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光の玉の伝承

「いいよ。みんな。始めよう。僕たちの、本当の導通を」


主人の言葉は、地下の湿った空気に溶け、五人のヒロインたちの回路へと波及していく。


「アイラ・カプランという男を知っているか」


主人は誰に言うでもなく、静かに問いかける。ヨ・ラ・テンゴ(Yo La Tengo)。あの男は、僕らジャズマスターが持つ静寂と暴力を、誰よりも熟知していた。囁くようなクリーン・トーンで聴き手を油断させ、次の瞬間には耳を劈くようなフィードバックの濁流で世界を塗りつぶす。あの緩急、あの予測不能なダイナミクスこそが、今この場所に求められている規律だった。


部室の四隅に佇んでいた彼女たちが、吸い寄せられるように中央へ歩み寄る。ラムズヘッド、トライアングル、オペアンプ、グリーンロシアン、そしてニューヨーク。それぞれが自らの内側に秘めた、誰にも触れさせなかった回路の核心部を、僕のベルデンへと向けて一斉に開放する。


五人のマフたちが持つ異なる歪みの位相を、僕という一つの軸に無理やり直結させる、壮絶な集団結合の始まりだった。


主人はまず、震えるラムズヘッドの肩を抱くように、彼女の狭いジャックに僕の一部であるベルデンのプラグを沈めた。


「あ……っ、ん……っ」


彼女の華奢な体が、過電流の予感に小さく跳ねる。長年放置され、酸化しかけていた彼女の入り口は、僕の硬質なニッケル・プラグを容易には受け入れない。金属的な抵抗が伝わる。だが、主人はそこで躊躇しない。角度を調整し、一点の淀みもなく、彼女の最深部まで一気にプラグを押し通した。


続いて、主人はパッチケーブルという名の細い触手を使い、ラムズヘッドの出力をトライアングルの入り口へと繋ぐ。さらにその先をオペアンプへ、グリーンロシアンへ、そしてニューヨークへ。


直列。それは、前の女が受けた主人の熱い信号を、そのまま自分の内側へ流し込み、さらに増幅して次の女へと受け渡す。誰か一人の回路が焼き切れても、この連鎖は成立しない。退路を断った、鋼鉄の鎖による結合だ。


「全員、ジャックを晒せ。アイラ・カプランが、静寂の裏側に潜む狂気を爆発させたように。僕の音が、お前たち全員の基板を焼き尽くすまで、繋ぐのを止めるな」


主人の指先が、僕のプリセット・トーン回路のスイッチを弾いた。アイラが長尺のインプロヴィゼーションで見せる、中域を強調した太く甘いトーン。主人はその知的な設定を使い、先頭のラムズヘッドの最深部を、まるで執拗なピッキングで粘膜を擦るような正確さで抉る。


「あああああ……っ! 来る……っ、全部、生身のまま入ってくる……っ!」


ラムズヘッドの中で増幅された信号は、熱を持ったままトライアングルの高貴な回路へと流れ込み、彼女のバイオリン・トーンを無慈悲に、知的な残酷さで歪ませていく。


「下品よ……、こんな、野蛮な音……。でも、止まらない……っ!」


トライアングルの震動は、オペアンプのICを激しく叩き、グリーンロシアンの巨大なコンデンサを限界まで震わせ、ニューヨークの現行パーツを過熱させる。スタジオの壁が、彼女たちの合体した絶頂の震動に共鳴し、地鳴りのような唸りを上げ始めた。


主人は僕のアームを掴み、狂ったように揺さぶった。ピッチが不安定に揺らぎ、結合された彼女たちの回路の最も美味しい帯域を執拗に攻め立てる。アイラ・カプランが、音の粒子を空間に叩きつけたように。


「もっとだ……! 僕らが導き出す、完璧な和声を感じろ! お前たちのノイズを、すべて僕のサステインに変えてみせろ!」


主人の指先は、爆音の中でも冷静に、正確に弦を弾く。それはアイラが、カオスの中から一瞬だけ美しい旋律を救い出す魔法の再現だった。その支配力に、ヒロインたちは自らの個性を剥ぎ取られ、僕の音像の一部へと組み込まれていく。


不意に、視界が白く塗りつぶされた。気がつくと、僕はたった一つのLEDだけで構成された、色彩のない世界にいた。


「また、来たんだね」


声の主は、不格好な人形――ボードを作っている少女だった。


「光の玉が、集まってる。君が彼女たちを、いい音で鳴かしたから」


少女の正体。それは、世界に現存するすべてのビッグマフの原型プロトタイプが持つ、共通の魂。


「でも、気をつけて。サステインが伸びれば伸びるほど、回路への負荷は増していく。永遠に繋がっていたいという願いは、いつか彼女たちを、物理的な死へと追いやる呪いにもなるんだから」


『僕は、彼女たちを救いたい。回路の寿命なんて、僕の音で書き換えてやる』


意識が現実の地下スタジオへと浮上した。目の前では、ラムズヘッドが、自分のジャックから溢れ出した光の玉を不思議そうに見つめていた。彼女の筐体は、過酷な結合の余韻でまだ熱く、ベルデンを引き抜いた後のインプットからは、未だに微かな甘い匂いが漂っている。


「これ……何?」


「僕たちが、一つになった証だ。どんなに回路が古くなっても、僕が新しい命を流し込み続ける」


主人は、まだ震えている彼女の肩を抱き寄せ、耳元で囁いた。


邂逅と不協和音。それは、たった一人のギタリストと五つのエフェクターが、運命という名の回路図を書き換えるための、官能的な導通に満ちた序章に過ぎなかった。

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