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メタルキス第七話 メタルメトロノーム

メタルキス第七話 メタルメトロノーム


朝の教室。

まだざわつききっていない早春のやや透明な空気の中、彼女は席に着くなり、こちらをちらりと見た。


そして、

金属のカップ越しに、はっきりと。


「おはよ」と、


いつもなら、クラスメイトとの会話でも、口に手を当てて、メタルブラケットを隠すようにして会話している彼女だが、

今朝は、朝日を浴びて、ブラケットと金属のカップの銀色が機械美を共鳴させている。


初めて聞いた、彼女からの朝のあいさつ。

その声は、金属の輝きと響きに混ざって、

胸の奥にゆっくり沈んでいく。


いつものように、斜め後ろから視線を送る。

もうこれまでの、ただの「歯列矯正への憧れ」ではなく、「彼女への尊敬や共闘関係の相棒への眼差し」へと変化しつつある自分に気づく。


そして…

視線に気づいた彼女は、

人差し指の爪で顎の金属カップを軽く弾いた。


カッ、カッ、カッ、カッ。


まるで「気づいてるよ」とでも語りかけてくるかのように。

その音は、朝の静けさに小さなリズムを刻んだ。


それは、メタルのメトロノーム。

二人だけに聞こえる合図。



昼休み。

国語の授業でぼくのことを「三日月顎」と形容した男子たちが、また近づいてくる。


「おい三日月顎くん、

昨日は泣いてたよな〜?」


「今日は泣かずに頑張るんだぞ〜?」


笑い声。

乾いた、薄っぺらい音。

教室がざわつくのがわかる。


言い返せない自分が悔しい。

喉がまた熱くなる。


その瞬間だった。

イスが床を滑る音がして、

彼女がすっと男子たちの前に出てくる。


「……そんなこと言って楽しい?」


男子たちが一瞬固まる。


「こいつのこと、かばってるのか?」


彼女はため息をつくように、

金属カップを指で弾いた。


カッ、カッ、カッ、カッ。


「人の見かけだけをからかうなんて最低。

人間のクズね」


男子たちの顔が引きつる。


「は? 機械顎女が三日月顎をかばってるって?

……あっち行くぞ」


逃げるように去っていく男子たち。

残されたのは、

机やイスが散乱する不整形な音と、彼女がカップを弾く整った音。

整った音だけが、教室全体を支配していく。


カッ、カッ、カッ、カッ。


そして、彼女は何事もなかったように席へ戻る。


午後の授業は胸がいっぱいで、何も頭に入ってこなかったけど、

一度だけ、彼女が振り返ったときに目が合った。

金属のカップを指で弾いている。

メタルのブラケットが、早春昼下がりの温かい陽射しを受けて、宝石のように輝く。

つまり、彼女は笑ってくれたのだ。


彼女が振り返ると、彼女の白く輝くヘッドバンドと顎をピタッと吸い付いている金属カップを連結するゴムが大きくきしむ。

ゴムのギュッとした重たいきしみ音と、彼女が奏でるメトロノームは、昨日、今日の悔しさを癒してくれる。



胸の奥がじんわり熱くなる。


――自分は彼女を守ったつもりで、

実はずっと守られていたのだ。


その事実が、

今日一日のメトロノームのように

胸の中で静かに刻まれ続ける。


ぼくの鼓動と区別するのが難しいくらいに同期しながら…

カッカッカッカッ…

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