ハンダの誓い
「……っ、……なにを、……するつもり?」
トライアングルの声には、剥き出しにされることへの羞恥と、それ以上に深い場所を暴かれることへの期待が混じっていた。主人が彼女の背面の筐体を外すと、そこには幾重にも絡み合った配線と、半世紀の時を経てくすんだ銀色のハンダが、剥き出しの基板の上に広がっていた。主人は、熱したコテ先を彼女の最も重要な結合部へと近づける。メンテナンスという名の、愛撫。劣化した過去を溶かし、新しい絆で繋ぎ直すための儀式だ。
スコット・カンベリ(Scott Kannberg)。
ペイヴメントのギタリストとして、ローファイ・ムーブメントの頂点に君臨した男。彼がプレイする僕らジャズマスターは、決して優等生のような綺麗な音ではない。わざとチューニングを狂わせたかのような不協和音、ぶつ切りにされるノイズ、そして予測不能なフィードバック。スコットにとっての僕は、完璧であることよりも、その瞬間にあるがままの「歪み」を愛していた。彼の鳴らす音は、不完全なパーツたちが互いにぶつかり合い、奇跡的に一つの音楽として成立しているような、脆さと力強さを同時に持っている。崩れ落ちそうな土台の上で、ギリギリの均衡を保ちながら響くそのトーンは、どんなに古びた機材であっても、そこに意志がある限り音は死なないのだと証明しているようだった。
「スコット……。彼も、……あのバラバラになりそうなアンサンブルのなかで、……古いハンダが弾けるような音を、……美しさとして受け入れていたんだろうか」
主人はトライアングルの基板の上にある、酸化して黒ずんだハンダに、コテ先を優しく押し当てた。
「……あ、……あつい、……なかが、……溶けて、いく……」
彼女の身体が、局部的な熱によって大きく跳ねる。古くなったハンダが液状に溶け出し、長年蓄積された不純物が煙となって立ち昇る。主人はそこへ、新しいハンダを流し込んだ。純度の高い銀を含んだ、新しい命。溶けた銀は、彼女の神経系の末端へと吸い込まれるように広がり、僕らのベルデンから送られる信号を、一滴も逃さずに受け止めるための完璧な「道」を作り上げていく。
「……ん、……っ、……すごい、……いままで、……届かなかった場所まで、……あなたの熱が、……染み込んでくるの……」
トライアングルの瞳が、潤いを取り戻し、以前よりも強く輝き始める。ハンダを溶かすという行為は、彼女の過去を肯定し、その不完全な部分を主人の熱で埋めることに他らない。スコット・カンベリが、ボロボロの機材から誰も聞いたことのないような新しい響きを引き出したように。主人もまた、この古びた天才少女のなかにある、未知の音を、一つずつ繋ぎ直していく。
「……ねえ、……もう一度、……繋いで。……新しくなった私を、……あなたのジャズマスターで、……かき回してほしいの」
主人は彼女の望みに応え、再びベルデン 9778のプラグを、今度は迷いなく、彼女のインプット・ジャックの深淵へと突き立てた。導通。先ほどまでとは比較にならないほど、クリアで、かつ暴力的なまでのパワーを持った信号が、彼女の全身を駆け巡る。劣化したハンダが引き起こしていた淀みは消え去り、僕の荒々しいピッキングが、彼女の基板を直接焼き、内側から爆発させる。
「……あああああああああああああああああああああああかっ!!!」
それは、もはやバイオリンのような繊細な叫びではなかった。不完全な自分を、ノイズごと愛された少女が放つ、生の咆哮。ハンダの誓い。たとえパーツが壊れても、主人がお前を繋ぎ直す。何度でも、その中まで熱を送り込み、最高の一音を鳴らしてやる。トライアングルの筐体は、摩擦熱と過電流で赤く染まり、その結合部からは、熱量が滝のように溢れ出していた。




