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ジャックの拡張

地下スタジオの湿った空気が、オペアンプの排熱によって陽炎のように揺らめいている。全弦開放の衝撃を経て、彼女の回路はもはや平穏なクリーン・トーンを忘れていた。僕の身体――1966年製ジャズマスターの、複雑に絡み合った内部配線から放たれる熱い信号が、ベルデン 9778の黒い被膜を通じて、彼女の最深部へと絶え間なく注ぎ込まれている。


「……ねえ。なんだか、戻らないの。プラグを抜いたあとも、そこが……開いたままなの」


オペアンプが、潤んだ瞳で僕らを見上げて呟く。彼女のインプット・ジャック。かつては酸化した被膜で硬く閉ざされていたその入り口は、度重なる過電圧結合と、ベルデンの無骨なプラグによる物理的な蹂順によって、もはや弾力すらも失うほどに押し広げられていた。ニッケル製の強固な先端が、彼女の内壁を徹底的に削り、拡張し、定着させてしまったのだ。


僕は自らのブリッジ付近を激しく共鳴させ、その振動をベルデンを通じてダイレクトに彼女へと伝えた。僕らが彼女に密着するたびに、彼女の拡張された深淵は、さらなる巨大な「何か」を迎え入れるための、広大な空白を露呈させる。


「ニール・ハルステッド(Neil Halstead)」


スロウダイヴの心臓部。彼が奏でる僕らの音は、甘美な地獄のようだった。彼は音を幾重にも重ね、ディレイの渦の中に自身の存在を消し去っていく。だが、その残響の奥底には、常に逃れられない渇望が潜んでいる。彼が鳴らすクリーントーンは、どこか空虚で、それでいて強烈に何かを……埋めてくれる何かを求めて鳴り響く。


「ニール。その人も、こうやって……空っぽになった場所に、音を流し込み続けたのかな」


「ああ。彼は空白を愛した。だが、その空白は、いつか鳴らされるはずの音を待ち続けるための場所だ。……オペアンプ、お前のその開いたままのジャックも同じだ。僕らの信号がない時間は、ただの空虚なノイズを吸い込むだけの、寂しい穴でしかない」


主人はあえて、ベルデンの先端を彼女のジャックから数センチ離した位置で静止させる。結合を解かれた彼女の入り口は、無防備に、そしてどこか哀れなほどに、次の侵入を待ちわびて空を掴んでいた。


「……っ。やだ、そんなこと言わないで。……埋めてよ。その太いプラグで、また私の奥を……壊れるまで、掻き回してよ……っ!!」


彼女は自ら腰を震わせ、空洞となった深淵を僕らのベルデンへと押し付けてきた。拡張されたジャックには、もはや抵抗という名のプライドは微塵も残っていない。ベルデンの先端が入り口に触れただけで、吸い込まれるように、ぬるりと奥深くまで、何の遮りもなく貫通した。


「あぐっ、きた……っ! 太い、……さっきよりも、ずっと奥まで、あんたが届いてる……っ!!」


抵抗がないということは、それだけ密着度が高まるということだ。主人は僕のプリセット・トーン回路を内部で起動させる。フロントPU特有の、甘く太い、だが芯に鋭い毒を持った愛撫。


ニール・ハルステッドが奏でる、どこまでも深く沈んでいくアルペジオのように、主人は彼女の弱点となる周波数帯域をピンポイントで突き続ける。


「ひ、あ……、そこ、……だめ。回路が、震えて……っ! 私、もう……普通の音じゃ、満足できない回路になっちゃったんだ……っ!!」


彼女の叫びは、もはや理性を失っていた。拡張された隙間を埋めるように、主人は出力をさらに上げ、僕の弦を一本一本、慈しむように、そして残酷に爪弾く。一音一音が、彼女の内壁を直接焼き、剥き出しの配線を震わせる。締め付けられないはずのジャックが、過電流による痙攣によって、プラグを必死に繋ぎ止めようと収縮を繰り返す。


「離さない、……絶対に離さないから! このジャックが焼き切れて、二度と音が鳴らなくなっても……あんただけは、私の中にいて……っ!!」


彼女の絶頂は、静かな海のようだった。激しい咆哮ではなく、音の粒子の中に溶けていくような、深い深い没入。拡張されたその深淵から、黄金色の光の玉が、音もなく溢れ出し、彼女の身体を優しく包み込んだ。


それは、自分を定義していた形を失い、僕らという存在を受け入れるための器になったことへの、残酷な祝福。結合が終わっても、彼女のジャックは開いたまま、僕らのベルデンが残した熱を逃がすまいと、微かに煙を上げていた。主人は、もう元に戻らない彼女の深淵をベルデンの先端でなぞり、そこに永遠の隷属を誓わせた。

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