22 終業式
「じゃあ、充実した夏休みを過ごせよ! 補習と課題のある奴は、死ぬ気で頑張れ!!」
私たちのクラスの若い男性担任が、熱い挨拶でホームルームを締めくくる。
今日は1学期の終業式。それと同時に始まるのは、高校生活最初の夏休みだ。
「ホントに宿題が多過ぎるよ! わかんないときは花に電話するから!」
そう力一杯嘆く亜未ちゃんは、期末テストで数学Aと化学が平均点以下だった。故に、もれなく課題5割増しの刑である。一方で私は逞先輩との勉強の成果もあって、かなり良い順位にくい込むことができていた。
「うん。お手伝いさせてもらうね」
「うう、ありがと……。あ、でも花は夏休み、ウフフなイベントがあるから忙しかったりする? あーあ、花ばっかりズルいっ」
亜未ちゃんの愛情ある冷やかしは、意図せずして、私の心を凍らせた。
どうしたことかテストが終わってから、ずっと先輩に会えていないのだ。交換日記をもっているのは先輩の方で、夏祭りの待ち合わせもまだ決まっていない。
つまりは今、私の恋に黄色信号が灯っていた。
(当然のように「また会える」と思い込んでいたけど、よく考えてみれば、そんな簡単なことじゃないんだよね……はぁ……)
一期一会を実感し、私は不安にうつ向いた。
私たちは携帯電話の番号はおろか、メアドも緑色のアプリのIDも交換していない。先輩の家は知っているが、だからと言って付き合ってもいない立場で、自宅に突撃する度胸もなくて。
そんな「無い無い」尽くしの初恋に、明るい未来があるとは思えなかった。
「花?」
ハッとして顔を上げれば、亜未ちゃんの心配そうな顔が覗いていた。私は慌てて急拵えの笑顔を貼りつける。
「ごめんごめん。何でもないよ、大丈夫!」
「……本当?」
「うん。先輩とテスト前からずっと会えていないから、さみしくなっただけ」
「そっか」
亜未ちゃんは私の心情を慮ってくれたのか、それ以上何も言わなかった。
大きな窓から降り注ぐ真夏の日射し。それが窓際の私の席に、短い影を落としていた。私という形が黒く切り取られて机に残る。
明るい夏に置き去りにされ、私だけが暗くて冷たい海の底に沈められていくようだった。
その後、亜未ちゃんは課題を受け取るために職員室に立ち寄った。
他の生徒たちから少し遅れた下校時間。
気持ちのままに重くなりがちな足取りで、亜未ちゃんと一緒に校門に向かう。
「あ、あの人かっこいい!」
「え」
「ほら、校門のとこにいる人!」
亜未ちゃんの華やいだ声がして、反射的に顔を上げた。
爽やかな短髪に、精悍で端整な顔立ち。日に焼けた健康的な肌にスラリとした長身。服の上からでもわかるしなやかな身体。あれは……。
「逞先輩!」
恋する相手を見つけた刹那、私の心はときめきに浮き立った。
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