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第12話


 2連続で相手に勝ちを渡してしまった。そろそろ後が無い。ここらでなんとか1勝取らねば次戦進出は絶望的だろう。


 

 エルオンから一時離脱し、段ボールで作られた個室の中で考える。


 

 ロングソードを使った棒高跳びについて思案する。全く見た事の無い動きだったからかなり驚いた。




 本来戦士職は極力地面から足を離すべきではない、というのがセオリー。理由は単純で、メリットが殆ど無いからである。



 重、中量職の全ての職業に適応されるという訳では無いけど、この階級の職業は多くの場合落下速度が遅い。


 

 ここでの遅い、というのは軽量職と比べた相対的な物ではあるけども、この〝落下速度が遅い〟というのは結構なデメリット。


 因みに落下速度が遅くなる原因は職業事態の行動速度の低さに起因する。全ての動きが若干もっさりするように設定されている為、落下速度も遅くなっているようだ。



 戦士職が飛んだ際に出来る事は低位置の攻撃回避。



 後はさっきのオブジェ上からのジャンプのような特殊ケースに絞られるメリットだけども、攻撃準備の時間を無理矢理捻出するのに使われる程度である。



 低位置の回避だってジャンプをするよりも後退して回避したり、相手のリーチが長くて下がりきれない時は手に持っている盾を使った方が隙が少なくなる。



 対してデメリットを挙げると隙の発生、攻撃ダメージの減少(15%前後)、着地後の一瞬の硬直等。



 この他にも挙げられる物はあるけども、この3つのデメリットがとても大きい。



 特に隙の発生に関して、戦士職は空中で急に方向転換をする方法を持っていない為、着地タイミングを狙って技を当てる事が可能となる。


 戦士視点、1度飛んでしまえば着地まで慣性に身を任せる、おまけに自分の攻撃ダメージが減少した状態で着地タイミングを狙ってくる敵の相手をしなければならない。



 ……筈だったのだけれども。



 このセオリーは今さっき瓦解した。




 個室のベッドの上で志那は思う。



 今までセオリーとして存在していた「空中での方向転換の手段を持たない職は出来るだけ飛ぶな。」という通説は神楽のロングソード棒高跳びによって崩れ去った。



 エルオン全国大会は解説の付いた試合以外も注目度は低いものの、全ての試合が生配信されている。



 既にこの技は世間に知られた。直ぐにこの技について色々な動きが開拓される事だろう。



 流石に長めの武器でなければ上手く行かなそうではあるけども、これによってエルオンの常識が1つ変わる。



 というかハルバードでも出来そうだな、この動き。



 「喉が渇いた。」



 枕元に置いておいた水を飲む。



 荷物置きのカゴに置いておいたスマホを持って時間を見てみるが、さっきの試合が終わってからまだ2分くらいしか経っていない。体感もっと経ってる気がしたのにな。



 結局第2試合で秘策の技を使えなかった。使うタイミング事態は探していたものの〝ここ!〟というバッチリハマるタイミングが無かっただけに使うのを躊躇ってしまった。



 よしよし、決めた。次の試合で必ずどこかのタイミングで使おう。



 うむ。



 そう決めておかないとまた使うタイミングを逃して負けてしまうから、そう自分の心の中で宣言する。



 集中集中……。



 * * *



 第3試合が始まる。



 試合開始と同時に駆け出す志那。一気に距離が詰まり、直ぐにロングソードとハルバード、互いの武器の間合いの内の距離となる。



 間合い内となれば、ここでの撃ち合いは純粋な精度争いとなる。全国大会に出てくる程の技量を持つ選手は致命的なミスは中々犯さない。



 最適解の軌道で武器を振り続け、相手の細かい甘さを拾い続ける。中距離でのつばぜり合いの緊張感は非常に苦しい。



 重騎士職は本来、その高い攻撃力で相手を寄せ付けぬよう牽制しながら高火力技で一気に叩き潰す、という戦略をコンセプトに作られている職。距離を詰めるのは職業のポリシーに反している。



 しかし牽制しながら高火力技を、というのは《戦士ロングソード》構成も同じ事。



 志那はここで一つ目の賭けに出た。



 それは戦士ロングソードをメインで戦っているのならば近接戦の練度は低いのではないか、という賭け。


 

 剣を振り回す職で近接戦の練度が低いとはこれいかに?と思うかもしれないが、エルオンにおいての近接戦というのは文字通り互いの体が30㎝も離れていない距離での争いである。



 本来であれば格闘家のような素手で突っ込む職業が最も得意とする距離感。



 ハルバードとロングソードという重、中量武器の中でも特に長い武器をこの間合いで振り回し合う勝負に持ち込む。



 もちろん志那もこの間合いでの勝負には慣れていない。


 しかし志那には用意していた秘策がある。


 これを用いるには絶好の間合いとなるが、懸念点は神楽が対策を即興で編み出せてしまう程に近接戦の練度が高い可能性がある事。



 しかし賭けねばならない。



 「はぁ!?どういう事だ!?」



 懐へと一気に飛び込んできた志那を見て神楽は困惑の声をあげる。



 志那は困惑している神楽へ限りなく距離を詰めた直後、しゃがみ込んだ。



 ハルバードを背中へ納める。



 直後、志那は垂直方向、真上に飛び跳ねる。



 「!?」



 とにかく状況を打開しようと神楽はロングソードを振っていたが、真下で振られたロングソードはその長さ故に地面をガリガリと削るのみで志那へは到達しない。



 跳ね上がる志那。いつの間にか背中へと納められていた筈のハルバードが志那の手へと出現する。



 突如として出現したハルバードは如意棒かのようにその身を伸ばし、切っ先が神楽の顎を貫く。




 伸びる如意棒のような動き。これはエルオンの過去作にかつて存在していた戦術。



 エルオンにおいて、納刀中や装備していない等、相手へとダメージを与えられる状態に無い装備は当たり判定が消失する。



 加えてエルオンで武器を納めたり出したりする動作は現実に比べてタイムラグが少ない。



 もしも当たり判定が消失している状態から急に武器を装備したとしたら?



 武器を装備した志那の手元にはハルバードが呼び出され、先程のように相手目線では急に体へと武器が突き刺さったかのような感覚を与える事が出来る。



 こうして聞けば滅茶苦茶に強い戦術のように聞こえるが、実はそんな事も無い。



 確かに過去作のエルオンにおいて一時期圧倒的な初見殺し技、「如意棒アタック」として環境を席巻したらしいが、当然流行れば対策の研究は進む。



 例えば武器をしまった段階で頭の片隅にこの技が残っている人間は察して即対策を打ち出せてしまう。


 現実と比べてタイムラグが少ないとは言ったものの、武器をしまう→武器を装備の2動作を無防備なままで行うのもリスクが高い。


 因みに対策としてはプレイヤーが対戦相手の足下でしゃがんだ瞬間に蹴りを放てば良いだけである。


 これだけで蹴りのノックバックと体力的アドバンテージが取れてしまう。



 とはいえ初見であったり、戦術を忘れていた等の人間相手であればぶっささる技であるとは思う。



 対リオン選手に用意していたのだが、これを見せてしまった事で古参プレイヤーらしいリオン選手は既にこの戦術を思い出してしまった事だろう。もちろん対策も。


 同じ手はもはや通用しない。



 かつては近接戦をメイン戦術に据える事となる軽量職が主に用いる戦術であったらしいが、応用が効いた。






 神楽の顎を貫いたハルバード。



 クリティカル判定が発動する。



 ハルバード所持時の重騎士のクリティカル率は技無しの通常攻撃でも30%。


 決して低い数字ではない。



 スタンを取られた神楽はその場に倒れ伏す。こうなれば勝負は決まったに等しい。



 余裕を見せず、最低スタン時間を考慮した丁寧な志那の技によって神楽の体力は0へと削りきられる。



 3戦目、志那の勝利。



 * * * 



 3試合目でようやく勝ち取った1勝。


 その後、2戦を神楽へと差し出してしまっていた志那は驚異の猛攻を見せる。



 続く第4試合に志那は勝利。これで2対2。これにより神楽のアドバンテージは消失した。



 とはいえ神楽も猛者。第5試合で第4試合時点の志那の動きへ直ぐさま適応し、志那を下す事に成功する。



 ここで神楽が勝てば試合終了という第6試合。試合開始直後しばらくの間、試合が拮抗。



 ここに至るまでに5戦を重ねてきた二人は互いのクセを見破りつつあった。



 互いに油断無き一手を重ね合い、丁寧な試合が展開されていくが、ここで運良く志那のクリティカルが発動、神楽がスタンする。


 スタンによる猛攻を何とか神楽は耐え抜くが、もはや開ききった体力差は埋められない。



 第6試合に志那が勝利する。 



 これにより、互いが次の試合を取ったら勝ちという状況になった。



 次戦までの待機時間が発生する。志那はクールダウンする為にエルオンをログアウトする。



 既に同タイミングで始まった試合は全て終了している。



 故に試合途中からではあるが、時間の使いどころに困った解説席は志那達2名の試合の解説を始める。

 


 「えぇ……、今マッチの選手は互いに全国大会初出場です。志那選手は環境トップ構成《重騎士ハルバード》。対する神楽選手、こちらも環境構成《戦士ロングソード》。リキさん、どうでしょうか。」



 「そうですね。非常に面白い試合展開をしていると思います。途中からなのでリプレイちょっと倍速で見てみたのですが、ロングソードを棒高跳びに応用したりだとか古の戦術の『如意棒アタック』が出たりしているのが非常に楽しい試合ですね。この志那さん?昔からプレイしていた人なのかなぁ。如意棒アタックとか僕が活躍していた時代の戦術ですからね。」



 はじまリキはそう言って過去、己が競技勢としてエルドラドシリーズの地に立っていた頃の記憶を思い出しているのか、懐かしそうな表情を浮かべる。


 

 「神楽選手のロングソード棒高跳びもかなり衝撃的ですよね。小技として習得が必須になりそうな技術が発見された気がします。」



 「そうですね。ジャンプ時の空中での軌道修正というのは大きな課題だったので。この手法が他の構成でも成立するとなれば間違いなく来季の全国大会でも見る機会が出てくる動きにはなりそうです。」



 そう言ってリキはうむ、と感心の声を上げる。



 「かなり拮抗した試合展開ですよね。構成の対面的にも明確な有利不利は出ていないですし。リキさんはどちらが勝つと思いますか?」


 

 アナウンサーが問う。



 「そうですねぇ、やっぱり……。」

 



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