で、次はどこに行くの? まだ夕方までは時間あるでしょう?」

「……そうだな、疲れたってわけじゃないが、少し座れる場所がいい」

「なるほど、じゃあバーでも探してーー」

「昼だぞ?」

「嫌そうな顔しないの、軽い冗談よ、飲めるならどこでもいいわ」

「……昼間から酒飲むなって言ってるつもりなんだが」

「聞こえない」



 両耳を塞いで、ラフィが歩き出す。

 リュージは、嘆息してその後を追った。

 そのいつも通りの後ろ姿に安堵と、なぜか少しの不安を覚えてーー。



※   ※   ※   ※


 

 ーー数分前、都市の西側ーー



 カウンター越しに宿屋の主人が、ヴィートに声をかけた。



「それじゃあ二人部屋二つに、滞在は三日ってことでよろしいか?」

「はい、それでお願いします」

「あいよ、ちなみに馬のことなんだが……」

「え? もしかして、無理でした?」

「まさか! うちはモノポリーでも老舗も老舗、どんな客が来たって即座に要望に応える準備はできてるさ……ただちょっと、金が余分にかかるんだが、構わないかね」

「はあ、まあちょっとなら」



 ヴィートの言葉に、年老いた主人の目がキラリと輝いた。

 無論ヴィートも即座に気づく。

 何かやってしまったとーー。



「あ、あのーー」

「相場の一割増しだ、それ以上は払わねぇぜ?」



 先に口を開いたのはイナセだった。

 驚いてその横顔を見るヴィートを無視して、イナセはカウンターに肘を乗せて主人を見た。

 主人は、その様子に「ふむ」と頷く。



「嬢ちゃん、こっちは一時的にとはいえ、馬小屋の仕切りを二枚も外さないといけない。外すのも戻すのも手間がかかるんだ、最低でも六割増しだよ」

「ふっかけすぎだろ、二割だ」

「五割」

「三」

「四」

「この程度のやりとりで下がるなら、やっぱり二が妥当じゃねぇの?」

「おやおや……歳の割に慣れてるね」

「まぁな、で? どうすんだ?」

「二割五分だ、それ以上は譲れないね」

「乗った!」



 イナセがタンとカウンターを叩いた。

 宿屋の主人は、愉快そうに笑いながら部屋の鍵をイナセに渡す。

 それから、一連のやりとりをぽかんと眺めていたヴィートに向き直った。



「おい坊主、この都市で交渉するときは強気でいかなきゃ、尻の毛まで毟られるぜ、今回は嬢ちゃんに感謝しな」

「は、はぁ……」

「あー無駄無駄、向いてねぇって見たら分かんだろ? そもそもブロックス育ちの騎士なんて、交渉ごとに一番向いてねぇ人種だって」

「違いない」



 顔を見合わせて笑うイナセと主人に、ヴィートは口を尖らせた。

 何かわからないが、さらっと生まれ故郷をバカにされればこうもなる。



「む、むしろなんでイナセちゃんはそんなに慣れてるのさ」

「なんでって……アタシはみんなと会うまではずっと一人旅だったからな、そりゃ慣れもするさ」

「あ、そっか。東大陸も通ったんだっけ」

「ああ、モノポリーも二年くらい前にな」



 対してヴィートは、十五年間ブロックスから出たこともなかった。

 バカにされるのはもちろん嫌だが、確かに経験値の差は大きいようだ。

 得意げに胸を張るイナセに、ヴィートは苦笑する。

 ーーが、そこに口を挟んだのは宿屋の主人だった。



「嬢ちゃん、二年前に来たっつったかい?」

「え? ああ、ちょうど二年前くらいだな」

「だったら気をつけたほうがいいかもなぁ」

「気をつけるって、確かにそんなに長くはいなかったけど、ぼったくられるようなこたぁねぇと思うぜ?」

「いいや、そうじゃない。今のモノポリーは二年前とは大きく違うからね」

「大きく? そうなのイナセちゃん?」

「いや? 見た感じ変わったところもなさそうだけどな」



 少なくとも、イナセの記憶の中のモノポリーと今のモノポリーに、大きな差異はない。

 眉をひそめるイナセに、宿屋の主人はあたりを気にするような仕草を見せつつ、そっと言った。



「タチの悪いのが住み着いたんだよ」

「タチの悪いの? なんだよ、悪党でも住み着いたのか?」

「いいや、強盗や泥棒の方がまだましさ、何せ騎士が捕まえてくれるからね、今この都市にいるのはーー」



「ーーご歓談中、誠に申し訳ないのですが」



 声は宿屋の入り口の方から聞こえた。

 声音は優しく、聞いているだけで人に安心感を与えるようなトーンだ。

 ーーにも拘らず、イナセは自然と眉間にしわを寄せた。

 そしてそれは宿屋の主人も同じだった。



「……何しに来やがった、ペドラー」

「そう邪険に扱わないでください、今日はこのお店に用があるわけではないのです」



 そいつは一言で言えばかぼちゃが服を着ているような外見をしていた。

 身もふたもない言い方をするなら太っている。

 しかし着ている服は瀟洒で、清潔感がある。

 暑さの残る外を歩いて来たというのに汗もほとんどかいていない。

 そいつはかけている丸メガネの位置を直しながら、足音を立てないようにカウンターまで歩いてきた。

 宿屋の主人は嫌そうな顔をしながら、イナセに向かって言った。



「嬢ちゃん、これがこの二年でこの都市に住み着いた虫だ」

「これはご冗談を、我がバルド商会は、粉骨砕身、誠心誠意がモットーの商会でございます、それこそ虫の一匹も許さないほど潔白ですとも」

「どの口で言ってやがる……で、何の用だ? 今客の相手をしててね、できればすぐに出てって欲しいんだが?」

「それは申し訳ありません、お客様との会話は大切です、信用を手に入れるために第一歩ですからね。信用は大切です、何せ金では買えませんから」

「……もう一回だけ聞くぞ、何しにきた」

「ああこれは失礼、どうもわたくしはお喋りでいけない」



 ペドラーと呼ばれた男は、そっと宿屋の壁を指差した。

 その方向に、一番最初にピンときたのはヴィートだ。

 ペドラーの指の先、壁の向こうはーー馬小屋がある。

 嫌な予感を覚えたヴィートの前で、ペドラーが淡々と言った。



「外を歩いていたら見えましてね、随分大きな馬が、それも二頭ーーあれらをどうか譲っていただきたいのです、持ち主を呼んでいただけますか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ