メタルキス第十九話 メタルとメタル
メタルキス第十九話 メタルとメタル
遊園地からの帰り道。
待ち合わせの公園まで戻ってきた。
外はすっかり暗く、
街灯の下で、古木のサクラが淡く光っていた。
朝には数輪だけ咲いていた花が、夕方までの間にいくつも開いていた。
「今日はありがとう。付き合ってくれて」
彼女はそう言って、少しだけ視線を落とした。
昼間の笑顔とは違う、静かな表情。
「いつも、普通に装置つけてるから、みんなから“真面目だね”とか“頑張ってるね”とか色々言われるけど……」
言葉がそこで一度止まる。
夜風が、彼女の黒髪を揺らした。
「ホントはね、誰かに、装置をつけてないわたしを見てもらって、
“これが、本当のわたしだよ”って、伝えてみたかったんだ。」
胸の奥が、きゅんと痛んだ。
サクラの花びらが、何事もなかったかのように、風に揺れている。
(今日、彼女は……ぼくにそれを見せてくれたんだ)
ひと呼吸置き、少し迷いながらもいながらも聞くことにした。
「なんで、ぼくなの?」
「いつも、見られてるから、だいたいわかるの。かわいそうって目か、珍しいものを見る目か。」
「ぼくは…」
(受け口を治したい。矯正したい。そんな目で彼女を見てたんだ。彼女みたいにきちんと治療に向き合いたい、と)
「同じ仲間だなって、感じたの」
ぼくは返す言葉を探したけれど、
喉の奥が熱くなって、声にならなかった。
やっぱり、彼女には見抜かれていた。
でも、どこか救われたような気がした。
彼女は続けた。
「装置つけてるときのわたしも、もちろん“わたし”なんだけどね。
でも……痛いし、苦しいし、恥ずかしいし……
それでも頑張ってる“わたし”ばっかり見られるのって、ちょっと違う気がしてて」
夜の公園は静かで、
彼女の声だけが、淡いサクラの下に落ちていく。
「だから今日、外してる正真正銘のわたしを見てもらえて……なんか、嬉しかった」
ぼくは、ようやく言葉を絞り出した。
「……ぼくも、見たかったんだと思う。
装置をつけてるときも、外してるときも……どっちも」
彼女が、驚いたように目を丸くした。
「どっちも……?」
「うん。
だって、どっちも中身は同じだし、
いつもの凛とした姿も、
今日のような、ありのままも、
どっちもぼくにとっては、憧れなんだ」
彼女は一瞬だけ目を丸くさせ、息を呑み、
それから、ゆっくりと笑った。
その笑顔は、昼間の金色でも、夕暮れの橙でもなく、
夜桜の下で静かに光る“薄桃色”だった。
ぼくはカバンの中のチンキャップに触れた。
冷たいメタルが、指先にひやりと伝わる。
(明日……つけていこう)
その決意はまだ弱い。
でも、彼女の“本当のわたし”を見たぼくは、
ぼく自身の“本当のわたし”から、
もう、逃げたくはない。
夜風が吹き、サクラがふわりと揺れた。
サクラの季節はこれからだ。
メタルとメタルも、ようやく同じ場所に立とうとしていた。




