メタルキス第ニ十一話 スプリングメタル
メタルキス第ニ十一話 スプリングメタル
帰り道。斜陽が二人に長い影を作る。
もう彼女との一緒は日課。
でも、今の彼女は、斜め下に目線を置き、何もしゃべらない。いつもより、足取りがややゆっくりに感じられる。
(ぼくは間違ったことをしたんだろうか。かえって彼女を傷つけてしまったのだろうか。)
頭の中を色々な思いが駆け回る。
教室での騒動は、クラス担任の耳に入り、ぼくや彼女、かの男子たちたちが、次々と職員室に呼ばれ、事情を聞かれた。
それで、なおのこと、ぼくが騒動の首謀者と、ぼくは思っている。
緩やかな風が、ちょっとざわついた。
もう少しこの先、そこの丁字路で彼女とお別れになる。
彼女がこちらを向き
「ちょっとだけ遠回りしていい?」
ぼくはうなづいた。
二人の足取りが小さくなる。
やがて、古木のサクラのある公園にたどり着いた。
彼女は、サクラの下で立ち止まると、ひと呼吸置き、意を決したように、静かに口を開いた。
「あのね、今日、カッコよかった」
ぼくは、責められるとばかり思っていたので、拍子抜けした。彼女にはこの驚いた顔が意外な反応と映ったことだろう。
「わたし、いつもひとりだったから、ああいうの慣れっこだったけど」
ぼくは遮った。遮らずにはいられなかった。
「慣れたから、良いってものじゃない。ああいうのが許せないんだ。」
「そして、もうひとりじゃない、ひとりで背負っていくものじゃない。ぼくもいる。」
サクラは何事もなかったかのように、ただ
揺れている。
「わたし、こうして、守られたのはじめてで、どうしていいのかわからないんだ」
彼女は、右手を顎の金属カップを撫でる。
ずっと孤独だったんだと、胸が痛む。
とともに、ぼくには、同情ではなく、心の奥底から愛おしさが湧いてくる。
「もうひとりじゃない。ひとりで背負っていくものじゃない。ぼくと一緒じゃいや?」
その言葉を聞いた瞬間、
彼女の肩が、ほんのわずかに震えた。
夕陽の色が、彼女の横顔を淡く染める。
長いまつげの影が揺れ、
その奥で光るものを、彼女は必死に隠そうとしていた。
「……そんなふうに言われたの、はじめて」
質問には直接答えなかった。声はかすれていた。
強がりの膜が、薄くひび割れるような音がした気がした。
彼女は唇を噛みしめ、視線をサクラの根元へ落とした。
春の風が、花びらをひとひら運んでくる。
それが彼女の足元に落ちるのを、ぼくは黙って見ていた。
「ひとりじゃないって……言われたら……ずるいよ」
その言葉は、責めるようでいて、
どこか救いを求めるようでもあった。
「わたし、ずっと、ひとりで平気なふりしてたのに。
慣れてるって思い込んでたのに。
今日みたいなの、ほんとは……怖かった」
最後の一言だけ、彼女はほとんど囁くように言った。
その声は、春の風に溶けてしまいそうで、
ぼくは思わず一歩、彼女に歩み寄った。
ぼくが一歩近づいたことに、
彼女は気づいたらしい。
ほんの一瞬だけ、
彼女の視線がぼくの足元へ揺れた。
そのまつげの端に、
光るものがかすかに滲んでいる。
「……そんなふうに言われたら、
わたし……どうしたらいいの」
声は震えていた。
泣きそうなのに、泣くまいとしている声だった。
ぼくは、伸ばしかけた手を、
ぎりぎりのところで止めた。
触れたら壊れてしまいそうで、
でも、触れずにいるのも苦しかった。
春の風が、二人の間をそっと通り抜ける。
サクラは何事もなかったかのように、また揺れた。
サクラの花びらが一枚、
彼女の肩に落ちた。
彼女はそれに気づき、
ゆっくりと顔を上げた。
「……いやじゃないよ」
その言葉は、
夕陽よりも、サクラよりも、
ぼくの胸を熱くした。
ぼくは、彼女の頬に流れる涙をハンカチでぬぐった。
サクラは、ただ揺れている。何事もなかったかのように。




