表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
23/31

メタルキス第十九話 メタルとメタル

メタルキス第十九話 メタルとメタル


遊園地からの帰り道。

待ち合わせの公園まで戻ってきた。


外はすっかり暗く、

街灯の下で、古木のサクラが淡く光っていた。

朝には数輪だけ咲いていた花が、夕方までの間にいくつも開いていた。


「今日はありがとう。付き合ってくれて」


彼女はそう言って、少しだけ視線を落とした。

昼間の笑顔とは違う、静かな表情。


「いつも、普通に装置つけてるから、みんなから“真面目だね”とか“頑張ってるね”とか色々言われるけど……」


言葉がそこで一度止まる。

夜風が、彼女の黒髪を揺らした。


「ホントはね、誰かに、装置をつけてないわたしを見てもらって、

“これが、本当のわたしだよ”って、伝えてみたかったんだ。」


胸の奥が、きゅんと痛んだ。

サクラの花びらが、何事もなかったかのように、風に揺れている。


(今日、彼女は……ぼくにそれを見せてくれたんだ)


ひと呼吸置き、少し迷いながらもいながらも聞くことにした。

「なんで、ぼくなの?」


「いつも、見られてるから、だいたいわかるの。かわいそうって目か、珍しいものを見る目か。」


「ぼくは…」

(受け口を治したい。矯正したい。そんな目で彼女を見てたんだ。彼女みたいにきちんと治療に向き合いたい、と)


「同じ仲間だなって、感じたの」


ぼくは返す言葉を探したけれど、

喉の奥が熱くなって、声にならなかった。

やっぱり、彼女には見抜かれていた。

でも、どこか救われたような気がした。


彼女は続けた。


「装置つけてるときのわたしも、もちろん“わたし”なんだけどね。

でも……痛いし、苦しいし、恥ずかしいし……

それでも頑張ってる“わたし”ばっかり見られるのって、ちょっと違う気がしてて」


夜の公園は静かで、

彼女の声だけが、淡いサクラの下に落ちていく。


「だから今日、外してる正真正銘のわたしを見てもらえて……なんか、嬉しかった」


ぼくは、ようやく言葉を絞り出した。


「……ぼくも、見たかったんだと思う。

装置をつけてるときも、外してるときも……どっちも」


彼女が、驚いたように目を丸くした。


「どっちも……?」


「うん。

だって、どっちも中身は同じだし、

いつもの凛とした姿も、

今日のような、ありのままも、

どっちもぼくにとっては、憧れなんだ」


彼女は一瞬だけ目を丸くさせ、息を呑み、

それから、ゆっくりと笑った。


その笑顔は、昼間の金色でも、夕暮れの橙でもなく、

夜桜の下で静かに光る“薄桃色”だった。


ぼくはカバンの中のチンキャップに触れた。

冷たいメタルが、指先にひやりと伝わる。


(明日……つけていこう)


その決意はまだ弱い。

でも、彼女の“本当のわたし”を見たぼくは、

ぼく自身の“本当のわたし”から、

もう、逃げたくはない。


夜風が吹き、サクラがふわりと揺れた。

サクラの季節はこれからだ。

メタルとメタルも、ようやく同じ場所に立とうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ